29 誕生日プレゼントは難しい

「ああ、うん……。後で連絡するつもりだったけど、まさか……そこで河野と会えるとは思わなかったからさ」

「そうなんだ……。仕方がないな、分かった! 俺たちももうお前の話はしないからさ。頑張れ、千春。俺は二人のこと応援してるぞ?」

「二人? 誰?」

「青柳さんに決まってるんだろ?」

「んなことできるわけねぇだろ、うるせぇ」


 そして、翌日の朝。俺は涼太に電話をして、河野の話をした。

 先に言っておかないとまた面倒臭いことが起こりそうで、はっきり言っておくしかなかった。でも、河野大丈夫かな。一応、ごめんって言ったけど……、何も言わずすぐ戻ってしまったからさ。


 まあ、いいだろ。今はそんなことより青柳さんのプレゼントを買わないと。


「じゃあ、切るぞ」

「なんだ。お前、今日予定あるのか?」

「ないけど」

「じゃあ、俺も連れて行ってくれ〜」

「嫌だ。ゆっくり選びたいから」

「なになに!? プレゼントでも買うのか!? なになに!? おいおい、早く答えてくれぇ! 気になる!」

「…………」


 あ、ミスった……。

 こいつ……絶対ついてくるから適当に誤魔化すべきだったのに……。でも、涼太はセンスがいいから……、少しは役に立つかもしれない。とはいえ、それが青柳さんのプレゼントってことをバレたくないから適当に誤魔化すしかないよな。


 ついてくると面倒臭くなるのは俺だ……。


「いや、俺の服を買いに行くだけだ」

「いや……、それはねぇだろ。お前が服を買うなんて……、俺のことをなんだと思ってんだよ! 千春が服なんか買うわけねぇだろ! お前と過ごした俺の二年を無視するんじゃねぇよ」

「…………」

「答えろ! 誰のプレゼントだぁ! 千春!」


 鋭い。こんな時にだけ。

 こうなったら必殺技か……? やっぱり、あれしかないのか?


「あっ、何? 聞こえなーい。電波悪い〜。ごめん、後で連絡するから」

「おい———っ」


 何気なく、電話を切った。ごめん……。


(涼太)ひどーい!

(千春)寝る。

(涼太)おい!


 さて、涼太には話しておいたし……、次はこれか…………。


「ううん……。いちごパフェ……」


 どうして、俺のそばで寝ているのか分からない。

 昨夜……、美波と部屋に入るのを見たのに……、朝起きたら俺のそばで俺の枕を抱きしめている青柳さんだった。一体、寝ているうちに何が起こったんだろう。分からない、後で美波に聞いてみよう。


 まずは青柳さんに布団をかけてあげた後、出かける準備をした。


「あれ? 美波、起きたのか?」


 そして、部屋から出てくる美波。


「おはよ……。で、小春どこにいるのか知ってる?」

「青柳さんなら居間で寝てるけど、どうした?」

「昨日、トイレ行ってくるって言っておいて……戻ってこないと思ったら、そこで寝ていたのか? まったく……」

「マジかよ、朝起きたら青柳さんがすぐそばにいてびっくりしたぞ」

「あんた……。小春に変なことしてないよね?」

「はあ〜? そんなことをするわけないだろ? てか、俺もそばで寝てるとは思わなかったから……」

「ふーん。小春はバカだから、千春がもっとしっかりしろ。分かった? あのバカ流されやすいからね」

「へえ……」

「分かった?」

「はいはい。分かりました〜」


 でも、朝から青柳さんの寝顔がめっちゃ可愛くて、美波の話うっかりしちゃった。

 それにプレゼントのこともあるし、頭の中が複雑になっている。


「…………」


 どうすればいいんだろう。俺……、青柳さんの好きなもの全然知らないからさ。美波に聞くのが一番早いけど、そうしたらすぐ青柳さんに話すかもしれないから迷っていた。


 なぜか信頼できない姉、高川美波。


「なんだよ、朝から」

「いや、なんでもない」

「そういえば、あんたどこ行くの? こんな朝から」

「気にしなくてもいい。友達と約束〜」

「ふっ。あっ、そういえば……。小春……、花ピアスが欲しいって言ってた気がするけど……」

「何?!」


 なんだ……!? 俺の考えが読まれたのか!?

 なぜ、このタイミングであれを言い出すんだろう。


「千春……、朝からショッピングモールに行って小春の誕生日プレゼントを選ぶつもりだったんでしょ?」

「…………バレたのか?」

「そんなことより、誕生日知ってたんだ……? てっきり私に聞くと思ってたけど」

「そ、それは…………。あはは……」

「千春のそういうところ、私は嫌いじゃない。誕生日の日は二人っきりで過ごすんでしょ?」

「…………」


 そこまで知ってたのか? 美波……。


「安心して、今のことは小春に話さないから。そして、私も知りたくなかったけど、小春……顔に全部出てるからね」

「確かに……、それは否定できないな」

「それより、あんたお金は?」

「俺をなんだと思ってんだ! 俺は美波に小学と中学合わせて6年以上……、お金を大事にしろって言われてきたぞ! お金なら……、ちゃんと用意した。それに、バイトもしてるし。後は……、プレゼントを買うだけだ」


 小学生の頃から、なぜか俺にだけ厳しかったからさ。美波。

 お母さんより厳しい姉……。


「確かに……、あんた自分の服すら買わない人だからね」

「ええ、彼女もいないのに……。そんなにオシャレする必要あんなのか? 美波」

「私はともかく、小春と出かける時はオシャレした方と思うけど?」

「……う、うるせぇ! そ、それは俺がなんとかするから!」

「ふーん。いってらっしゃい〜」

「しかとかよ!」

「ふふっ。早く行かないと、小春起こすよ?」

「い、行ってきます!」


 千春が出た後、一人でくすくすと笑う美波だった。


「青春だね」

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