17 夏と海②
パラソルの下で一緒にジュースを飲んだり、写真を撮ったりして、そうやって海を楽しんでいた。人も多いし、カップルも多いし、やっぱり夏の海はすごいなと思いながら、ふと青柳さんのことを思い出してしまう。一応、みんなと一緒にいる時は連絡できないって言っておいたけど、青柳さん……俺がいなくなるとすぐ落ち込んでしまうから心配だった。
そのままじっと水平線を眺めると、そばにいる河野が俺の頬に冷たいジュースを当てる。
「うっ……。冷たい…………」
「何見てるの?」
「別に……、海を眺めていただけ。そして、ちょっと疲れてさ」
「えっ!? 疲れたのか! 俺たちはまだまだだぞ!」
「元気でいいな。俺は疲れたから、三人で行ってこいよ」
「よっし! 行こうか! みんな」
「わ、私も疲れたから……。高川くんと一緒にいたい。二人で行ってきて」
すると、あおいを見てニヤニヤする二人だった。
「…………」
「はいはい〜」
「分かった! 仕方ねぇな〜」
さっき、海に入ってきたからか……? あくびも止まらないし、めっちゃ眠い。
だとしても、今は寝れないんだからな……。早く帰りたい。
てか、あの二人は疲れないのか……? めっちゃ楽しんでるじゃん。やっぱり、青春はいいな……と言いたかったけど、俺もあいつらと同じ高校生だった。でも、楽しそうに遊んでる二人を見ると、俺も……たまに恋というのがしたくなる。
誰かを好きになるのはいいことだよな。
その前に、俺は寝たい……。
「眠い? 高川くん」
「あっ、いや……。ちょっと…………」
「じゃあ、私が……膝枕してあげようか? 二人が戻ってくる前までゆっくりしてもいいよ?」
「いや、いいよ……。それはちょっと……、俺……女の子とあんな風にくっついたことないし、そして気持ち悪いだろ? 河野」
「気にしないけど? 私、高川くんなら! 気にしない……!」
「いいよ……」
いくらなんでも女の子の膝枕だなんて、恥ずかしすぎて絶対寝れないと思う。
そのまま膝を抱えて、うとうとする俺だった。
「…………」
もう限界だった。瞼が重すぎる。
そして、気のせいかもしれないけど……、今日なんか雨降りそうだな。
「えっ……?」
そばでうとうとしていた千春があおいの方に倒れて、さりげなく彼女の肩に頭を乗せた。その状況にビクッとしたあおいはちらっと千春の方を見て、こっそり頬を染める。しばらくの間、何もせずそのままじっとしていた。
「た、高川くん……?」
小さい声で彼を呼んでも返事はなかった。
ぐっすり眠った千春は、あおいのそばでわけわからない寝言を言うだけ。何もしなかった。
「タオルとか、かけてあげた方がいいかな……。いろいろ……やばい! 腹筋とか、カッコよすぎる! どうしよう…………」
じっと目を瞑って、頭の中にいる自分と口論を始めるあおい。
そして「ケホッ」と空咳をした後、変な妄想はやめることにした。
「…………」
じっと千春を見つめるあおい。
このままじゃ首が痛くなるそうと思って、さりげなく膝枕をしてあげた。
「ふふっ、高川くん……可愛い」
寝ている千春の頭を撫でながら、二人っきりの時間を満喫するあおい。
彼女の顔と耳はすでに真っ赤になっていた。
「夏は……暑いね。高川くん……」
……
「おーい、千春。起きて」
「…………」
「千春〜」
「うぅ……、もう朝かよ……」
「帰る時間だぞ? 千春」
俺……、まさか寝落ちしたのか?
さっきまで二人が遊んでるのを見ていたような気がするけど、いつの間に……?
「あっ、もうそんな時間? てか、なんだ……。この柔らかい感触は?」
「お、起きたの? 高川くん……」
どうして、河野の声が聞こえてくるんだろう。
ちょっと待って、俺……今……河野の膝に…………? 待てぇ!!!!!
また、やらかしたのかと思って思考が停止した。どうして、俺が河野に膝枕をされているんだろう。
「ご、ごめん! 河野! 俺……、どれくらい寝てた!?」
「に、二時間くらいかな……?」
やるなら今か、今だよな? 早く謝罪と土下座をしないと…………!
「ごめん! 本当にごめん…………。俺、やってはいけないことを……」
てか、お前らなんでニヤニヤしてるんだ……?
「ほ、本当に大丈夫だよ! 高川くん眠そうに見えたから……、膝枕をしてあげただけ」
「土下座するから許してぇ! 本当にごめん!」
「いいよ……」
そんなことより、女の子の膝で二時間を寝た俺は……一体…………。
ため息しか出ない。
「そろそろ帰ろう、高川くん」
「う、うん……」
そして、帰りの電車。恥ずかしすぎて顔を上げられない俺と、そばでニヤニヤしているバカ二人。河野は何も言わずその場でじっとしていた。まさか、そこで寝落ちするするなんて、もっと注意しないと……。せっかく海に来たのに、河野に迷惑をかけてしまった。
「はあ……」
ちらっと千春の横顔を見るあおい。
「あっ、雨だ。ええ……」
「タイミングがよかったね。遊んでる時に降ったら……、絶望したはず……」
「そうだね」
「…………」
本当に雨が降ってるんだ……。
そのまま俺たちは駅に着いた。雨はまだ降ってるけど、傘を買うほどたくさん降ってるわけじゃないから三人は走って帰ることにした。俺と違って、この三人はここから遠くないところに住んでいるからさ。
「じゃあ、またね! 今日は楽しかった! 俺はほのかと帰るから!」
「みんな、バイバイ」
「じゃあ、俺も帰る」
「私も! またね!」
そして、青柳さんに連絡しようとした時、電池切れになったスマホに気づく。
「マジかぁ」
「あの……! 高川くん!」
後ろから聞こえる河野の声、振り向いたら一人そこに残っていた。
「どうした? 雨がたくさん降る前に早く帰って」
「うん! あのね! 今日めっちゃ楽しかったよ! 高川くん! 私……、友達と海に行くの初めてだったから」
「そっか? よかったね」
「うん! だから……、だから…………。またみんなと一緒に遊ぼう!」
「分かった。気をつけて帰って、河野」
「うん! バイバイ! 高川くん!」
「うん」
そう言った後、河野は帰った。
ぼとぼと…………。
そして、ゆっくり歩いていた俺の頭に水玉が落ちる。
「うん?」
なぜか、嫌な予感がするけど。
ぼとぼと…………。
「おい、マジかよ。家までまだまだだぞ!」
いきなり降り始める大雨に、仕方がなく全力で走り出した。
家に着くまで降らないと思っていたのにぃ…………! 結局……、びしょ濡れになる俺だった。
「はくしょん!」
マジか。
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