16 夏と海
「夏! そして、海! 今年も完璧すぎる俺たちの夏休みが今始まるぞぉ!」
「おい、涼太。まだ電車から降りてないから落ち着け…………」
「そうよ〜。そのエネルギーは砂浜で発散して」
「河野まで……」
「ふふっ」
電車の中、俺たち四人は今海に向かっている。
そして、寂しがり屋の青柳さんを深夜の四時まで慰めてあげた俺は……電車でうとうとしていた。まさか、海に行く日に寝不足だなんて……。でも、青柳さんめっちゃラ〇ン送ってたし、すぐ返事しないとまた落ち込んでしまうからさ。
眠るまでするつもりだったけど、それが深夜の四時だった。
何もしてないのに、疲れてしまった……。マジか。
「高川くん、寝不足なの?」
「あっ、ちょっと……」
「もしかして、期待……してたの?」
「う、うん……? 何を?」
「な、なんでもない! う、海のこと! 海のことよ! へへっ……」
「あっ、うん。海はいいよね」
「うん!」
なんか、河野……距離感が近いな。
この前まで全然知らない人だったけど、一緒にショッピングをしたあの日から少しずつ……距離を縮めているような気がする。
気のせいだよな?
「…………」
ちらっと千春の方を見るあおい。
……
海に着いた俺と涼太は先に水着に着替えて、女子たちを待っていた。
今日は天気がいいね。
そんなことより、めっちゃ寝たい。
「千春、お前さ」
「うん?」
「青柳さんと……、その……付き合ってるのか?」
「いや、付き合ってないけど? どうした? いきなり……。お前らしくないな」
「あはははっ……。まあ、仲良さそうに見えたからさ。一応、分かった」
「ふーん」
まあ、あの時は青柳さんとくっついてたから誤解されるのも無理ではない。
でも、青柳さんが俺なんかと付き合ってくれるわけないだろ。少なくとも俺が美波みたいな性格だったら、可能性はあったかもしれない。俺と違って、なんでもはっきり言えるすごい人だからさ。
「お待たせ!」
「よっ!」
「ほのか! そして、河野! そう、これが夏だぁ! 高三……、最後の夏を楽しもう!」
「おう!」
みんな、テンション高いな。
そのまま海まで走る涼太と清水、俺は面倒臭いからパラソルの下で二人の方を見ていた。
「ねえ、高川くんは海に入らないの?」
「うん。俺はいつもこうだったから……。この位置で、あの二人を見つめるだけでいいよ」
「せっかくここまで来たのに、海に入らないなんて! 一緒に入ろう! 高川くん」
「えっ?」
さりげなく手首を掴む河野に、仕方がなく海に入ることにした。
さっきの話通り、せっかくここまで来たからさ。
てか、眠いんだけど。
「ねえ」
「うん?」
「まだ……、水着の感想……! 聞いてないけど…………」
「ああ……、可愛いよ。河野。やっぱり、こっちの方が似合う」
「ふふっ、ありがと。嬉しい! 行こう!」
「うん」
でもさ……、なんで河野は俺を見て笑ってくれるんだろう。
「おい! やっと来たか! 俺の水鉄砲を喰らえ!」
「うっ……! 助けてぇ! 高川くん!」
「千春の後ろに隠れても無駄だぞ! ほのか!」
「私もいるよ〜?」
「えっ!」
俺……海に足しか入れてないのに……、あの二人のせいであっという間にびしょ濡れになってしまった。
そして、なぜか俺にくっつく河野……。
いや、くっつくのは構わないけど……、抱きしめるのはよくないと思う。恥ずかしいだろ。俺たち……、まだそういう関係じゃないから。
「ううっ……。助けてぇ、高川くん…………。これ! これを……!」
「まったく……」
「おお! ちはるっ———!」
河野にもらった水鉄砲で、まずは涼太の顔に一発。
「えっ!? 早い! でも、私はそう簡単にっ———」
そして、清水の顔にも優しく一発。
「ケホッ! こうなったら! あれしかないよね? ほのか!」
「そうだね! 涼太くん」
「何を…………」
「ふふふっ」
何かを企んでるように見えるけど、あの二人に簡単に騙されるほど俺はバカじゃないからさ。
いや、その前に俺は水鉄砲を持って何をしているんだろう。
「今だ! 河野!」
「はあ?!」
「分かったよ! 任せてぇ!」
「うん? えっ?」
後ろにいる河野に急に抱きしめられて、持っていた水鉄砲を落としてしまった。
その作戦って、河野の裏切りだったのかよ……。
しかも、さっきまで助けてって言ったくせに何気なく俺を裏切った……。冷静な判断だな。そっちの方がもっと楽しいから、俺も分かる。でも、やっぱり女の子に抱きしめられるのは恥ずかしいな……。いろんなところが触れて、いろいろやばいけど、すぐ口に出せない俺だった。
「うっ……」
河野の柔らかい感触……、意識してはいけない。
しっかりしろ、千春。
「やった! 千春の負け!」
「ええ……、河野に裏切られたぞ〜。俺は」
「それが……俺たちの作戦だ! どうだ! 千春!」
「まったく……」
「ひひっ、ごめんね〜。高川くん。今年は絶対海に連れて行きたいって二人に言われて……」
「いや、気にしなくてもいいよ。河野。俺も……楽しかったよ。あはは……」
「うっ———!」
「うっ———!」
海に落とした水鉄砲を拾って、素早く二人を撃つ。
復讐完了。なんか、ふと美波とあったことを思い出してしまう。俺が小学生だった頃、美波とこんな風に遊んだことあるからさ。ほぼ30分間美波の水鉄砲に撃たれたよな……。
それがいい思い出なのかはよく分からないけど……。
「油断したぁ!」
「私も…………」
「復讐だぞ」
てか、眠い…………。
「で……、河野はなんか嬉しそうに見えるけど?」
「えっ!? そ、そうかな? あ、あのね! 高川くん! い、一緒に飲み物買いに行かない? へへっ」
「そうだ! そうだ! 負けた人は俺たちのジュースを買ってこいよ〜」
「ええ……」
「そうだよ〜。私たちの勝ちだからね〜」
「分かった、分かった……」
濡れた前髪を後ろに流して、海を出る。
すると、じっと俺の方を見つめる河野だった。
「ど、どうしたの? 河野」
「いや……、なんでもない。カ、カッコいいなと思って……」
「えっ? えっと……、河野……大丈夫?」
「えっ? だ、大丈夫……!」
「いや、いきなり変なことを言うから……」
「えっ? カッコいいって言っただけだよ?」
「うん。それが変ってこと。俺はカッコいい人じゃないからさ」
「ええ……、どうして?」
「どうしてって言われても……、カッコいいって言われるほどカッコいい人じゃないからだよ」
「私はカッコいいと思う……! 自信を持って!」
そう言いながら背中を叩く河野……、カッコいいか……。
でも、それは俺じゃなくて、涼太に相応しい言葉だと思うけど……。
「恥ずかしいからやめてくれ……」
「ひひっ、照れてるの〜? 可愛いね〜」
「うるさい! 早くジュース買いに行こう」
「はいはい〜」
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