20 青柳さんは遊びたい②

 確かに……、青柳さんと女子の下着を選ぶのは罪ではないけど……、罪ではないけどさ。周りの視線がめっちゃ気になって居ても立っても居られない。目の前に広がっているのは女子の下着だけ……。ブラとか……、パンツとか……、目をどこに置けばいいのか全然分からないし、どこを見ても下着しか入ってこないから早く逃げたかった。


 なんで、俺をこんなところに連れてきたんだよぉ……。このバカァ……。


「千春くんはどんな下着が好みなの?」

「えっ? 今……、なんって?」

「どんな下着が好みなの?」

「そんなの、二度言わなくても分かりますよぉ……!」

「えっ? でも、さっき…………」

「いいえ! な、なんでもないです! 俺……、外で待ちますから! 早く買ってきてください!」

「ダ、ダメ!」


 そう言いながら、すぐ俺のシャツを掴む青柳さん。

 ここで大声を出すわけにはいかないから抵抗できず、その場でじっとしていた。

 いや、ここ地獄ですけど……?


「昨日……メジャーで測ってみたら、ちょっとでかくなってね……! 新しいのを買わないと困るよ!」


 大きいのはすでに知ってますよ! 見れば分かるからぁ……!

 でも、それを俺に言う必要ありますかぁ……? 俺……女子の胸のサイズとか全然知らないし、でかくなったら一人で買ってもいいんじゃないんですかぁ……? いろいろ言いたいことはたくさんあったけど、黙っていた。


 青柳さんが拗ねてるように見えたから……。


「えっと……、早く……決めましょう…………」


 どんどん小さくなる声、恥ずかしすぎてどうしたらいいのか分からなかった。

 なんでもいいから、早く選んで……さっさとここから出よう。


「それで……! 千春くんはどんな色が好き?」


 頭の中が真っ白になる質問だな、それ。

 なぜ、俺は……青柳さんに好きな下着の色を教えてあげないといけないんだ? いくらなんでも女子の下着の色とか、変態でもあるまいし。そもそも下着だろ? 下着は普通他人に見せないんだろ? そんな下着に好みとかあるわけ…………。


 いや、なんで期待してる目で俺を見てるんだろう。勘弁してくださいよ。


!」

「…………あの、む、紫……色の……。その…………」

「下着が好きなんだ! そうなんだ〜。じゃあ、私紫色の下着探してみるからね!」


 小さい声で話したから、小さい声で答えてください……。恥ずかしすぎて、死にそうですよ。青柳さん。


「これはどうかな? 好き?」

「好きとか聞かないでください……。後ろに人がいますから…………」

「ちゃんと見て!」

「…………」


 華やかなフラワーレース……。

 うわぁ。下着を持ってるだけなのに、エロすぎて頭が回らない…………。


「どう?」


 しかも、本人は全然気にしていないし……。


「いいです……。それで……、いいと思います」

「じゃあ、これにしよっか! ふふっ♡」

「はい……! 試着し、しますよね? 俺は外で待ちますから!」

「うん!」


 生き残った……。あの地獄で俺は生き残ったんだ…………!

 ちゃんと決めてあげたから……、また下着のことで俺を呼んだりしないよな。

 もしまた呼んだらすぐ逃げよう、そう決めた。


「ふぅ……」


 そして、試着を終わらせた青柳さんが俺を見て笑みを浮かべる。

 ビクッとしたけど、そのままお会計をして、再びあのお店に入る確率はゼロになった。てか、俺が女子の下着を選ぶ日が来るとはな……。青柳さんとのショッピングって……、すごい危険な行為だった。


 油断すると、すぐこんなところに連れてくるからさ。


「へへへっ、買っちゃった♡」

「は、はい……。よ、よかったですね」

「ふふっ」


 ニヤニヤしている青柳さん、そして不安を感じる俺。


「ど、どうしましたか?」

「あのね! さっき……、お店の店員さんにね!」

「はい……」

「彼氏さん可愛いですねって言われたよぉ———♡ キャー! 好き! どうやら、私たちが一緒に下着を選んでいたのを見たらしい! 千春くん、そばでめっちゃ照れてたじゃん!」

「…………は、はい。そうでしたか」


 恥ずかしすぎて、声が震えていた。

 うわぁ、他人にそんな情けない姿を見せるなんて…………。


「ふふっ♡ 私ね! この下着を大事にするから!」

「ど、どうしてですか?」

「だって、千春くんが選んでくれた下着だし、私もめっちゃ気に入ったから!」

「は、はい……」

「お腹すいた! 何か食べよう! 千春くん!」

「はい……」


 ニコニコしている青柳さんと近所にあるファミレスに向かう俺。

 そして、すごくドキドキしていた。

 その笑顔は……ずるい。可愛すぎて……、どうしたらいいのか分からなくなる。


「ねえ、千春くん」

「はい、青柳さん」

「耳貸して」

「えっ?」


 その場に立ち止まる二人。青柳さんがつま先立ちをして俺に耳打ちをした。

 なんで、そんな不便そうな姿勢で———。


「……そ、そんなの……! いら、いらないです!!! もうからかわないでください! 本当に…………」

「ひひっ♡ 冗談だよ〜」


 本当に……、青柳さんを俺はどうすればいいんだよ。美波…………。

 今頃……、ソファでゆっくりポテチでも食べてるんだろ。


 疲れた……。


「美味しいのたくさん食べよう! ドキドキする!」

「そ、そうですね」

「ひひっ。やっぱり、千春くんとデートをするのは楽しいね〜。私の話、なんでも聞いてくれるし〜」

「…………」

「きっと、いい旦那さんになると思う!」

「…………えっ!」


 ええ、そこでそんなことを言うのぉ……? えええええ。

 てか、女子と付き合ったこともないのに……、結婚は早すぎじゃないですか。青柳さん。


「ひひっ♡」

「もう……、青柳さんには敵わない〜」

「ねえ、もし……気が変わったら声かけてね!」

「しません!」


 なんで「試着室で撮った私の下着姿……、見せてあげようか?」とか言うんだよ!

 少しは……俺の立場を考えてくださいよ! 頼むから……。

 この……、バカ!


「ひひっ♡」

「まったく……」


 そして、青柳さんは俺に笑ってくれるだけだった。

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