31 青柳さんの誕生日

 結局、あの日が来てしまった……。青柳さんの誕生日。

 美波のおかげで誕生日プレゼントはすぐ用意したけど、本当に俺一人で青柳さんの家に行かないといけないのか? 女子一人の家に男の俺が行ってもいいのか? もちろん! 俺は青柳さんの家で寝たことあるけど、それでも……、心に引っかかるんだよ!


 落ち着かない……。


 ぶつぶつ言いながら青柳さんの家に着いたけど、本当にどうしよう。

 そうだ。美波を呼ぼう!


(千春)一緒に行こう、美波。俺……一人じゃ緊張するから!

(美波)はあ? 私、忙しいんだから一人で行け。


 というわけで、ベルを押す———。


「千春く———ん!!!!! 待ってたよ!!!!!」


 ———前に青柳さんが家から出てきた。


「は、はい……。お、遅くなってすみません…………」

「えへっ」


 今日は……二人きりで誕生日パーティーをするって言われたけど、なんでそんなにオシャレしてるんだろう。メイクも髪型も服装も完璧すぎて、目が合っただけなのにすごく恥ずかしい。今日も可愛すぎる青柳さんだった。


 眩しいっ———!


「上がって、上がって!」


 手首を掴んですぐ家に連れて行く青柳さん、今日もテンションが高いね。

 誕生日だから当たり前か。


「あっ、青柳さん! これ……。誕生日ケーキです!」

「ケーキ!!!!! 好き!!!!!」

「私……! お昼作っておいたけど、一緒に食べる? 今日は……千春くんが来るから頑張って作ってみたよ!」

「は、はい!」


 てか、今日は青柳さんの誕生日なのに……。

 どうして、俺のために料理を作ってくれたんだろう。その顔を見て……、何もできない俺はすごい負担を感じていた。俺はケーキとプレゼントしか用意しなかったからさ。


 どうしよう……。


「千春くん? どうしたの?」

「い、いいえ……! 今日は青柳さんの誕生日なのに……、なんで俺がこんな美味しい料理を食べてるのかなと思って……。あはは……」

「ええ、そんなことないよ。確かに今日は私の誕生日だけど、千春くんと一緒にいたいからね……! たくさん作っちゃった!!! いっぱい食べて! 私のために!」

「は、はい……」


 目の前のステーキ……、めっちゃ美味しそう。

 青柳さんは本当に料理上手だな。俺はこんなの絶対作れないから……。

 確かに……高校に入ったばかりの頃、一度美波のために作ったことあるけど、めっちゃ怒られたよな。俺……。


「あ、千春くん。ビール飲む?」

「えっ? 俺、高校生ですけど……?」

「あはははっ、うっかりした。えへっ!」

「待ってください! 青柳さん!」

「うん?」

「まさか、昼間からビールを飲むんですか?」

「そうだけど? どうしたの?」

「ダメです! それだけは絶対ダメ!」

「ええ……。でも、せっかくだし…………! 少しだけ! 少しだけぇ〜」


 この状況で青柳さんがビールを飲んだら……、今日家に帰れないかもしれない。

 なぜかそんな気がした。


「私ビール飲みたい!」

「ダメです!」

「じゃあ、ビール飲まないから今日はうちに泊まって!」


 小春は「凄まじい提案」を覚えた。


「…………」


 その話は、つまり……。酔っ払った青柳さんと一緒にいるのか、あるいは酔っ払ってない青柳さんと一緒にいるのかだよな? 一緒じゃね? それに今日は青柳さんの誕生日だから断るのもできないし、どっちも一緒なら俺は酔っ払ってない青柳さんを選ぶ。


 千春は決めた。


「分かりました。その代わりに今日はビール禁止です!」

「うん!!!」


 そう言いながらさりげなく俺のそばに座る青柳さんだった。

 そして、笑みを浮かべながらステーキを切る。


「あーん」

「一人で食べますから……、向こうに座ってくださいよ!」

「今日は……、…………」


 小春は美波に教わったあの「言葉」を使った。


「……わ、分かりました」

「本当だぁ……」

「えっ? 何がですか?」

「ううん! なんでもない! えへへっ」


 なんか、今の顔……ちょっとムカつくけど…………?


「今日ね……! お昼を食べた後、部屋を真っ暗にして千春くんと一緒にホラー映画を観たい。どー?」

「真っ暗にする必要あるんですか? 目が悪くなりますよ? 青柳さん」

「そういうのは雰囲気が大事なんだから!!! むっ!」

「あはは……。いいですね。観ましょう、ホラー映画」

「その後……、一緒にケーキを食べて! その後……、一緒にゲームをして! その後は……! 一緒に———」

「ま、待ってください! 今日、夜更かしするつもりですか……?」

「うん! だって! 今日は私のだから! 一緒に夜更かししてくれるよね〜? 千春くん」


 なぜか、誕生日ってことを強調してるような気がする…………。

 でも、誕生日だから……仕方がない。今日の主人公は青柳さんだからさ……。


「えへへっ」

「はいはい。分かりましたぁ〜」

「やったー! ふふふっ」


 待って、これ……以前どっかで聞いたことありそうな気がするけど……。

 あ、そっか。

 ふと思い出した幼い頃の記憶……。そう、美波だ。


「青柳さん……」

「うん?」

「美波に……何か言われましたよね?」

「えっ!? え、えっと…………。何も言われてないし、私は……変なことしてないし……」

「こっちを見て話してください」

「は、恥ずかしいから! や、やめてぇ……」

「ええ……。じゃあ、お昼食べた後帰ろうかな……」

「きょ、今日は何があっても私と一緒にいるのよ! 分かった!? 何があっても一緒にいるのよ! そうじゃないと、私! 今からビールを飲む!!!」


 いきなり声を上げる青柳さんに、精一杯笑いを我慢していた。

 てか、今日はビール飲まないって……。


「ううぅ……」

「はいはい。すみません、さっきのは冗談ですよ。そんな顔しないでください」

「意地悪い……、千春くん」

「あはは……」

「ふん!」


 そして、青柳さんに頭突きされる俺だった。

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