19 青柳さんは遊びたい
なぜ、そんなことをするんだろう。不思議だ。
青柳さんもきっと仕事とかで忙しいはずなのに、俺の風邪が治るまで毎日うちに来てお昼を作ってくれた。俺はそんな青柳さんに何もやってあげられないのに、毎日来てくれるから少し負担を感じていた。
別に嫌とかじゃないけど、それでも気になるのは仕方がないこと……。
おかげで風邪は完全に治った。
そして———。今、美波の家で青柳さんと二人っきりの時間を過ごしている。
なぜだ? てか、美波どこ行ったんだ……?
「へへへっ、元気になった千春くんだぁ……♡」
「お、おかげで……すぐ治りました。ありがとうございます! 三日間……」
「へへへっ♡」
「で、今日は……。何をするんですか? 青柳さん」
「私! 千春くんとショッピングがしたい! だから、今日一日私に付き合って!」
「いいですよ。でも、俺センスないんで……、一緒に行っても役に立たないと思います」
「そんなことないよ! 行こう行こう!」
「は、はい……!」
……
というわけで、俺たちは現在人々がたくさん集まっている繁華街に来ている。
人が多い場所は苦手だけど、そんな俺と全然違って青柳さんはめっちゃテンション上がっていた。それに……一緒にショッピングをするのはいいけどさ。俺は青柳さんのそばで何をすればいいんだろう。彼女作ったことないから、こんな時に何をすればいいのか分からない俺だった。
そして、ニコニコしている青柳さん。
まあ、いっか。なんとかなるだろ。
「私ね! えっと……、千春くんに服をプレゼントしたい!」
「えっ? いいですよ!」
「……い、いらないんだ……」
えっ、落ち込んでる……。
「いいえ! べ、別に嫌とかじゃないんですけど、それでも……! プレゼントをもらうことに負担を感じるっていうか……」
「そんなことないよ!? そして、この前に美波に服買ってもらったじゃん!」
「あっ、それは家族だからぁ———」
「やっぱり……、私のプレゼントは嫌なんだ……。もらってほしいのにぃ……」
「わ、分かりました。い、行きましょう……!」
「うん……! 私、今日のために仕事めっちゃ頑張ってきたからね!」
そう言いながら、財布の中でお金を取り出す青柳さん。諭吉さんが六人……。
この人……、本気なんだ。
「は、はい……」
「行こう!」
「は、はい!」
「…………」
そして、じっと俺を見つめる青柳さんが首を傾げた。
さっき「行こう」って言ったのに、急にどうしたんだろう……。
「手……! てぇ…………。———なぎたい!」
「…………は、はい。すみません……。気づくの遅くて」
「ううん……!」
そんな可愛い顔で「手を繋ぎたい」とか、勘弁してくださいよ……。
本当に可愛すぎて、俺には無理です……。
「へへっ、やっぱり千春くんと手を繋ぐのはいいね! テンション上がる!」
「そ、そうですか? よ、よかったですね」
そのまま俺をショッピングモールに連れて行く青柳さん。
またデート……。そんなとより、俺を見て笑っているその顔がとても可愛くて青柳さんから目を離さなかった。
今は、この瞬間を楽しもう。
「これはどー?」
「えっと、反対側のあれはなんですか?」
「これは私の服で! これは千春くんの服だよ!」
「それは分かってますけど……。聞きたいのはどうして一緒なのかです」
「お揃いコーデいいじゃん!」
「そ、それじゃ……カップルに見えるぅ———」
「いいから試着してみて! 私もするから!」
そういえば……、美波が買ってくれたのもこんな感じだったよな。
もしかして、二人はこういうのが好きなのか? でも、やっぱり……青柳さんとお揃いコーデやリンクコーデをするのは恥ずかしいな。周りの人たちにどう見えるのかもあるけど、俺が恥ずかしいから無理だった。
どうしよう……。
「ねえ、着替えたの?」
「はい……!」
カーテンを開けると、ホワイト色のシャツにベージュ色のスカートを着ている青柳さんが目の前に立っていた。
一瞬、時間が止まったような気がした。
「…………」
ああ……、顔がいい! 可愛すぎる。
なんだよ……。あの笑顔は……! 俺を殺しに来たのかよぉ…………! 何を着ても似合う青柳さんはやっぱり危険だった。マジで危険だ。
そして、早く冷静を取り戻さないと……。
「か、可愛い!!! めっちゃ可愛い!!!」
「は、はい……」
「うう———っ! ドキドキする!!!」
そのまま俺を抱きしめようとする青柳さん、さりげなく避けてしまった。
「うっ……! ど、どうしてぇ…………」
「そ、外で恥ずかしいことは禁止ですよ!」
「ひん……。ぎゅっとしたかったのにぃ」
なんで、泣きそうな顔をしてるんだよぉ……!
「そ、そんなことより! あの……青柳さん!」
「うん?」
「その服、可愛いですね。青柳さんは何を着ても似合いますから、あはは……」
「…………!」
すると、青柳さん……何も言わず俺をじっと見ていた。
やっぱり……、素直に話すのはダメだったのか? よく分からない……。女子経験ゼロの俺に女心は難しいからさ。なぜ、何も言ってくれないんだろう。余計なことをしたのかな、俺……。
「…………」
青柳小春、千春に褒められて思考停止———。
「青柳さん?」
「…………」
「青柳さん〜」
「あっ! う、うん! ちょっとぼーっとしてた……! ち、千春くんカッコいいからね!」
「あはは……、ありがとうございます。青柳さんも可愛いですよ? やっぱりモデルは格が違いますね」
「…………し、知らなーい!」
と言いながら背中をめっちゃ叩かれた。
やっぱり……、素直に話すのはダメだったのか……!? 分からないよ!
そ、そんなに恥ずかしかったのかな? 俺は可愛いって褒めただけなのに……。
「私……! まだ買いたいのたくさんあるから、ついてきて!」
「は、はい! 行きましょう」
「千春くん、手!!!」
「は、はい……!」
真っ赤になった顔で、声を上げる青柳さんだった。
なんか、悪いことをした気がする。
……
「あの……、青柳さん?」
「うん?」
「ここですか? ここに入らないといけないんですか?」
「うん!」
「俺は外で待ちます!」
「大丈夫だよ! ここ、カップルたちもよく来るお店だからね!」
俺たち……付き合ってないし、それにここ……女子の下着を売るお店だし……。
そして、俺……男だし……。
「もう! ついてきてよ!」
「え、えぇ……!?」
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