30 二人の朝

 あの千春ももう高校三年生か……、時間が経つの本当に早いね。

 ついこの間までチビだった気がするけど、まさか……小春の誕生日プレゼントを買うために早起きするとはね。驚いた……。鈍感すぎて私がアドバイスをしてあげてもダメだったあのバカが、こんなに成長するなんて。褒めてあげたいけど……、千春はまだまだだからもっと頑張る必要がある。


 それだけじゃ一ミリも進まないんだよ。バカたち。


「ううん……。おはよー」


 そして、もう一人のバカが起きた。


「小春」

「うん?」


 でもね、小春のこと可愛くないのか? 千春。

 もちろん、少し……だらしないところもあるけど、それでも私が男だったらすぐ小春と付き合ったと思う。めっちゃ可愛いし、バカだからね。小春の恋愛観についてはいろいろ口出ししたいけど、話したらきっと泣きながら「ごめんなさい」って言うはずだから諦めた。


 今はあのクソ男と別れて、いつもの小春に戻ってきたからそれでいいと思う。


「なんで、シャツだけなの?」

「ふ、不便だから……」

「ここは小春の家じゃないよ? そして、千春もいるから注意して。そんなだらしない格好をして千春のそばで寝てたの? まったく……」

「はい……。すみません」


 朝から弟の大きいシャツを着て、弟の寝床で起きた小春に私は何を言ってあげればいいのか……ちょっとだけ考えてみた。

 その前に、パンツ丸見えになってるけど。


「待って、小春」

「うん?」


 今まで見たことない色の下着を履いている。


「み、美波……? えっと、私……恥ずかしいんだけど……? や、やめて……!」

「小春、この下着は何? こういうの好きじゃないんでしょ?」

「こ、これは……。その…………」

「千春の好みだね」


 正解だったのか、小春には可愛い癖がある。

 それは緊張した時にすぐ私から目を逸らすこと。目を逸らすだけなら気づきにくいかもしれないけど、小春は目を逸らして自分の指をいじる。嘘などがバレた時に、必ずその癖が出るからね。


 本当に可愛い。


「だから、浴衣も下着と同じ色に———」

「…………っ!」


 何? 恥ずかしいの? あの小春が私の口を塞ぐようなことをするなんて。

 しかも、朝から顔が真っ赤になってるじゃん。

 うわぁ、私が男だったらこの場で食べちゃったかもしれない。体も細いし、力ずくで倒したらどんな反応をするのかな。なんか、面白くなってきた。


「み、美波…………。恥ずかしいよ…………」


 でも、小春……大学にいる男たちには何も言えないくせに……。

 どうして、さりげなく千春のそばで寝るんだろう。千春なら大丈夫ってことかな?


「み、美波……! じっと下着を見るのは禁止!!!」

「はいはい。で、小春またでかくなったの?」

「えっ? そ、そうかな? そ、そんなことより! 美波! 大変だよ!」

「どうしたの?」

「千春くんが消えてしまった! 朝の五時までちゃんと私のそばにいたのに、起きたら消えてしまったよ! どうしよう!」

「いや……、ううん」


 プレゼントを買いに行ったとは言えないから、適当に誤魔化すつもりだったけど、すごいスピードで千春にラ〇ンを送る小春だった。

 そして、笑みを浮かべる小春。


「返事きたの?」

「うん! 今、ランニングしてるって!」

「へえ、そうなんだ」


 なんか……、千春と連絡をする時はいつもよりテンションが上がってるような気がする。それに……さっきからずっとスマホばかりいじってるし、恋に落ちた乙女の顔をしている。


 まったく…………。


「そんなに好きなのか? 小春?」

「うん!!! そして、昨日おんぶしてくれたし……♡ キャー! どうしよう、またおんぶされたい!!!」

「そ、そうか?」

「それにね! 千春くんがね!!! 私が心配するようなことは絶対しないって、そう言ってくれたの!」


 ふーん、昨日外であの話をしたのか……。意外とやるね。


「よかったね、小春」

「へへっ」

「で、私聞きたいことがあるけど、いいかな?」

「うん!」

「千春のどこが好きなの?」

「カッコいいし、優しいし、私の話ならなんでも聞いてくれるのが好き!」

「へえ……、二人っきりの時はそんな感じなんだ」

「美波といる時は? どんな感じなの?」

「私と一緒にいる時……」


 目の前にあるリモコンを取ってくれたり、寝る時に電気を消してくれたり、冷蔵庫の中からプリンを取ってくれる……、便利な弟……。と言ったら小春傷つくかもしれないから、適当に誤魔化すことにした。


 思い返せば、めっちゃ便利だった気がする。

 やっぱり、一人暮らしは大学を卒業した後にするべきだった。


「優しいよね……。やっぱり」

「そうだよね! へへっ」


 私はちゃんと褒めたよ、千春。


「あっ、私も……その……聞きたいことがあるけど」

「うん?」

「千春くんって、美波のこと美波って呼んでるよね?」

「そうだけど? それがどうした?」

「私のことも……小春って呼んでほしいけど、頼んでみたら呼んでくれるのかな?」

「…………」


 俯いて指をいじる小春に、私は精一杯笑いを我慢していた。

 うわぁ、そうだったの? 下の名前で呼んでほしかったんだ〜。残念だな、千春。

 この可愛い姿が見られないなんて。


「ど、どう思う? 私もね、美波みたいに……。小春って呼ばれたいよぉ……」

「た、た、た……ケホッ! 頼んでみ、みれば?」


 なんで、そんな可哀想な顔をして私に聞くの……? 笑いが出ちゃうじゃん。

 やめてぇ。


「ねえ、小春って呼んでくれる可能性はどれくらいだと思う!? 美波!」

「えっ? えっと……、多分すぐ呼んでくれると思うよ。千春が帰ってきたら頼んでみて」

「うん! 声かけてみる!」 

「その前に……いつまでそんな格好でいるつもり? 千春に、私今日紫色のパンツ履いたよって教えてあげたいの? 小春」

「わ、分かったよ! ズボン履くから…………」


 やっぱり……、だらしないね。小春は。

 まあ、そういうところも可愛いから私はいいけど……、千春はもっと頑張らないといけないね。最近、あの二人を見るとなんか楽しい。二人ともバカだし、いつ付き合うのかそれを見守るのも面白いから、揶揄う甲斐がある。


「朝ご飯食べよう。小春、手伝って」

「うん!!!」

「あ、そうだ。小春」

「うん?」

「いいこと教えてあげようか? これを言ったら千春は絶対小春の話に逆らえないからね」

「うん!!!!! 教えて!!!!!」


 ふふっ、楽しいね。

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