32 青柳さんの誕生日②

「青柳さん……、ちょっといいですか?」

「うん? どうしたの?」


 一緒にお昼を食べた後、ついにこの時間が来た。

 青柳さんにプレゼントを渡す時間が。

 とはいえ、女子にプレゼントだなんて……生まれて初めてだ。美波にプレゼントする時と空気が違う。ただ、プレゼントを渡すだけなのに……、いろんな考えが頭を過ぎる。さっきからずっと緊張していた。


 そして、ソファで「落ち着けぇ」とずっとその言葉を繰り返す。


「えっと……、誕生日おめでとうございます……。これは……プレゼント……です」

「プレゼント! 私に!?」

「は、はい……」

「あ、開けてもいい?」

「…………はい」

「おお! ピアスだ! 好き!!!!!」


 ピアスを見て、すごく喜んでいる青柳さん。

 その顔……、心臓によくないですよ。そして、ただのピアスなのにそんな大きい声で「好き」って言う必要あるのかな。すごく恥ずかしい。俺は美波に言われた通り花ピアスを選んだだけだからさ。


 でも、次は……自分で選んでみよう。

 その次が来るのかどうかは分からないけど……。


「千春くん、私がピアス好きだったの知ってたんだ……!」

「は、はい……。青柳さん、しょっちゅうピアスしてましたから……。あはは……」

「私の耳……ずっと見てた?」

「えっ? あっ、ああ……。たまたまです!」

「エッチ……。ふふっ」

「ええ……」

「ねえねえ、今ここで付けるから見てて」

「は、はい……!」

「あっ、スマホ持ってくれない?」

「は、はい!」


 横顔も……めっちゃ可愛いじゃん。

 そして、俺と目が合った時……、さりげなく笑ってくれる青柳さんだった。

 その目笑、やばすぎる!


「どー?! 可愛い」

「か、可愛いです……」

「ありがと! ねえ、ハグしよっか!」

「そ、それは勘弁してください……」

「ええ! 今日は……私の誕生日なのに……、やってくれないの?」

「…………っ! またぁ……! わ、分かりました! ハグしましょう! しますから!」


 いや、誕生日ってそんなに強い単語だったなのかよぉ……。

 これは全部美波のせいだ。幼い頃に女の子の誕生日は特別な日だから優しくしてあげないといけないとか、何があっても相手の話はちゃんと聞いてあげないといけないとか、そんな出鱈目なことを俺に叩き込んだからさ。思い返せば、全部自分が楽になるためだったと思う。


 俺の人生……、可哀想。


「来て!」

「えっ? 俺の方から行くんですか?」

「当たり前でしょ? そっちの方がドキドキして面白そうだからね〜♡」

「…………」

「早く! 今日は私の誕生日だから〜」

「まったく…………、ちょっとだけですから!」

「は〜い」


 緊張しないように深呼吸する。よっし、効果なし!

 そのまま青柳さんの体を抱きしめてあげた。こうなったら、一か八かだ……!

 そして、青柳さんのいい香りとその温もりに……。俺は恥ずかしくてすぐその場から逃げたかった。頭の中にはそれしか入っていなかった。


 なのに……! 俺のぎゅっと抱きしめて離してくれない…………。

 もういいんじゃね? これで……、いいんじゃね? 十分だと思うけど!


「はあ……♡ 千春くんの心臓めっちゃドキドキしてる。どうしてこんなにドキドキするのかな? 教えてぇ……」

「わ、分かりません。恥ずかしいから聞かないでください……!」

「どうして? うん?」


 耳元から聞こえるその声がエロい、それに相手が可愛い青柳さんだったからもっとエロく感じられる。俺は……、知らないうちに変態になってしまったのか……? そして、青柳さんの体……前にもそうだった気がするけど、めっちゃ柔らかい……。


 ダメだ、我慢できなくなる。


「…………」


 死にたい……、女子とこんなスキンシップやったことないから……。

 さっきからバカみたいなことばかり考えている。

 ごめんなさい……、青柳さん。俺は……変態だったかもしれません。


「はな、離してください……。こ、これで十分です……!」

「えへへっ、照れてるぅ!!!!! 超可愛い!!!!! 千春くん、耳が真っ赤になってるよ!」

「…………は、離してくれないと……。家に帰ります」

「…………えっ?」


 すぐ離してくれた。


「ひん…………。ちょっとからかっただけなのに、そんなひどいことを……! 千春くんのこと大嫌い!!!!!」

「あっ」


 そして、すぐ泣き出す青柳さん。

 や、やらかしたぁ……! まさか、あれを言い出しただけですぐ泣くとは……。


「えーん、私は……千春くんのことが可愛くてからかっただけなのに……、一緒にいてくれるって言ったくせに…………。また……、そんなこと言ってる……。一緒にいてよぉ……」

「す、すみません……。は、は、恥ずかしくて……! だって、俺……今まで彼女できたことないから! 青柳さんを抱きしめると恥ずかしいんですよ! そして、ちゃんとちょっとだけって言ったのに!」

「知らない! 知らない! 私はずっと千春くんを抱きしめたい!!!!! このバカァ!!!!!」

「は、はい……。すみません……。許してください。青柳さん」

「じゃあ、今日は何があっても私に従うんだよ……! 分かった?」


 小春は「チャンス」を得た。


「はい……。分かりました」

「ひひっ♡ じゃあ、特別に許してあげる〜」


 そして、千春は「罠」に引っかかったことに気づいた。


「なんですかそれ……! 俺、騙されたんですかぁ!」

「ええ。だって、私を泣かせたから……。ちゃんと責任を取らないと! へへっ」

「…………はい」


 なんか、青柳さんという沼にだんだんハマっていくような気がする。


「ねえ、千春くん……」

「はい?」

「私、このピアス大事にするからね……! あ、ありがと!」

「あっ、は、はい……」

「へへっ♡」


 やっぱり、青柳さんの笑顔は可愛い。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る