23 一人の時間
今日は久しぶりに自由を満喫している。
この前まで海とか、ショッピングとか、いろいろあったから……一人の時間が全然なかった。新刊の漫画も読みたいし、読み終わったら前に買っておいたゲームもしたい。ごく普通の高校生にこれ以上の天国は多分ないだろう、今日は何があってもゆっくりと過ごす。俺はそう決めた。
そして、漫画を読もうとした時、俺のスマホに電話がかかってくる。
なんか、嫌な予感がするけど。
「も、もしもし……?」
「千春、何してんの?」
「俺は……勉強……かな?」
「またベッドで漫画を読んだりしないよね? あんた」
「あはは……」
俺の部屋に監視カメラでもあるのか? どうして分かるんだろう。
「で、なんで電話したんだ? 忙しくないのか? 美波」
「あんた、二日後に予定あるの?」
「ある」
「小春とお祭りに行く約束をしたから、あんたも準備して」
「…………」
しかとかよぉ……!
てか、お祭りなら二人で行ってもいいんじゃね? 俺と一緒に行く必要あるのか?
と言っても、なぜか……青柳さんの浴衣姿が見たい俺だった。馬鹿馬鹿しい。こないだ二人でデートをしただけなのに、青柳さんのことを意識するなんて。いや、そんなことよりしょっちゅうラ〇ンを送ってるから意識しないのがおかしいと思う。
そして、この前のビデオ通話も…………、やっぱり青柳さんは危険な人だ。
「おい、聞いてんの?」
「はいはいはい。分かったよ。じゃあ、二日後そっち行くから」
「よろしい」
「で、美波さ」
「うん?」
「俺……、青柳さんと友達になったけど、どう思う?」
「おめでと」
「いや、その…………」
「何?」
「やっぱりなんでもない」
ただ……、青柳さんの誕生日を聞きたかっただけなのに、その言葉が上手く出てこなかった。高校卒業してからほぼ二年間会えなかったし、美波にいきなり誕生日を聞くのも無理だよな。でも、俺の記憶が間違ってないなら多分五日後……青柳さんの誕生日だった気がする。
それを本人にそれとなく聞くつもりだったけど、ビデオ通話をした時下着姿の青柳さんが画面に映ったから……水の泡になってしまった。
それにしても、誕生日かぁ。
「おい、なんだよ。早く言え、千春」
「なんでもねぇよ。俺は漫画読みに行くから」
「やっぱり漫画読んでたの?」
「あっ……、とにかく邪魔すんなよぉ……。美波」
「分かった。じゃあ、また連絡するから」
「うん」
まだ時間あるし、なんとかなるだろ。
お祭りかぁ。
さて、電話も切ったし、やっとゆっくり漫画が読める———。
(涼太)おい、今そっち行っていいのか?
