27 三人でお祭り②

 花火会場からけっこう離れたような気がするけど、河野はどうして俺をこんなところに連れてきたんだろう。その話って、あの二人の前では言えないことなのか? そんなことより、青柳さんめっちゃテンション下がってたよな。俺は河野の話より青柳さんの方をもっと心配していた。


 そばで寝落ちした時、「花火見たい……」って寝言を言ってたからさ。

 そして、誰もこないと思ってたのに、まさか知り合いとばったり会うなんて。


「あの……、河野。話って……、何?」

「…………」

「えっと……、もしすぐ言えないことなら……。夏休みが終わった後———」

「ねえ! 高川くんってあの人と付き合ってるの?」

「えっ?」

「あの……、可愛い人と付き合ってるの?」

「えっと……、付き合ってないけど? ど、どうした?」

「じゃあ、どうして……いつもくっついてるの? 付き合ってないのに、女子とくっつくなんて……」


 ふと、涼太に言われたことを思い出した。

 それ……、夏休みが終わる前に答えるつもりだったけど、まさか本人とお祭りで会うとは思わなかった。河野は可愛い女の子だ。それは否定できない。でも、どうしてそんな可愛い女の子が俺と青柳さんの関係を聞くんだろう。


 こういうの初めてだからどうすればいいのか分からなかった。

 涼太の話通りなら……、多分河野は俺に興味を持ってるかもしれない。だから、好きな人を聞いたんだろ? 清水に…………。あの二人にも一応「ない」って答えたけど、俺も……自分がどうしたいのか分からない。


 高校三年生になるまで、恋とか……考えたことないし。

 ずっと青柳さんだけだったからさ。


「私は……、自分で考えてもいい女の子だと思う! 高川くん!」

「う、うん……。河野はいい女の子だよ?」

「だから、私のこと……見てほしい」

「…………河野は……、俺のこと好きなのか?」


 こうなったら本人に直接言うしかない。


「う、うん…………」

「えっと……、俺たち……その……。今まで全然話したことないのに、どうして?」

「ずっと好きだったけど、同じクラスにならなかったから……。声をかけるチャンスすらなかったから、その時……偶然ほのかちゃんと仲良くなって……。一緒に海行きたいって……声をかけたよ……」

「そうなんだ……」

「か、彼女欲しいんでしょ? 宇田川くんも……、そう言ってたし…………」


 河野は本当に優しくて可愛い女の子だ。

 そんな人に好かれたのはマジで幸運だと思う。でも、俺は河野の気持ちを受け入れられない。今は……青柳さんのそばにいるだけで十分だし、彼女とか考えたこともないからさ。涼太がいつも俺の前でイチャイチャして、衝動的に彼女が欲しいって言ったのは事実だけど、本気で言ったわけじゃないから困る。


 そして、この感情をどう説明すればいいのか分からない。

 今まで青柳さん以外の人を好きになったことないし、誰かに好かれたこともないから、こんな時にどうすればいいのか全然分からなかった。少なくとも……、涼太みたいな人だったら適当に誤魔化したかもしれないのに、素直に話すこと以外の方法が思いつかない。


「ごめん……。俺、好きな人がいる。誰にも言ったことないけど、いるから……。ごめんね」

「…………」


 河野は何も言わず、その場を立ち去った。

 そして、俺は花火大会が始まる一分前……ギリギリ二人のところに戻ってきた。

 美波のそばで膝を抱えている青柳さん。でも、俺は彼女のそばに座らなかった。河野の話はほぼ告白に近い話だったから、他人の気持ちを断るのは俺にすごく難しいことだった。それに青柳さんに何を言ったらいいのか分からないし、苦しい。


 俺は断っただけなのに、すごい罪悪感を感じている。

 それで頭の中が複雑になっていた。


「…………」


 真っ暗な空「ヒュー」と花火を打ち上げる音がしたけど、俺は何もできずその場でじっとしていた。

 そして、すごい音とともに綺麗な花火が空を埋め尽くす。


「千春」

「うん?」

「そこで何してんの? こっち来い」

「うん」


 美波のそばに座ると、なぜかデコピンされる俺…………。

 何もしてないのに、どうしていつもデコピンするだろう。


「…………」


 そして、俺のそばに座る青柳さんが袖を掴んだ。


「あの子と……何話したの?」

「…………何も話してませんよ?」

「嘘……! 何も話してないなら、どうしてあんな悲しい顔をするの? 私が知ってる千春くんはあんな顔しないよ……?」

「そうですね。どうやら、知らないうちに河野に好かれたみたいです」

「…………」


 すると、両手で俺の腕を掴む青柳さんだった。

 でも、腕を掴んでる青柳さんの両手がすごく震えている。どうしたんだろう。何も言わずそのままじっとしているから、俺もどうしたらいいのか分からなかった。青柳さんはなぜそんなに震えてるんだろう。


 何も言わないから分からない。

 そして、美波……さっきからずっと花火を見てて役に立たない……!

 少しは手伝ってくれぇ……。


「…………」


 いや、青柳さん……涙を流してるじゃん……。


「あ、青柳さん?」

「うん……」

「泣かないでください。可愛い顔が涙まみれになります…………」

「うん……」


 まったく……、なんで泣いてるのか話してくれたらいいのにな。

 やっぱり、女子は難しい。

 こういう時は…………、美波!


「…………」


 ずっと花火見てんじゃん!!!!!


「青柳さん……? 泣かないで一緒に花火見ましょう」


 頬を伝う大粒の涙を拭いてあげると、その大きい瞳が俺を見ていた。

 何が問題だろうな。


「うん……」

「はい……。せっかく、ここまで来たし。綺麗な花火を見ましょう、一緒に」

「うん……」

「俺も……、久しぶりに青柳さんと花火見たかったんですよ」

「そう……?」

「綺麗な青柳さんと綺麗な花火を見るなんて……、テンション上がります!」


 千春の話を聞いて、精一杯笑いを我慢する美波だった。


「…………」


 何も言わず、手を繋ぐ青柳さんがそっと俺の肩に頭を乗せる。

 でも、今度は手を握るだけじゃなくて、こっそり指を絡めてきた。ぎゅっと……、力を入れてさ。


 そして、久しぶりに見たあの花火はとても綺麗で一つ大切な思い出ができた。

 今日のことは絶対忘れられない。

 それと……、青柳さんの温もりもな。


「千春」

「うん?」

「あんた、なんで顔真っ赤になってんの?」

「…………うるせぇ」


 ぎゅっと千春の手を握りしめる小春が、こっそり笑みを浮かべていた。

 そして「好き……」と呟く。

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