22 小春の夜

「はあ……♡ 気持ちいい。今日のデートは本当に最高だったよ!」

「小春、また風呂の中で電話してるの?」

「えへへっ。でも、スマホを持ってないと千春くんと連絡できないからね。ちなみに歯磨きする時も持ってるよ! ふふっ!」

「…………まったく」


 どうしても今日あったことを早く話したくて、お風呂に入ったまま美波と電話をしていた。千春くんめっちゃ可愛かったし、手も握ってくれたし、そして可愛い服もたくさん買ったし……、本当に最高だったよ。


 やっぱり、偽物より本物の方が好き。まだドキドキしている。

 すっごく好きぃ……。


「うぅ———っ! またデートしたい!!!!!」

「お、落ち着いて。小春」

「でもぉ……! 別れて二時間も経ってないのに、すぐ会いたくなってね…………。今めっちゃラ〇ン送ってる……!」

「ふーん、あのバカのことそんなに好きだったの?」

「へへへっ……、うん」

「じゃあ、来週、みんなで夏祭りでも行こうか?」

「いいね! 行こ行こ!」

「ふふっ、分かった。じゃあ、千春にも言っておくから、小春は目眩する前に早くそこから出て」

「オッケー!」


 裸のまま居間に出てきた私はソファで髪の毛を乾かしていた。

 そばには千春くんにもらったクマちゃんを置いて、それを千春くんだと想像する。


「ああ…………」


 また会いたいけど、今の私にはこれしかできないから、じっとクマちゃんを見つめながら乾燥が終わるのを待つ。そして、早く千春くんが選んでくれた下着を着たい! 今日のデートで少しだけ……千春くんの好みが分かったような気がする。


 華やかなフラワーレース……、そして紫色!

 こういうのが好きなんだ。可愛いね〜。


(千春)あっ、ちょうどシャワー浴びました。返事遅くなってすみません〜。

(小春)変態……。

(千春)えっ? 俺、なんか悪いことでもしましたか?

(小春)知らないよ〜。えへへ。


 そして、乾燥が終わった後、すぐ下着を着てベッドへダイブ!

 千春くんがうちに泊まった時は服を着ていたけど、私……普段は下着姿で生活しているから少し不便だった。寒くなったらパジャマとか着たりするけど、夏は普通に暑いからね、下着のままで十分だと思う。


 別に減るもんじゃないし、好きな人だから……。


 でも、千春くん……ブラの肩紐がちょっと見えただけなのにめっちゃ照れてた。

 それもすっごく可愛かったよね……。


「…………」


 ベッドへダイブしたまま千春くんとラ〇ンをする。

 そういえば……、私……今日丸一日千春くんのことばかり考えていたような気がするけど……? 朝起きた時にラ〇ンをして、電車に乗った時もラ〇ンをして、そして家に送ってくれた後もラ〇ンをして…………。お風呂から上がった今もラ〇ンをしている。


 これ……もしかして中毒じゃね!? 私、千春くんに迷惑をかけてるんじゃね!?

 もし、そうだったら……嫌われるかもしれない。

 どうしよう、どうしよう、どうしよう…………!


(小春)ねえ、千春くん! 私……、もしかして面倒臭いかな!?

(小春)しょっちゅう連絡するのは……、迷惑だよね? ごめんね。でも、私どうしても……、話がしたくて。

(小春)なんでもいいから、千春くんと話をするのが好きなの! だから……、嫌いにならないで…………。

(小春)返事がない……!

(小春)やっぱり……、迷惑だったんだ……。ごめんね、千春くん。


 すごい勢いでラ〇ンをたくさん送っちゃった……。

 どうしよう、やっぱり迷惑だったかもしれない。私……本当にバカ。


「ううぅ……。嫌われたくないぃ…………。千春くん…………」


 すると、千春くんが写真を一枚送ってくれた。


「これは……、コーヒー? ラテかな?」


(千春)返事……遅くなってすみません。美波が買ってくれたコーヒーメーカーの使い方よく分からなくて時間がちょっとかかりました。でも、よくできましたよね? ラテ。

(小春)うん! うん! 私も飲みたい!

(千春)じゃあ、次うちに来たら作ってあげます。美味しいかどうかは分かりませんけど……。あはは……。

(小春)絶対行く! 絶対飲む!

(千春)それと、俺は青柳さんのこと面倒臭いって思ってませんから、心配しないでください。

(小春)私も千春くんのことが好きだよ!

(千春)あ、ありがとうございます……。


 私のこと、面倒臭くないって……!

 その返事を見ただけで、天国に来てるような気がした。めっちゃ好きぃ……♡

 どうしよう。胸のときめきがおさまらない!!!!!! 顔が……、千春くんの顔が見たくてたまらない!!!!!!


(小春)ねえ、ビデオ通話しない?


 頭はまだ考えているのに、体が先にラ〇ンを送っちゃった。

 私も私のこと、コントロールできないよぉ…………。


(千春)今からですか?

(小春)うん! ダメかな?

(千春)いいですよ〜。じゃあ、かけますからね。

(小春)うん!!!


 そして、千春くんの顔が画面に映った時、嬉しすぎて思わずニヤニヤしていた。

 シャワー浴びた千春くんも可愛い♡


「あっ、青柳さ—————————ん!!!!!!!!!!!!!!!!!!! 何をしてるんですかぁ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

「えっ? ど、どうしたの? 千春く……」


 そのままビデオ電話を切る千春くんだった。


(千春)服! なんで、下着姿なんですかぁ———!


「あ、そういえば……。私……ずっと下着姿だったよね。ええ? それで電話を切ったの!? ええええええ!!!!!!」


(小春)服着るから……、ビデオ通話しよう…………。

(千春)今日は無理です……。また今度にしましょう……。すみません、青柳さん。


「せっかくビデオ通話をするチャンスだったのに……。えーん」


 バカみたいな私は服着るのをうっかりして、千春くんに嫌われちゃった。

 せっかくのチャンスだったのにね。本当に、バカ。


「…………」


 仕方がなく、そのままクマちゃんをぎゅっと抱きしめた。

 あの日の夜は……とても寂しくて悲しかったと思う。


「涙が止まんない…………」

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