28 三人でお祭り③

「小春……。大学生になって高校生におんぶされるなんて、恥ずかしくないの?」

「べ、別に……! こ、これは……仕方がないことだから! だよね? 千春くん」

「そ、そうですね……。鼻緒ずれがひどいから、そのままずっと歩くのは無理だよ。美波」

「なんか、嬉しそうに見えるけど? 二人とも」

「え、えっ!?」

「ち、違う……!」


 一緒に花火大会を見た後、さりげなく青柳さんをおんぶしてあげた。

 鼻緒ずれがひどくて、そのままずっと歩いたら綺麗な足に傷ができてしまう。だから、男の俺がおんぶしてあげるしかない。でも、モデルの仕事をしてるからかは分からないけど、青柳さんめっちゃ軽くてびっくりした。


 ご飯、ちゃんと食べてるのかな……?


「花火……綺麗だったよね? 千春くん」

「そうですね」

「また……、一緒に見たい」

「いいですよ〜。俺も青柳さんと花火見るの好きです…………」

「じゃあ、来週もやってるみたいだから……。見に行こう! 千春くん!」

「それ……来年の話じゃなかったんですか?」

「だって、惜しいじゃん! 他のところで花火大会やってるから〜」


 花火を見る時はテンションが下がってたけど……、今はいつもの青柳さんに戻ってきた。でも、なぜそんなに震えていたのかは分からない。余計なことを話してまた落ち込んだら困るし、いつもの青柳さんでいてくれるならそれでいいと思っていた。


 てか、女子をおんぶするのも初めてだ。

 今更だけど、青柳さんの恥ずかしいところが触れていて変なことを考えないように必死に耐えている。

 なのに、後ろからぎゅっと抱きしめる青柳さんだった。


 ……


「じゃあ、俺は……コンビニに行ってくるから先に入って」

「千春、私お菓子とアイスが食べたいから買ってきて。頼む」

「分かった。青柳さんは何食べます?」

「一緒に……、行きたい! 他の靴に履き替えて、もう少し千春くんと歩きたい」

「は、はい……」


 というわけで、俺は今……青柳さんと薄暗い道を歩いている。

 そして、さりげなく手を繋いだ。もはや癖になっているかもしれない……。二人っきりの時はいつも手を繋いでたから、そうなると思っていた……。でも、今日はその浴衣姿がとても可愛くてさっきからずっと青柳さんから目を逸らしている。


 可愛すぎ……。


「千春くん、今日は……いろいろありがと…………。私のこと気遣ってくれて」

「いいえ、当たり前のことですよ。青柳さんの悲しい顔……見たくないから」

「ねえ…………。私も……、アイス食べたい」


 と、言いながら頭突きをする青柳さんだった。

 いつもの青柳さんだな。


「夏はやっぱりアイスですよね〜」

「そうだね〜」


 アイスを食べながら家に帰る二人。

 そして、急に立ち止まる青柳さん。


「どうしましたか?」

「ねえ、千春くんは……、あの子と付き合うの?」

「えっ? どうしてそう思うんですか?」

「だって……! あ、あの子可愛かったじゃん……!」

「あははっ。もしかして、それを心配してたんですか? 青柳さん」

「うん……」

「でも、俺……河野の話断りましたよ? そして、青柳さんが心配するようなことはしません」

「…………」


 まあ、俺も河野と付き合う気ないし。そして、美波が……青柳さんのことを俺に任せたからさ。俺以外頼れる人もなさそうだし、俺も青柳さんと一緒にいるの好きだから……この関係は多分続くと思う。青柳さんが好きな人を見つけて、また普通の恋ができるまで、そばにいてあげることにした。


 それが俺の役割だと思う。


「私、腕組みたーい」

「はいはい」

「ふふっ。そのアイス美味しい?」

「はい」

「あーん」

「ダメです。食べかけのアイスを食べさせるわけには———」

「はむっ」


 あ、取られちゃった。


「ううん……。美味しい!」

「よ、よかったですね」


 まったく……、こんな可愛い人と付き合ったくせに、浮気などをするなんて。

 あいつには絶対天罰が下るはずだ。


「へへへっ、私のいちご味だけど、食べる?」

「い、いいえ。いいです……」

「食べて!」


 断っても無駄か。

 じっと俺の方を見てるし、拒否権はなかった……。


「はいはい」

「あーん」


 口をつけたところを食べた俺は、すごく恥ずかしくてどんな味なのか忘れてしまった。

 食べたばかりなのに———。


「美味しい?」

「は、はい! いちご味も美味しいですね」


 冷たい何かだった。


「そういえば……青柳さん」

「うん?」

「そろそろ青柳さんの誕生日ですよね?」

「あっ! 私の誕生日知ってたの!? 千春くん……」

「三日後……、ですよね?」

「うん! 覚えていたんだ! へへっ」


 よっしゃ! 俺の記憶は間違っていなかった。

 やっぱり、俺は……天才だったのか? 俺も俺の才能が怖い…………。よっし!


「…………」


 拳を握って謎のポーズをとる千春を、じっと見つめる小春だった。

 なんか面白そうに見えてくすくすと笑う。


「千春くん?」

「は、はい?」

「な、何してるの?」

「な、なんでもないです。恥ずかしいから聞かないでください……」

「じゃあ、その代わりに私の誕生日になったら丸一日一緒にいてくれるない……? ふふっ」

「か、考えてみます」

「そこは『はい』でしょ! むっ!!!」


 そう言いながら背中を叩く青柳さん。

 せっかくの誕生日なのに俺と丸一日一緒に過ごすのは惜しいと思うけど、「分かりました」と答えないと家に着くまで叩かれそうだ。

 実際、黙っていたらずっと背中叩かれてるし……。ひどーい。


「ス、ストップ! 青柳さん……」

「一緒! 私の誕生日だから、私の話を聞くのよ! そういう約束だよ!」


 そんな約束してないし、俺は誕生日を聞いただけですけどぉ……。

 でも、仕方ないよな。


「はいはい。分かりました……。じゃあ、三日後美波の家に行きます」

「違う。千春くんはうちに来るの」

「えっ? 美波は?」

「美波は……、その前日に祝ってもらうからね! とにかく、千春くんはうちに来て約束だよ?」


 なんだそれ……。別に構わないけど、そうなると本当に二人っきりになるじゃん。


「約束! 指切りして!」

「は、はい…………」


 ……


「ただいま……」

「お帰り千春。うん? お菓子は?」

「あっ」

「あっ!」


 うっかりした。


「デートは楽しかったですかぁ? あはははは……」

「い、行ってくるから! 今すぐ行ってくるから……! 待ってくれ、全力で走るからぁ!」


 そう言ってすぐ家を出る俺だった。


「えへへっ、千春くんうっかりしたってぇ……」

「…………」

「ごめんなさい。全部私のせいです…………。許してください…………」


 美波の怒りを我慢している顔を見て、すぐ尻尾を巻く小春だった。

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