25 複雑②

「あっ! えへへっ、私が髪の毛乾かしてあげようか! 千春くん!!!」

「…………」

「千春、気にするな。小春さっきビールを飲んでちょっと酔っ払ってるだけだから」

「…………ちょっと?」


 ビールはいつ買ってきたんだ……?

 てか、すぐ寝るんじゃなかったのか? 青柳さんも美波も……なぜかビールを飲んでいる。久しぶりにここに来てテンション上がったのは分かるけど、青柳さんはビール飲まない方がいいかもしれないな。美波と違って顔真っ赤になってるし、いつ倒れてもおかしくないから注意すべき人だった。


 しかも———。


「えへへっ、千春くん背伸びたぁ〜?」

「…………」

「美波、青柳さん大丈夫かな? さっきから壁と話してるんだけど……?」

「お酒弱いくせにいつも飲んでるからね。まあ、ほっておいてもいいんじゃね? 外だったら私がすぐ止めるけど、ここには千春がいるから」

「俺のことをなんだと思ってんだ?」

「小春の保護者?」

「……まったく、美波の友達だろ?」


 すると、いきなりデコピンをする美波だった。


「痛っ!」

「本当に鈍感だね、あんた」

「えっ? どういうこと?」

「知らない、自分で考えろ。私は寝るから!」

「う、うん……」

「あ、そうだ。小春に変なことをしたら殺す、そして寝落ちしたらちゃんと部屋に連れてきて」

「うん…………」


 いや、これじゃマジで青柳さんの保護者だろ? まったく……。

 でも、どうせ酔っ払ってるから早くベッドに寝かせた方がいいかもしれない。そして、青柳さんを寝かせた後、やっと……! 漫画が読める! 一人の時間は大事だからさ。ゆっくりお茶を飲みながら漫画を読むのもいいことだと思う。


 よっし!


「ううん……。あたたか〜い」

「あ、青柳さん?」

「千春くんの声だ! 私……! さっきまで千春くんと話していたのに!? なになに!?」

「えっと……」

「でも、こっちの千春くんはちゃんと返事してくれて嬉しい〜」

「…………」

「夏休みだし、もうちょっと一緒にいよう……」

「…………」


 美波は俺の部屋で寝てるし、青柳さんはわけわからないことを言ってるし、仕方ないか。こうなったらもう少し青柳さんと一緒にいるしかないと思うけど、酔っ払っている女子はいろんな意味で怖いんだからさ。美波の家で会った時も深夜にビール飲んでたし、もしかして……寂しがり屋だからビールに頼ってるのかな? どっかで聞いたことありそうな気がする。


 実際、寂しいとかしょっちゅう言ってるし……。


「ソファに行こう〜」

「はいはい。走らないでください。転びま———」


 すると、リモコンに躓いて倒れそうになる青柳さん。

 まだ話が終わってないのに———、素早く彼女の体を抱きしめた。怪我したら絶対俺のせいって言うからな、美波は……。このだらしない人を俺はどうしたらいいんだろう。


 本当に子供みたいだ。


「だ、大丈夫ですか? 青柳さん 頭とか……」

「うん……。大丈夫、ごめんね」


 そのまま俺を抱きしめる青柳さんに、何もできずしばらくじっとしていた。

 てか、離す気なさそう……。


「なんなの? さっきからうるさいよ、二人とも」


 お前……! どうして、いつもこんなタイミングで出るんだよぉ……! 美波。

 まさか、わざと……!? 部屋で待っていたのか。


「美波だぁ〜。おはよう〜」

「おはようじゃない———何してんの?」

「えへへっ」


 俺を抱きしめたまま手振るのやめてぇ……。


「千春…………。私がいない間……、小春を襲ったの? はあ…………」

「違う!」

「えへへっ」

「小春……」


 美波の冷たい目線……。怖っ。


「ごめんなさい……。そんな目で見ないでください…………」

「千春、女は優しい男が好きだから次はちゃんと注意して。いきなり襲うのは良くないからね」

「は〜い!」

「小春……」

「ごめんなさい…………。私はクズですぅ……」


 そんなに美波のことが怖いのか、どうやって友達になったんだろう……。

 そう言った後、あくびをしながら部屋に戻る美波。

 結局……、一言言うだけだったのか? せっかく一言を言ったから青柳さんも連れていけよ! と……言いたかったけど、俺も美波が怖いから諦めることにした。


「えへへっ、怒られちゃった」

「青柳さんがだらしないからです……」

「ひん……。ごめんね」


 また落ち込む青柳さんを見て、さりげなく頭を撫でてあげた。


「あっ、つい…………」

「…………」


 そして、頭から手を離そうとした時、青柳さんが両手で俺の手首を掴んだ。


「もうちょっと……、これ……気持ちいい。だから、もうちょっと…………」

「…………どっちが年上なのかよく分かりませんね。青柳さん」

「そういうの今関係ないでしょ? 私はこれが好きだからね〜」

「美波に怒られて酔いが覚めたようですね」

「…………」

「で、いつまで手首を……」

「もう……す、少し…………」

「はいはい。好きなだけやってくださいよ、その手貸してあげますから」

「へへっ、うん!!!」


 なんで、あんなことを言ったんだろう……。青柳さんが喜ぶから? 寂しそうな顔をするのが嫌だったから? 俺にもよく分からない……。なぜ、ほっておくのができないんだろう。


 誰か俺に教えて欲しい。

 そして、俺の手でセルフなでなでしている青柳さんだった。

 

「気持ちいい〜」

「子供みたいですね」

「へへっ、友達って本当にいいね。こんなこともできるし…………」

「そうですね。青柳さんと俺は……友達ですから」


 友達か、これが…………友達か。


「ねえ、千春くん」

「はい?」

「友達のままでいいの?」

「はい……?」

「どういうことですか?」

「友達のまま……で……いいの?」


 そう言いながら俺の肩に頭を乗せる青柳さんだった。

 しばらくの間、二人の間に静寂が流れる。


「うん? 青柳さん? あ、青柳さん?」

「ううん…………」

「ね、寝てる? マジか? あんなことを言っておいて、寝落ちしたのか!?」

「…………」


 寝落ちした。

 マジか、どうすればいいんだ? 俺……さっきの話の意味めっちゃ知りたいんだけど?


 早く起きてぇ……。


 ……


「小春……。ちゃんと話すって言ったくせに…………」


 部屋の中、こっそり二人の話を聞いていた美波がため息をつく。


「バカ」

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