13 デートがしたい!④

 それにしても……、青柳さんって手繋ぐのめっちゃ好きだな…………。

 さっきからずっと手を繋いでいた気がする。多分……、スマホをいじったり、何かを食べたりしない限りこの手は離してくれないと思う。一緒に動物を見る時も、そして歩き回る時も、ぎゅっと俺の手を握っていたから。


 なんで離してくれないんだろう、迷子になるわけないのにな……。

 少し恥ずかしい俺だった。


「もうこんな時間……! な、何もしてないのに……どうして?!」

「あっという間でしたね」

「だよね? このまま家に帰らないといけないなんて……! もうちょっと千春くんと一緒にいたいのに! 私はまだ帰りたくないよ!」

「また……遊びましょう。時間はたくさんありますから……」

「うん!!!」


 広場のベンチ、帰る前にしばらくそこで時間を過ごしていた。

 そばにいる青柳さんは今日二人で撮った写真を見て、俺はそんな彼女の横顔を見ていた。すごく喜んでいる青柳さん、今日はいろいろあったよな。いろんな動物と写真を撮ったり、ソフトを食べたり、そして……青柳さんナンパされたりさ。


 すごく緊張していたけど、それでも楽しかった。


「あのね……! 実は……、私……! 千春くんにあげるプレゼントを持ってきたけど……」

「俺にですか?」

「うん!」


 そして、ハンドバッグの中からスマホのケースを取り出す青柳さんだった。


「これ! あげるから……!」

「えっ? い、いいですか? でも、これ……ちょっと高そうに見えますけど?」

「そんなに高くないから……、き、気にしなくてもいいよ……」

「その顔……。怪しいですね」

「そ、そ、そんなことないよ〜? あ、あはは…………」

「これ、いくらですか?」

「…………た、高くないって言ったでしょ? わ、私のこと疑ってるの? ち、千春くん!」


 声めっちゃ震えてるし、それに俺から目を逸らしてるし、どう見ても怪しい状況だろ? 一体、いくらなんだ……。見た目では3千円くらいすると思うけど、値段をすぐ言えないのはそれ以上ってことかな。


 なんか、怖くなってきた。


「い、言わなきゃダメなの……? うぅ……」

「はい。素直に話してくださいよ。そうじゃないと、これ返します」

「えっ! 嫌だ! そのケース6200円……だけど……」

「えっ?」


 ちょっと待って、このケース……よく見たら青柳さんが使ってるケースと同じケースじゃん。こないだ新しいスマホを買ったのに……、まさかスマホのケースに12400円を使うとは……。すぐそばからちらっと俺を見る青柳さんに、俺は何を言ってあげればいいのか分からなかった。


 いくらなんでもこのケース高すぎじゃね?


「素直に話したから! それ使ってよ……」

「は、はい……。でも、青柳さん。次はこんな高いの自分のために買ってください」

「わ、私のために買ったよ? ほら!」


 堂々と自分のスマをを見せる青柳さん。

 言いたいことは大体分かってるけど、それでも……スマホのケースが6千円を超えるのは高すぎだろ? それをもらう俺の立場も少しは考えてほしい。なんか、こっちもその価値に相応しい何かをプレゼントしないといけないような気がする。


 気持ちは嬉しいけどな。


「一緒ですね……」

「…………」

「ごめん……、やっぱり嫌だよね? 気持ち悪いよね? いきなり、私と同じスマホケースを使うのは……」


 しまった……。もしかして、顔に出てしまったのか? 俺……。

 でも、あんな高いケースをもらってしまったから、仕方がないだろ。

 とにかく、今はテンションを上げないと。


「俺は……! 好きです! あ、ありがとうございます! ただ…………」

「ただ?」

「俺……、まだ学生ですし。こんな高いものプレゼントできませんから……、それがちょっと気になってて」

「いいよ! そんなの気にしないで! 私は、私がプレゼントしたいから。これをあげて! 喜ぶ千春くんが見たいからね! それだけだよ」

「は、はい……」


 同じ機種、同じカラー、同じケース…………。

 青柳さんにもらったケースをつけた後、スマホの背面を見ていた。

 こういうのは……、やっぱり恋人同士でやることだと思う。俺らしくない可愛い動物キャラが描かれているこのケース、涼太たちにバレたらきっとからかわれるよな。あいつら、こういうの絶対見逃さないからさ。


 でも、いいね……。こういうのも。

 てか、有名キャラとのコラボケースだったんだ。青柳さんが好きそうな可愛いキャラだね。


「私と一緒! ひひっ♡」

「そ、そうですね」

「ねえ、そのケース大事にしてくれるよね?」

「当たり前です。青柳さんにもらったケースですから」

「うん!!!!!」


 ……


 午後八時。日が暮れて、周りがだんだん暗くなっている。

 そして、一応デートだから青柳さんを家まで送ってあげることにした。きっと青柳さんもそれを望んでいたはずだから……、ぎゅっとその手を握って彼女の家までゆっくりと歩いてきた。


「あ、ありがと……! 千春くん! 今日すっごく楽しかったよ!」

「はい。俺も……青柳さんと一緒にデートをして楽しかったです」

「あ、あの……!」

「はい?」


 帰ろうとした時、後ろから俺のシャツを掴む青柳さん。

 その顔が真っ赤になっていた。


「ど、どうしましたか?」

「うちに……入らない?」

「あっ、今日はちょっと……」

「ううぅ…………。もうちょっと一緒にいたいのにぃ……。どうしよう…………」


 なんか、丸一日くっつくだけじゃ足りないみたいだ。


「…………うっ……」

「また、一緒に遊びましょう……。青柳さん」

「じゃあ…………」


 そして、耳も赤くなる。


「一度だけでいいから! ぎゅっとして!」


 そう言いながら……、目を瞑って両腕を広げる青柳さん。

 ハグしてほしいってことか。

 まったく……、いつもそういう恥ずかしいのばかり言い出して……。


「一回だけですよ? 青柳さん……。俺、こういうの恥ずかしいから」

「うん!」


 震えているその手を見て、俺はぎゅっと青柳さんを抱きしめてあげた。

 すごくやばい感触……。そして、青柳さんの温もりが伝わってきてすごく気持ちいい……。

 なるべく、手を繋ぐこと以上のスキンシップは控えたかったけど、そんな可愛い顔をしてやりたいって言ってるから……。俺も我慢できなくなる。今日丸一日……青柳さんとくっついていたからさ。


 それに高いケースももらっちゃったし……、もう限界だ。

 一回だけだ。本当に一回だけだから! 千春。


「うっ……。は、離れないで……。もうちょっと…………」


 今度は青柳さんの方からぎゅっと俺を抱きしめる。


「はいはい……」

「へへっ、これ……いいね♡」

「…………」


 やべぇ……、顔が熱くなってきた。すっごく恥ずかしいんだけど、これ。

 そのまま十分間、青柳さんとくっついていたと思う。家の前で……何をしてるんだろう、俺たちは……。


「…………」

「充電完了……♡」


 やっぱり……、青柳さんはめっちゃ可愛いな。好き……。

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