12 デートがしたい!③

 そして、週末。やっとあの日が来た。

 今日は美波が買ってくれた服を着て、青柳さんとのデートを楽しむつもりだったけど、なぜか青柳さんとリンクコーデをしている俺だった。ファッションについてあまり詳しくないけど、それでも……付き合ってない相手とリンクコーデをするのはよくないと思う。これはどういう状況だろう。


 偶然か?

 でも、こんな偶然があってもいいのか? なんで美波はこんな服を……。


「か、か、か、可愛い!!!!! 私たち……、今日絶対楽しい一日を過ごせると思う! リンクコーデ大好き!!!!!」

「は、はい……」


 まあ、青柳さんが好きって言ってるからそれでいいかな?

 それにしても……、今日の青柳さん露出度が高い。

 そのオフショルは可愛くていいと思うけど、スカートが短すぎる……。それが気になるのは俺だけなのか? 周りの男たちがちらっと青柳さんを見るのが嫌だった。すごく嫌だった。


 なんだよ、この気持ち……。変だ。


「どうしたの? 千春くん。具合悪いの? 顔……、すごいんだけど」

「いいえ、なんでもないです。行きましょう」

「うん! あっ、あのね!」

「はい?」

「その…………」


 指をいじりながらちらっと俺の方を見る青柳さん、何がしたいのかすぐ分かってしまった。

 あれだよな。


「はいはい……。すみません、そういう約束でしたよね?」

「うん……。バカ」

「すみません……」


 金曜日、家に帰る前に俺は青柳さんと一つ約束をした。

 それは動物園に行った時、青柳さんと手を繋ぐこと。そして、繋いだ手は家に帰るまで離さないこと……。つまり……、ずっと青柳さんのそばにいないといけないってことだった。


 まったく……、俺がいないとすぐ不安になるのかな? 分からない。


「ねえねえ、私……ずっと見たかった動物があるけど!」

「なんですか?」

「パンダ!」

「パンダ? パンダは可愛いですね。行きましょう」

「うん!」


 ぎゅっと俺の手を握りしめる青柳さんは笑みを浮かべながらパンダを指していた。

 でも、俺は可愛いパンダより周りの視線がもっと気になる……。さっきからずっと青柳さんを見ている男たち、それにすぐそばに彼女がいるやつも堂々と青柳さんを見ていた。


 マジかよ。


「ねえねえ、千春くん。一緒に写真撮らない? パンダと!」

「はい。そうしましょう」


 なんで、俺が……あんなやつらを気にしないといけないんだろう。

 せっかく動物園まで来て……。


「へへっ、たくさん撮ろうね〜。写真」

「はい!」


 そのまま俺をいろんなところに連れていく青柳さんだった。

 レッサーパンダやカピバラ、そしてモルモットなど……可愛い動物を見るたびに俺と写真を撮る。くっついて仲良くピースサインをする二人。これ、どう見てもカップルにしか見えないから少し恥ずかしかった……。


 そして、すぐそばに青柳さんがいるから緊張している。距離が近すぎ…………。


「へへっ、なんか暑くなった!」

「夏ですからね。ここで待ってください。ジュースとか買ってきますから」

「ありがと〜」


 ううん…………。

 今日は暑いからできればジュースを買いたかったけど、広場にソフトアイスを売るお店しかなくて、抹茶とバニラ味のソフトを買った。てか、さっきまでずっとくっついてたからか、ちょっと離れただけですごい解放感を感じる。多分……、青柳さんのそばでずっと緊張していたから……、それで疲れたかもしれないな。


 デートってすごく難しいことなんだ。


「ああ……」


 そして、青柳さんのところに戻ってきたから……、当たり前のように男たちにナンパされていた。

 マジかよ。


「お姉さん可愛いね。一人〜? 一緒に遊ぼう〜」

「…………と、友達と……一緒に…………来ました」

「ええ〜。聞こえないよ、俺たちと一緒に行こう! きっと面白いはずだからさ」

「あ、あの……」

「一緒にどこ行くんだ? 天国でも連れて行ってくれんのか?」

「だ、誰だ?」

「誰? それはこっちのセリフだけど? お前らここで何してるんだ? 俺の女に勝手に声かけんなよ」

「……マジか、彼氏いたのか?」

「チッ。おい、帰ろう……」


 動物園でナンパだなんて、何しに来たんだろう……。あいつら。

 てか、可愛いのはいろんな意味ですごいな。

 いつあんなやつらが寄ってくるのか分からないから……ほっておけない。そして、青柳さんもそうだ。はっきりと断れない性格だから、もし俺がすぐ戻ってこなかったらあいつらに取られたかもしれない。


 バカ。


「ごめんね……」

「俺に謝らなくてもいいですよ。悪いのはあいつらです。バニラと抹茶どっち食べます?」

「バニラ!」

「はい」

「次はね……。一緒に行こう……。一人になるの怖いし、特にやることもないから」


 そう言いながら自分のソフトを俺に食べさせる青柳さんだった。


「あーん」

「…………」

「私にも食べさせて……」

「はい」


 そして、青柳さん……間接キスなど全然気にしない……!!!

 食べかけのアイスを食べさせるなんて……一体どういう思考回路だよ! 子供でもあるまいし。それに、距離も近すぎる! 俺……! なんでそんなに青柳さんのことを意識してるんだ……! 落ち着けぇ!!!!! このバカァ。


 バカすぎて、ため息が出そうだ。


「…………」

「へへっ♡」


 まあ、青柳さんが楽しいならそれでいいけど…………。


「今日撮った写真ね、さっきイ〇スタに全部載せちゃった!」

「えっ!? お、俺と一緒に撮った写真をですか?」

「うん! 見て見て! ハートたくさんもらったよ! えへへっ」

「…………」


 すごい行動力。それに、俺と同じ色のスマホ……。可愛い……。


「へへっ♡」


 デートは初めてだけど、その相手が青柳さんで……よかったと思う。

 俺に彼女なんかできるわけないし、いい思い出を作ってくれた青柳さんに感謝しないとな。


「あのね! さ、さっきの……話が、ちょっと! 気になるけど!」

「はい? なんの話ですか?」

「俺の女に勝手に声かけないでって言ったでしょ?」

「ああ、それ———」

「私……千春くんとそういう……関係…………」


 なんか、すごく期待してるように見えるけど……? その目がやばかった。


「変な妄想は禁止ですよ、青柳さん」

「あっ……。なんか、急にテンションが下がる……。帰りたい」

「じゃあ、今日はこの辺で帰ります?」

「いや! もうちょっと一緒にいたい! 帰りたくない!」


 どっちだよぉ……。


「もうちょっと……! 一緒にいよう! せっかくだしね!」

「はい。そうしましょう」

「うん!」


 その手を握って、もう少し一緒に動物園を回ることにした。


「私は……、気にしないのにぃ……」

「はい? なんか言いましたか?」

「いや! な、なんでもなーい!」

「は、はい……」

「…………むっ」


 こっそり頬を膨らます小春だった。

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