14 夏休みの予定

「やっと終わったのかぁ……」

「わぁ……。終わったぁ……」


 眩しい日差しが照らす講義室の中。外を眺める美波と机に突っ伏している小春が何もせず席でじっとしていた。

 そして、ため息をつく。


「ようやく夏休みだね。今年の夏は何をしようかな……」

「あっ! そうだ! 夏休み!!!」


 うっかりしていたことを思い出して、いきなり大声を出す小春だった。


「美波……。夏休みだよ? 夏休み…………!」

「うん。夏休みがどうしたの? 小春」

「私……、まだ千春くんに夏休みの予定を聞いてない! 勉強ばかりやっててうっかりしてたよ!」

「千春なら……、今年も友達と海に行くと思うけど……」

「えっ?」


 それを聞いた小春が持っていたスマホを机に落とした。

 そして、再び机に突っ伏す。


「…………やっぱり、私なんかより……友達と一緒に過ごす夏休みがもっと楽しいってことだよね。私も……、私も知ってるけどぉ…………。それでも……! それでもね! 私も千春くんと一緒に海に行きたいんだよぉ! どうして……、私には言ってくれないの? ひどい……」

「…………」


 机に突っ伏したままわけわからないことを言う小春に、美波はさりげなく彼女の背中を撫でてあげた。

 こんな小春にはもう慣れているという表情をして。


「そういえば、そのスマホとケース。千春と一緒だね、小春」

「えへへっ、そうだよ! このケース、デートをする時に千春くんにプレゼントしたよ。その後……、家まで送ってくれたし、そして…………私のこと」


 だんだん顔が赤くなる小春に、精一杯笑いを我慢する美波だった。

 その後何を言うのか、彼女は知っていたから。


「ハグ……、してくれたよ……。うぅ———っ!!!!! カッコよすぎ! もっとぎゅっと抱きしめるべきだったよ! 惜しい! 滅多にないチャンスだったのに! もっと! 千春くんの温もりを感じるべきだったぁ……」

「そうだね……。よくやった! それで……、ハグして気持ちよかった? 小春」

「うん! すっごく! 気持ちよかったよ! でも、またやってくれるのかな?」

「やってくれると思うけど……?」

「そ、そうかな!? えへへっ」

「そろそろ帰ろう、小春」

「うん」

「あのさ、高川と青柳。ちょっといいか?」

「うん?」


 そして、二人が帰ろうとした時、大学でよく知られている先輩に声をかけられる。

 普段から女子たちと遊びまくるイケメン先輩。周りの女子たちがしょっちゅうあの先輩に声をかけるのを美波は知っていた。要するに、関わりたくない人間。美波はそう思っていた。


「遊びに行かない?」

「えっ? 私たちですか?」

「そうよ。高川と青柳のこと! 今から俺と遊びに行かない? 俺の友達も呼ぶからさ」

「すみません。今日は予定があるんで」

「そうか? じゃあ、青柳は?」

「えっ? わ、私は…………」

「予定ないよね?」

「すみません、小春も今日私と一緒に行くんで」

「そっか……。青柳のことめっちゃ期待していたのにな」

「すみません〜」


 何も言えず、その場でじっとする小春。

 それをよく知っていた美波がさりげなく彼女の手首を掴んだ。


「行こう、小春」

「うん……。美波…………」


 ……


 そして、美波の家。

 ソファでテレビを見る美波とそのそばでスマホをいじる小春。


「ねえ、小春。千春とラ〇ンしてるの?」

「うん……! 最近、すぐ返事してくれるからね……! すごく嬉しい!」

「あのね、小春」

「うん? どうしたの? 美波」

「またあの先輩に誘われたら、あの時ははっきりと断った方がいいよ……。小春は断るのが苦手ってこと、私もちゃんと知ってるけど、私に頼るだけじゃ成長できないんでしょ?」

「……ごめん。なんか……、怖くなって」

「まったく……、頑張れ! 私がそばにいるから、そしてあいつもいるからね!」

「うん! 私……次ははっきりと言うから!」

「やっぱり……、小春は可愛いね。それに……」

「それに?」

「胸も……大きいし。ねえ、昨年よりもっと大きくなったような気がするけど?」

「…………そんなことないよ! 美波のバカ!」

「あははっ」


 ……


(小春)ねえねえ、千春くん。夏休み、美波に予定あるって言われたけど……。

(千春)はい。

(小春)海から帰ってきた後、私と過ごす時間……増やしてくれない?

(千春)えっと。

(小春)や、やっぱり……、無理だよね? せっかく友達と過ごす夏休みなのに。

(小春)でもね。私も……、千春くんと一緒に夏休み過ごしたいから!!!

(千春)は、はい……。

(小春)だから、私と過ごす時間増やしてぇ……。千春くん……。


 ラ〇ンの返事って、こんなに難しかったっけ……?

 どうやって返事すればいいのかだんだん分からなくなる俺だった。

 一応、テストは終わって……俺にも余裕ができたけど、今年の夏休みを青柳さんと過ごすのか……。考えたこともないことだからすぐ返事できなかった。でも、大学生の夏は高校生よりもっと楽しくないのか? 美波と一緒に遊びに行ってもいいと思うけど、なぜ俺と過ごそうとしてるんだろう……。


 まずは……、「分かりました」と返事をした。俺もなぜそう返事したのか分からない。青柳さんとデートをしたあの日から……、少しずつ……変な感情が湧いてくるような気がした。


 上手く説明できないけど……、そんな感じ。


「あ、あの……。高川くんだよね?」

「うん? えっと……誰?」

「あっ! 自己紹介がまだだったね。私は河野こうのあおい! ほのかちゃんの友達だよ! 今年、みんなと一緒に海行くって言われたから……」

「ああ……! 涼太に言われたのか?」

「そうよ!」

「そうなんだ。よ、よろしく」

「よろしくね〜。高川くん!」


 まずは……、涼太たちと海に行くって約束をしたから仕方がない。


(小春)じゃあ、海から帰ってきた後はずっと私と一緒だよね?


 そして、そのラ〇ンに返事をする暇もなく、俺は涼太たちと学校を出た。

 今日は「一緒にショッピングしよう」って言われたからさ。

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