11 デートがしたい!②

 金曜日の午後。あまり行きたくなかったけど、俺は今美波の家に来ている。

 なぜなら……、青柳さんとデートをするようになったからだ。そして、普段から外に出かけない俺は制服とジャージー以外の服持ってないし。それに女子とデートをする時に何を着たらいいのかも分からない。涼太たちと遊ぶ時は適当にジャージーを着てたからさ、コーデを気にしないのもあるけど、センスがないのも問題だった。


 でも、この前……青柳さんめっちゃオシャレしたからさ……。

 そんな綺麗な人と俺は一緒に歩けるのか? 想像するだけで緊張してしまう。

 だから、俺もある程度……オシャレをする必要がある。


「それで、小春とデートをする時に着る服を選んでほしいってことなの?」

「うん……。なんで、俺とデートをするのか分からないけど……、めっちゃ行きたがる顔だったからさ」

「…………まったく、あんたはね」

「何……?」

「いや、なんでもない。先に言っておくけど、あんた私がプレゼントした服なんでも着るよね?」

「いや、俺のお金で買ってもいいけど?」

「うるさい、質問に答えろ」

「はい……」


 その後……、部屋からメジャーを持ってきた美波が俺のサイズを測ってくれた。

 てか、俺……今までデートとかやったことないからどうすればいいのか全然分からないんだけど、それを美波に聞いてもいいのかな? いや、この人……絶対変なことを言うからやめよう。


 そして……、さっきから俺のスマホにすごい量の通知が———。


「小春からの連絡?」

「あっ、うん。多分…………。俺……、美波と青柳さん以外の女子とは全然連絡しないし、連絡先も持ってないからさ」

「…………」

「やべぇ、後で返事しないと……」

「千春」

「うん?」

「小春のこと面倒臭い?」


 いきなり? なんでそんなことを聞くんだろう。


「別に? どうしてそんなことを聞くんだ? あっ。でも、少しだらしない人だと思う……」

「ふーん、分かった。サイズはちゃんと測ったから、私は今からあんたの服を買いに行くけど、どうする? 一緒に行く?」

「いや、美波に任せる。どうせ、俺センスないし……」

「分かった。そう、この後小春が来るからよろしく」

「えっ? 来るの?」

「うん」


 そう言った後、家を出る美波。

 そして、青柳さんが送ったラ〇ンを確認する。


(小春)今日、近所のカフェに寄ってケーキとか買っていくから一緒に食べよう!

(小春)ねえねえ、今日はすぐ帰らないで。

(小春)美波もいるし! 三人で映画でも観ようよ!

(小春)この前にね! めっちゃ面白い映画を見つけたから、一緒に観たい!

(小春)千春くん?

(小春)返事がない……。

(小春)千春くん? もしかして、私が邪魔をしたのかな……?

(小春)千春くん……、返事してぇ……。ごめんね、私のこと嫌いにならないで。

(小春)帰らないで! 今すぐ行くから! 待ってて!


 仕方がなく、すぐ青柳さんに電話をかけた。

 よく分からないけど……、青柳さんは電話めっちゃ好きそうな気がして、返事できなかった時はこうやって電話をかける。

 すると、青柳さんのテンションをすぐ確認できるからさ。


「ち、千春くんだ!!! い、今どこ!?」

「美波の家ですよ。すみません、すぐ返事できなくて電話しました……」

「私……、てっきり嫌われたと思って……」

「そんなことないですよ? 心配しないでください」

「う、うん! 私! 今……、マンションの前に着いたから! 切るね!」

「はいはい」


 相変わらず、余計なことを心配している青柳さんだった。


「千春くん! へへっ……」

「あっ、青柳さん。なんか……、両手にたくさん…………」

「千春くんと美波にあげるケーキをたくさん買ってきたよ! あれ? 美波は?」

「美波はショッピングしに行きました」

「そうなの? 意外だね。今日は予定ないって言われたけど…………」

「あはは……」


 その理由は言えなかったから、すぐお茶を淹れた。


「仕方ないね。今日は二人で映画を観よう! 千春くん」

「はい。そうしましょう」

「へへっ」


 買ってきたケーキをテーブルに置いて、テレビをつける青柳さん。

 そのままソファでじっとする。

 そして、ポンポンと隣席を叩く青柳さんに、少し照れてしまう俺だった。今日……撮影でもあったのかな……? いつもと全然違ってめっちゃ可愛いんだけど……? その髪型や服装も……可愛い。眩しすぎる……。


 やっぱり、そばに座るのは恥ずかしいからさりげなく床に座った。

 レベルが違う……。


「なんで、床に座るの? そばに座ってもいいのにぃ……」

「えっ? えっと……、床に座ります…………」

「私のそばに来て!」

「はい……」


 そして、青柳さんのそばに座ると当たり前のように俺にくっつく。

 なぜ、くっつくのか……それを聞くのもできない。そんなことを聞いたら、俺が青柳さんのことを意識してるように見えるから、絶対ダメだった。そして、初恋の人があんな風にくっつくのはやっぱり心臓によくないな……。可愛すぎて、どうしたらいいのか分からなくなる。


 それに、なぜか人差し指で俺の脇腹をつつく。


「ねえ、ケーキ食べないの? これ……美味しいよ?」

「は、はい……」

「あーん」

「い、いいです! 自分で食べますから!」

「あーん」

「…………あ、あーん」

「…………」

「よしよし……」


 頭……、撫でられてる…………。

 俺はペットかな?


「明日……デートだよね? ふふふっ」

「そうですね」

「楽しみ〜。私、千春くんとあんなところに行ってみたかったからね〜」

「そうですか? 俺……初デートですから、よろしくお願いします。青柳さん」

「……うん! うう———っ! ドキドキして居ても立っても居られない! どうしよう! 今すぐ行こう!」

「えっ? ちょ、ちょっと……!」


 ソファから立ち上がる青柳さんの手首を掴んだ。

 テンション高すぎぃ……。


「あっ……、ご、ごめんね! つい……」

「いいえ……」


 そして、二人の間に静寂が流れた。


「あのね、千春くん」

「はい?」

「明日……デートだからね? だから…………」

「はい……」

「手を繋ぐ練習がしたいっていうか……。その……、明日は二人で動物園に行くからね! ちゃんと手を繋ぐ練習をしておかないと……! 千春くん迷子になるかもしれないから……!」

「…………」


 なんだろう、そのわけ分からない言い訳は…………。

 でも、指をいじりながらやりたいって言ってるからさ。

 そんなにやりたいならやらせるしかないだろ? 俺でよければ……。


「いいですよ。しましょう! 手を繋ぐ練習」

「あ、あの……! ち、千春くんが……優しく握ってほしい…………」


 なんで、そんな可愛い顔で……、そんな可愛い声で……、さりげなく恥ずかしいことを言うんだろう。

 てか、耳が真っ赤になってるじゃん。このバカ……。


「はいはい」

「…………っ!」

「…………」

「はぁ……、千春くんが……手、手を握ってくれたぁ…………♡」

「…………はい、これで終わりです」

「もうちょっと……!」

「えっ?」

「も、もうちょっと!!!!!」


 よく分からないけど、俺たちは美波が来るまで……手を繋いでいた。

 てか、ケーキは食べないんですか? 青柳さん……。


「えへへっ♡ うふふっ」

「…………」


 ダメだな……。

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