15 夏休みの予定②

「涼太、俺……聞きたいことがあるけど。聞いてもいいか?」

「うん。どうした? 千春」

「なぜ……、俺たち……女の子の水着を売るお店に来ているんだ……?」

「そこに男の夢があるからだ! 千春! ほのかの水着姿がめっちゃ見たくて、居ても立っても居られねえんだよ……! 俺!」

「あ、そっか……」


 今年の夏も涼太たちと海に行くことになったけど、まさか……清水の友達まで連れて行くなんて。そういえば、俺……河野と一度も話したことないのに、なぜ河野だろう。でも、そんなことより女の子たちの水着姿は恥ずかしいから、涼太をほっておいて俺一人だけ外でスマホをいじっていた。


 そして、青柳さんに返事しないといけないんだからさ。

 もう40件……来てるし。


「あれ……? 高川くん! ここで何してるの?」

「あっ、河野……。あれ? もう買ったのか?」

「ううん……。試着しようとしたら、高川くんがいなくなってね。探してたの」

「ええ、俺はいいよ。好きな水着を選んで、清水と」

「あの……」


 何か言いたいことでもあるのかな? うじうじしている河野が俺と目を合わせた。


「私の水着…………、選んでく、くれない……?」

「えっ? 俺が……河野の水着を?」

「う、うん! どっちがいいのか、よく分からなくてね! ダ、ダメかな?」

「えっと……、そんなことなら俺じゃなくて、涼太に頼んだ方がいいと思うけど? 俺……、女の子の水着とかよく分からないし…………」

「宇田川くんはほのかちゃんの彼氏だからね、さすがにそれは言えないかも……」

「そっか。でも、俺でいいのか? 本当に」

「うん!」

「分かった……」


 このお店にはなるべく入りたくなかったけど……、河野に頼まれて仕方がなく試着室の前で彼女を待っていた。本当に……、俺が河野の水着を選んであげないといけないのか? 涼太はめっちゃ楽しんでるけど、俺はめっちゃ恥ずかしかった。


 それはほぼ半裸だろ! 女の子の半裸を見ろってことか!? 恥ずかしすぎる!

 なぜそんなことで悩んでいるのか分からないけど、女子経験ゼロの俺に女の子の水着姿は半裸にしか見えなかった。清水の水着はいつも涼太が選ぶし、一緒に海に行っても俺は清水のことあまり気にしないから……なんとなく楽しんでだけど、今年はやばいな……。


 これ、ダブルデートじゃん。


「高川くん! 待たせてごめんね! 今すぐ着替えるから」

「う、うん……」


 下を向いたまま答える千春、真っ赤になった彼の耳を見てあおいが微笑む。


「ねえ、これはどうかな? 似合う?」


 黒色のビキニ……。高校生が着るにはちょっと……大胆すぎでは?

 でも、どうしよう……。似合うかどうかそれを言う前に……、ちゃんと河野の方を見れないんだけど?

 俺に露出の多い水着はやっぱり無理だった。


「に、似合わないの? 高川くん」

「えっ? あ、あ……、えっと。に、似合う…………」

「じゃあ、次の水着に着替えるから! 待ってて!」

「う、うん……」


 バレないよな? めっちゃ恥ずかしくて、顔が熱くなってるけど……。

 てか、俺はなぜこんなに照れてるんだろう……。馬鹿馬鹿しい。


「ねえ、高川くん! これは〜?」

「フリルついてるね」

「そう! ホワイト色にフリルついてるから、可愛くない〜?」

「うん。可愛いと思う」

「あら、こっちの方がいいの……? 反応がさっきと全然違うね」

「う、うん……」


 当たり前だろ……? さっきのは胸も腹も全部見えてきたからさ…………。

 それと違って今のはフリルがついてるから、露出度が5%くらい減ったと思う。意味ある数値なのかは分からないけど……。


 とにかく、俺はこっちの方がいいけど、河野はどうかな。


「じゃあ、これにしようか? 高川くんの好きな水着!」

「えっ!? い、いや、俺は好きとか言ってないよ! 河野」

「恥ずかしいの? 女の子の水着姿を見るのが」

「そんなこと言うな。恥ずかしいから……」

「…………じゃあ、初めて着たあのビキニにしようかな〜」


 そして、さっきのビキニを見せる河野がくすくすと笑っていた。

 この人、わざと俺に恥ずかしいことを言ったのか……? まったく……。


「私……、けっこう自信あるけど…………」

「い、いいから……、早く決めて! お、俺は外で待つから!」


 そう言いながら、試着室を出る俺だった。

 なんで……、青柳さんも河野もあんなことをさりげなく言い出すんだろう。男の前でそんな発言は恥ずかしくないのか? 本当に分からない。


「あら、千春じゃん。外に行った———。お前、なんで顔真っ赤になってんの?」

「えっ? な、なんの話だ?」

「いや……、もしかして……の、覗いたり?」

「んなことするわけねえだろ! 俺は外にあるベンチで待つから早く二人を連れてこいよ! 涼太」

「あっ、う、うん……」


 ちらっと千春の方を見るほのかが微笑む。

 そして、ちょうど試着室から出てきたあおいがほのかの方を見て笑みを浮かべた。

 こくりこくりと頷くほのか。


「なんだろう、あいつ……。顔、真っ赤になって……」

「だよね〜。なんで、真っ赤になったのかな〜? ふふふっ」

「おっ、河野! 水着は選んだのか?」

「うん! 高川くんが選んでくれたからね」

「ああ! そうか、そうか、そういうことだったのか〜」


 外でスマホをいじる千春を見て、ニヤニヤする涼太だった。


「今年の夏休みは楽しそうだね」

「そうだよね〜」

「そうだね〜」


 ……


(小春)海、羨ましい…………。私も一緒に行きたい!

(小春)私ね! 水着たくさん持ってるから、見せてあげようか! セクシーな水着と可愛い水着! どっちが好きなの?

(千春)だ、大丈夫です。恥ずかしいからやめてください……。

(小春)み、見たくないの? 私の水着姿……。

(千春)そ、そんなことじゃなくて! もう水着の話はやめましょう……。

(小春)ひん……。千春くんのバカ……。


 そう言いながら、すぐ写真を送る青柳さん。

 もう……水着なんかどうでもいいよ。恥ずかしいんだからぁ———!

 まったく……、恥ずかしいのは俺だけかよ……。


「はあ……」


 でも、可愛かったから……。素直に「可愛い」と返事をした。

 青柳さんの水着姿かぁ……。


「…………」

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