21 青柳さんは遊びたい③

「あーん! へへへっ」

「…………」


 子供扱いされるのはあまり好きじゃないけど、青柳さんめっちゃ喜んでいるから何も言えない俺だった。


「美味しい?」

「はい……」


 さりげなく俺にお肉を食べさせたり、好きなものを聞いたり……。

 下着の件でめっちゃ恥ずかしかったけど、それでも青柳さんと一緒で楽しかった。

 そして、この感情は難しい。どうしたらいいのかよく分からない。


「あっ、青柳さん。頬にソースついてますよ」

「拭いて!」

「はい……」


 ウエットティッシュで頬を拭いてあげたら……、なぜかじっと俺を見つめる青柳さんだった。高校生の頃にもそうだったけど……、その大きい瞳がこっちを見るとすぐ緊張してしまう。それにふと思い浮かぶ一つの単語「可愛い」。俺も……どうかしている。


 そして、何度も自分に言い返した言葉「俺はダメ」。

 しっかりするんだよ、高川千春。これは……青柳さんのためだ。


「ど、どうしましたか?」

「えへへっ、彼氏っぽくていいなと思ってたよ……♡ 恥ずかしいぃ……♡」

「あっ、そうですか? 青柳さんが可愛いからです。お昼……、本当にありがとうございます」

「ひひっ……♡ 私! 千春くんと一緒に食べるのめっちゃ好き! 美味しいものがさらに美味しくなるような気がする!!!」

「…………はい。俺もそうです」


 うわぁ、この笑顔……心臓に悪いんだけど、やばすぎる。

 でも、どうして青柳さんは俺にあんなことを言うんだろう。別に……俺じゃなくても他の人とこんなことできると思うけど、なぜ……俺とこんなことをするのか少し知りたくなった。


 と言っても、本人には聞けないから…………。

 バカ。


 ……


 お昼を食べた後は特にやることがなかった。

 このまま家に帰るのもいいけど、青柳さんはまだ足りないって顔をしている。


「青柳さん」

「うん?」

「ゲーセン行きます?」

「うん!!! 行く!!!」


 近所にあるゲーセンに入ると、子供のように喜ぶ青柳さんだった。

 まあ、ゲーセンにはいろいろ楽しいことがたくさんあるからさ。

 その中で一番目立つのはやっぱりクレーンゲームか。そして、でかい白熊を取るために、カップルたちがクレーンゲームの前に集まっていた。俺はぬいぐるみに興味ないから一緒に楽しめるゲームを探していたけど……、すぐそばにいる青柳さんがじっとあの白熊を見ていた。


「…………」

「ねえ、千春くん。あれ……、やらない?」

「いいですね」


 やっぱり、あの白熊のぬいぐるみが欲しかったんだ。


「…………」


 意気揚々と挑戦したクレーンゲームは、あっという間に3000円を失う結果をもたらした。そして、そばで見た青柳さんの集中する顔がとても可愛くて、写真でも撮りたいなと思っていた。


 てか、手がめっちゃ震えてるじゃん。


「えーん〜。千春くん! 取れなーい! なんで……!?」

「任せてください」


 俺は……涼太とゲーセンによく来たから。

 クレーンゲームのコツをよく知っている。

 そこで見てくださいよ! 青柳さん! 大きいぬいぐるみを取る時はこうやって! よっし、行けぇ!


 見えてきた、そこか! 取れる!

 取れるぞ!


「あっ! 惜しい! もうちょっとだったのにぃ———!」

「…………」


 くっそ。こいつ……、太ったのか? なんで、そこで落ちるんだよ……。


「じゃあ、次はこうやって…………」

「おおお! 取った!」

「一回で終わらせるつもりだったんですけど……、あはは…………」

「ううん! ありがと! 超可愛い!!!!! 大事にするからね!」

「は、はい……!」


 ぎゅっとぬいぐるみを抱きしめる青柳さん、その姿がとても可愛くてすぐ彼女から目を逸らしてしまった。

 いけない、可愛すぎる。


「ひひっ♡ めっちゃ楽しい!」

「よかったですね」

「それに、このぬいぐるみも超可愛いし! 幸せ〜」

「青柳さん、たまに子供っぽくて可愛いですね」

「こ、子供じゃないもん! 私の方が年上だし…………」

「はいはい」


 そして、帰りの電車。

 さっきまでずっと話していた青柳さんが、今はさりげなく俺の肩に頭を乗せている。


「ううん……。次も一緒にぃ…………」


 寝言を言いながら「えへへっ」と笑う青柳さん、可愛い……。

 どうやら、今日のデート満足したみたいだな。いろいろあったけど、無事で終わってよかった。それにしても青柳さん……。今日めっちゃお金使ったような気がするけど、大丈夫なのか? 無理しなくてもいいのに、ずっと大丈夫って言ってたから止められなかった。


「…………今日は本当に楽しかったです、青柳さん」

「ううん……。おいひい…………」


 てか、髪の毛食べてんじゃん。可愛い……。

 降りるまでまだ時間があるから、その横髪を耳にかけてあげた後、静かにスマホをいじっていた。


「…………うん? 美波?」


(美波)おい、デートは楽しいか?

(千春)うん。楽しかった。

(美波)そっか。小春と連絡できないんだけど、今何してる?

(千春)そばで寝てる。疲れたみたいだ。

(美波)変なことしたら殺す。

(千春)?

(千春)てか、美波の友達だろ? なんで、俺に任せっぱなしなんだよ〜。

(美波)電池切れ、小春のことよろしく。

(千春)おい! 美波!!!!!


 なんだよ……、一体!

 たまに……、美波が何を考えているのかよく分からない俺だった。


 ……


「あれ……?」


 そして、次の駅……。なぜか、河野が同じ電車に乗った。


「河野じゃん」

「あれ……? 高川くん、ど、どこに行くの?」


 ちらっと小春の方を見るあおい。


「家…………だけど」

「そ、そうなんだ……! えっと、そ、そばにいる人は?」

「ああ、姉の友達だよ」

「そうなんだ」

「河野は?」

「わ、私は友達の家に…………」

「うん」


 なんだろう、この静寂は……。

 それから二十分くらい、俺たちは何も言わず電車に乗っていた。


 そして、電車から降りる。


「ううん……。千春くん、さっきの可愛い女の子は誰……?」

「ああ、同じ学校に通っている人です」

「へえ……、そうなんだ…………」


 なぜか、俺の腕をぎゅっと抱きしめる青柳さん。

 なんか、変なことでも言ったのかな? 俺……。


「ど、どうしたんですか?」

「な、なんでもない! 早く行こ!」

「は、はい……」


 千春の横顔を見て、こっそり頬を膨らます小春だった。

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