マジかよ。
(涼太)と言いたいけど、来ちゃった。ドア開けてくれ。
それを先に言えよ…………。
「おい、涼太。何しに来たんだよぉ…………」
「いや、そんなに嫌だったのか俺がくるのが……」
「ちょうど一人で漫画読もうとしたのにぃ……」
「あはは……。なんだよ、漫画ならいつでも読めるだろ? 今日ここに来たのはお前と話したいことがあるからだ」
「そっか」
ベッドに置いていた漫画を片付けた後、オレンジジュースをテーブルに置いた。
それにしてもうちまでけっこう距離があるはずなのに、あの涼太がわざわざうちまで来てくれるなんて……。それほど大事な話なのか。今日は天気がめっちゃいいからてっきり清水とデートをすると思ってたけどな。
で、なんかいつもと雰囲気が違うような……。
「あのさ、千春。えっと……、また同じことを聞いて悪いけど、お前……本当に青柳さんと付き合ってないよな?」
「そうだけど? どうした? それを聞きにわざわざここまで?」
「いや……、実は千春にはまだ話してないけど…………。いや、言わなくてもすでに気づいていたかもしれないな」
「うん?」
「河野のこと」
「ああ……。河野か」
この前に偶然電車で会ったよな。
「それで?」
「ほのかと河野めっちゃ仲がいいからさ。そして、俺はほのかと付き合ってるし」
「うん」
「海に行く時もさ、河野がほのかに一緒に行きたいって頼んだから四人で行くようになったけど……」
「そうだったんだ」
「昨日、ほのかの家で一緒に映画を観ていたら河野から電話が来た」
「うん」
「高川くんに好きな人がいるかもしれないって言ってたから。一応、本当にいないってほのかが言っておいたけど、河野がずっと不安そうに話していたからさ。俺もどうしたらいいのか分からなくてここに来ちゃった。あはは……」
まあ、一緒にショッピングをした時も……、そして海に行った時も……、なんか距離感が近いなと思っていたけど、そうだったのか。そして……、清水に俺の好きな人を聞いたのはやっぱりあれだよな。俺に興味あるとか、そういうこと。でも、河野とは接点が全くないから、俺のどこが好きなのか分からなかった。
マジで理解できない。
「で、海でも一度聞いたことあるけど……、お前と青柳さん普通の関係には見えないから」
「一体、俺たちをなんだと思ってるんだ」
「美人の大学生と付き合うモテモテ高校生」
「何言ってんだよぉ……」
「俺はモテる人だからこの状況をよく分かっている」
うわぁ、自分の口でそんなことを言うのか。
「でも、お前が何を考えているのかは分からない。もし、お前が青柳さんと今の関係を維持するなら俺はほのかにはっきりと言っておくからさ」
「何を?」
「千春には好きな人がいないって。俺、河野のこと可愛いと思うからさ。お前も彼女を作りたいって言ってたし、いいことじゃね?」
「…………」
つまり、俺に青柳さんと付き合う気がないなら……あの二人が俺と河野をくっつけてくれるってことか。その前に、なぜ青柳さんじゃないと河野になるんだ? 俺は誰とも付き合う気ないんだけど……、勝手にあんなことを……。
でも、電車の中で俺を見ていた河野の表情が少し———。
いや、それは分からない。余計なことは考えるな。千春。
「どうする? 千春」
「あ、ちょっと待って。ラ〇ンきた」
まあ、見なくても青柳さんだろう。
(小春)ねえねえねえねえ、千春くん。お祭り楽しみだよね!
やっぱり。
(小春)美波に聞いたよ!
(小春)わたあめ! りんご飴! 焼きそば! たこ焼き! 三人でいっぱい食べよう! 早く行きたい!
(小春)ねえねえねえねえ、千春くん!!!!! 美波に千春くん甚平持ってないって言われて。今日、美波と一緒に買ってきたよ! 今、写真送るから!
と、無表情の美波と撮った写真を送る青柳さん。
テンションめっちゃ上がってるね。
(小春)今日、ショッピング終わった後……、美波と久しぶりに千春くんの家に行くつもりだけど、行ってもいいかな?
(小春)美波がいいよってそばで言ってくれた! ラ〇ン全部見られてる!
(小春)じゃあ、家で待ってて!!!
返事する暇もなく会話が終わってしまった。
なんだろう。
「どうした? 千春」
「いや、なんでもない。どうやら……、後で客が来そうだな。そして、さっきの話の答えだけど……。まずは考えてみるから、この辺で終わらせよう」
「そっか。今日話したのは内緒にしてやるから心配するな」
「ありがと」
「じゃな」
「うん」
まずは涼太に考えてみるって言っておいたけど、どうすればいいんだろう。
まさか、女子経験ゼロの俺がこんなことで悩むようになるとは。「好き」か……。
(小春)そうだ! 今日美波と鍋料理作るから私たちが行くまで何も食べないで!
(千春)分かりました。
そんなことより、漫画全然読めなかった。
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