18 風邪ひいた

「ああ……、もう子供じゃないから心配しなくてもいいよ。薬飲んで、ぐっすり寝たらすぐ治ると思う」


 夏休み二日目、大雨のせいで風邪をひいた。

 そして、朝から熱が出て今何もできない状態。

 そのままベッドでぼーっとしていたら、美波が俺の体調を心配してくれた。でも、朝から電話をかけるなんて……、美波も優しい姉だな。幼い頃から体が弱くて、いつも俺のことを心配してくれたから当たり前のことか。


 次、美波の家に行く時はケーキでも買って行こう。


「…………」


 そういえば、昨日の夜まで青柳さんめっちゃラ〇ン送ってたのに、今日は朝からスマホが静かだった。いつもたくさん送ってるから、いきなり静かになると余計に怖くなる。なぜだろうな……。


 まあ、仕事をしてるかもしれないし……、俺が心配しても今は何もできないからもう少し寝ることにした。

 何かあったらすぐラ〇ンや電話をするはずだからさ。

 心配しなくてもいい。


 ……


 今……、何時? それより、おでこが涼しくて気持ちいいな…………。

 めっちゃ気持ちいいじゃん……。これ……。


「…………」


 そして、目が覚めた時、なぜか……目の前に青柳さんの顔がいた。

 で、青柳さんはどうして俺のベッドにいるんだろう。しかも……、この距離……近すぎじゃないのか? さりげなく俺の体に乗っかっていて、全然動けない。どうやってうちに入ってきたんだろう。


 うん? 待って、近い近い近い近い……!


「あ、青柳さん……?」

「千春くん、じっとして」

「あっ、はい……」


 おでこに貼っておいた冷却シートを剥がして、手のひらで熱を測る青柳さん。

 一体……、なんなんだ……。この状況。


「わかんない…………」

「そうですよね。体温計なら机の上に置いておきました……」

「あっ、この薬箱かな?」

「はい」


 仕事終わった後、すぐうちに来たのかな……? めっちゃオシャレしてる。

 てか、なんで……俺は青柳さんの外見しか見てないんだろう。バカみたい。


「あ、ありがとうございま———」


 体温計を渡してくれるんじゃなかったのか……?

 どうして、何気なくシャツを捲るのか分からなかった。恥ずかしいんだけど……。


「うん? どうしたの?」

「い、いいえ。俺がやってもいいんですけど…………」

「あっ!」


 すると、急に慌てる青柳さんが持っていた体温計をベッドに落とす。

 まさか、自覚がなかったのか?


「ご、ごめんね! わ、わざとじゃないよ! 私はただ……、えっと…………、風邪ひいたから手伝ってあげたくて! 絶対……! エッチなこと考えてないから誤解しないでぇ!」

「……はい。あ、ありがとうございます」


 青柳さん、顔真っ赤になった。

 てか、もう午後二時か。どうやら、薬を飲んでぐっすり眠ったようだな。

 それに……、起きたら青柳さんがすぐ目の前に……。ちょっと恥ずかしいけど、悪くはない……。


「…………」

「お昼、まだ食べてないよね?」

「はい」

「わ、私が勝手に作ってみたけど……! うどんだけど……! た……、食べてくれる?」

「えっ? 青柳さんが作ったんですか?」


 こくりこくりと頷く青柳さんがすごく照れていた。

 うちに来て……、お昼まで作ってくれるなんて……。なんだよ、それ。めっちゃ嬉しいんだけど? しかも、俺の好きな食べ物まで知っているとはな……。青柳さんもすごく優しい人だ。


 こんなことまでしなくてもいいのに。


「い、嫌なの?」

「いいえ! た、食べます!」

「うん!」


 ……


「で、そんなに見られると……食べづらいんですけどぉ」

「えっ? そうなの? 私、美味しく食べる千春くんの姿が見たいからね!」

「は、はい……」


 なんか、この味……以前どっかで食べたことありそうな気がする。

 そんなことより、めっちゃ美味しいけど……!


