10 デートがしたい!

 平和な午後、ソファでじっとテレビを見る小春とそのそばでポテトチップスを食べる美波。そして、パッと何かを思い出した小春がスマホをいじる。

 その姿をそばにいる美波がじっと見つめていた。


「どうしたの? 小春。いいことでもあった? めっちゃニヤニヤしてるね」

「うん? へへっ、そうかな? 今! テレビでいい観光スポットを紹介してくれてね。私もあんなところに行ってみたくて、千春くんにラ〇ン送ってるの……」

「ふーん、そんなに千春のことが好きなの? 小春は」


 こくりこくりと頷く小春が、照れながら自分のロック画面を美波に見せた。


「…………相変わらず、すごい液晶だね。新しいの買えば?」

「えっ? ち、違う! これだよ! これ……!」


 そして、黒い液晶に千春の寝顔が映った時、持っていたポテトチップスを床に落としてしまう美波だった。

 ほんの少し、彼女は言葉を失った。


「何それ……、なんでロック画面が千春なの?」

「この前にね……! 酔っ払った私を家まで運んでくれて———」

「ああ、確かに……この前に小春の家に泊まったよね。で、その写真は千春が寝ている間にこっそり撮ったの?」


 またこくりこくりと頷く小春。

 すごく幸せそうに見える小春に、美波は何も言えなかった。


「そうだ。そんなに好きなら誘ってみれば? あいつ……、きっと暇だからね。断らないと思う」

「そ、そうかな? つまり、それはデート……ってこと?」

「で、さっきから何してるの? 早っ……」

「今……、千春くんに何してるのか聞いてる…………」

「あのね、いつもそんなにたくさん送ってるの? 小春」

「うん……」

「呼び出してあげようか?」

「い、いいの!? そ、そんなことしても」

「小春……。千春に会いたい?」

「うん!!! 会いたい! すっごく!」

「分かった」


 ……


 週末でもないのに、どうして俺を家まで呼び出すんだろう。

 マジで、行きたくない。

 とはいえ、俺のことをいろいろ手伝ってくれたからさ。そんな美波を無視するのはできない。


「でも、やっぱり面倒臭い…………」


 そして、美波の家に着いた時、なぜかそこに青柳さんもいた。


「で、なんで俺を呼び出したんだ? 美波」

「ポテトチップス食べる?」

「まさか、それを食べさせるために俺をここまで呼び出したのか……?」

「私は今から用事があるからね。後はよろしく〜」

「はあ? マジかよ」

「うん。何? 小春と一緒にいたくないの?」

「いや、分かったよ」

「ふふっ」


 そう言いながら家を出る美波だった。

 マジかよ。俺をここまで呼び出して……、自分は用事があるから家を出るのか?

 いくら俺の姉だとしてもそれはちょっと……、それに青柳さんさっきからすごい目で俺を見ている。後ろを見るのが怖い。


「あの……」


 そして、さりげなく俺の手を握った。


「はい、青柳さん……」

「ソファに行こう! お菓子食べる?」

「あっ、いいえ。大丈夫です」


 というわけで……、俺は今青柳さんと二人っきりの時間を過ごすようになった。

 でも、すぐそばでニヤニヤしてるし、なんかじっと俺の方を見てるし……。これから何をすればいいのか分からなかった。前にもそうだったけど、青柳さんと二人っきりになるのは苦手だ。


 一緒にいるとずっと緊張するからさ……。


「…………」


 本当に何をすればいいのか分からない。

 そして、青柳さんの視線がすごく気になる……。


「あ、あの……。ラ〇ン送りましたよね? すみません、今日人が多くてすぐ返事できませんでした」

「あっ、だ、大丈夫! あれ……? 千春くんは美波と同じ機種なの?」

「あっ、は、はい! 6年間同じスマホ使ってたら……、美波があんたそのスマホいつまで使うつもり?って言いながら最新機種を買ってくれました……。こんなに高いのいらないのに……」

「へえ、私もスマホ変えようかな……。私……、千春くんと同じ機種使いたい!」

「いいですね。でも、これ検索してみた時にけっこう高かったんですけど…………」

「うん。買っちゃった!」

「えっ?」


 笑みを浮かべながら注文履歴を見せてくれる青柳さん。

 まさか本当にそれを買うとは……、すごい行動力だな。


「…………」


 そして、しばらく二人の間に静寂が流れる。

 青柳さん……スマホで何かを検索しているように見えるけど……。


「あ、あのね……、千春くん。それと……さっきラ〇ンで話したことだけど……」

「はい。確かに、予定あるって言いましたよね?」

「うん……」

「夏休みになる前までは予定ありません。何かやりたいことでもありますか?」


 そうしたい顔だったから、先に聞いてみた。

 今の青柳さん、どっか行きたいって顔をしている。

 なぜなら、ネットに「デートの場所おすすめ」を検索していたからだ……。そういうのは普通他人に見えないように、こっそり検索するべきだと思うけど。それじゃ何を考えているのか全部分かってしまうんだよ……。


 隠して……! 青柳さん。


「私……、千春くんとどっか行きたい! えっと……、動物園とかはどうかな?」

「い、いいですね。動物園」

「いいの!? い、一緒に行かない……? さっきね! 美波と一緒にテレビを見た時、カップルが動物園でデートしてたの……。それで、私も……あんなデートやってみたいなと思って……。それで……」


 そんな可哀想な顔で「一緒に行きたい」と言ってる青柳さんに、俺は「ダメ」とか絶対言えない。それにその話をする前からずっと俺の手を握ってたし、やっぱり行くしかないよな。


 でも、これって恋人同士でやることじゃないのか……?

 デートじゃん。

 まあ、いい。


「はいはい。そんな顔しないでください。行きますから」

「本当に? 一緒に行ってくれるの? じゃあ、いつ!? いつ行くの?」

「お、落ち着いてください!」

「千春くんが決めて! へへっ」

「はい……。じゃあ、来週。来週はどうですか?」

「うん! いいね! テンション上がる!」


 そして、青柳さんが俺に抱きつく前にその場から離れてしまった。

 もし、これを美波に見られたら、また一言を言われるかもしれないからな。

 いきなり抱きつくのはやばい。


「えっ……なんで避けるの?」

「あっ、そ、それは……まだ……。あはは……」

「ひん……」


 まったく……、青柳さんはな。

 どこから話せばいいのか俺も分からなくなってきた。

 ため息が出る。

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