「どー!?」

「お、美味しいです! すっごく!」

「よかったぁ! へへっ」

「すみません……。俺のせいで……」

「うん? 何が?」

「うちまでけっこう距離あるはずなのに、なんか……青柳さんの時間を奪ったような気がして……。あはは……」

「そんなことないよ! 私も、美波に千春くんが風邪ひいたって言われて心配だったし。そのままじゃ居ても立っても居られないから急いで来ちゃったの! ほら! 家の鍵ももらったよ?」


 美波……、なんでそんなことを言ったんだよ。

 青柳さんが心配するんだろ? もしかして……、今朝連絡をしなかったのは俺のせいだったのか? うちにうどんの麺やソースはないから、全部来る前に買ってきたってことか。そして、この冷却シートも……。


 まったく……、優しすぎるだろ。


「へえ……」

「せっかくの夏休みなのに、早く治らないと! わ、私と…………」

「青柳さんと?」

「いろいろやりたいことたくさんあるからね!? 風邪治ったら一緒に行ってくれるよね? 千春くん!」

「えっ? はい! 風邪治ったら……、一緒に行きましょう。どこでも構いません」

「やったぁ! ふふっ」


 そして、うどんを食べ終わった後、床でうじうじしている青柳さんに気づいた。

 なんか、言いたいことでもありそうな顔だな。


「ど、どうしましたか? 青柳さん」

「あの……! 海のことだけど!」

「はい? 海? あっ! 青柳さんも海に行きたいんですか?」

「ち、違う……! その……、海に友達と一緒に行ったよね?」

「そ、そうですけど……」

「お、女の子もいたよね?」

「は、はい。そうですけど…………」

「あの子たちの水着可愛かったの?」


 違和感———。

 この質問にちゃんと答えないと……、やばいことが起こりそうな気がする。


「えっと……、よく覚えてないんですけど…………」


 ちゃんと見たけど、素直に話したら絶対怒られるよな。

 でも、これ以上の答えは思い出せない……。すみません、青柳さん。


「わ、私も! 水着を着たから、私の水着姿も見て!」

「えっ? それなら……、写真で見せてくれたはず———。な、な、何をするんですか! いきなり!?」

「私の水着も見て! そうじゃないと今日も悔しくて寝られないから!」

「え!?」


 いきなりスカートを脱ぐ青柳さんに、恥ずかしくてすぐ目を瞑った。


「見てよ!」

「えっ? えっ? ええええ!?」


 昨日送ってくれた写真と同じ水着を着ている。

 てか、俺はなぜ……俺の部屋で青柳さんの水着姿を見てるんだろう……。美波、助けてぇ。


「…………私も一緒に行きたかったよ……! 海!!!!! 千春くんとぉ……。念の為、水着もたくさん買っておいたのにぃ!!!」


 そして、泣き始める青柳さん。

 そうか、俺と一緒に行きたかったのか…………。


「で、でも……! 夏のイベントは海だけじゃないんですよ? お祭りとか、花火とか、いろいろあります!」

「そ、そうだよね? じゃあ……、私と一緒に行ってくれるの?」

「はい! 約束します!」

「うん!!!!!」

「だから、いきなり服を脱ぐのはやめてください……。恥ずかしいじゃないです」

「ごめん…………。でも、あの子たちは千春くんに自分の水着を見せたんでしょ? ずるい! 私も、自信あるよ! モデルやってるから!」

「はい……。分かりました……。だから、服を着てください……」

「うん…………」


 その後、俺の部屋で三時間くらい青柳さんを慰めてあげた。

 夕飯を食べる前にお母さんが帰ってきて、青柳さんはすぐ帰ったけど、その後……夏休みの予定をたくさん送ってくれた。


「なんだろう……。この爆買いした時のレシートみたいな予定は…………」


 どうやら、やりたいことがたくさんあったみたいだ。

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