8 気遣ってほしい②

 周りの視線がすごく気になる……。

 まあ、酔った青柳さんをおんぶしているから……当たり前のことか。俺がそばにいなかったら、どうやって帰るつもりだったんだろう。そして、家の住所もそうだ。この前行ったことあるから、なんとなく覚えているけど、本当に無防備すぎる。デコピンしたい。


 でも、そんな俺と違って青柳さんはいい夢でも見ているような気がした。

 さっきからずっと「ふふふっ」と笑っていたからさ。


「ううん……」

「はあ……、着いたぁ…………」

「…………」


 てか、こんな広い家に誰もいないのはちょっと怖いかもしれない。

 確かに、青柳さんのご両親は外国にいるって言われたよな。それじゃ……寂しくなるのも無理ではない。しかも、こないだ彼氏と別れたし……。一人が寂しくてつらいなら美波と一緒に暮らすのもいい方法だと思うけど……。その前に、青柳さん床ですやすやと寝ている。


 ということは、部屋まで運んであげないといけないってことだよな……。


「ううん……。千春くん……」

「はい」

「シャワー浴びたい…………」

「大丈夫ですか? まだ酔いが……」

「大丈夫、私はシャワー浴びないと寝れないんだからね……」


 そう言いながらさりげなくスカートを脱ぐ青柳さん。

 びっくりした俺はすぐ彼女の両腕を掴んでしまった。


「待ってください! なんで、俺の前で脱ぐんですかぁ! 俺、男ですよ!」

「ああ、いいよ。千春くんには見られても大丈夫! えへへっ」


 この人……、明日起きたら絶対後悔するはずだ。

 なんとなくそう思った。


「ねえ、私の部屋……。服……、タンスの中にあるから取ってくれない?」

「はいはい。ここでじっとしてください……」

「は〜い!」


 初めてだ……。女子の部屋に来て、女子のタンスで服を取り出すのは……。

 そして、ドアを開けた後……ピンク色の世界が目の前に広がっていて、100%青柳さんの部屋だと確信した。そういえば、俺……青柳さんの部屋に入ったことないから全然知らなかったけど、ぬいぐるみがたくさんある。


「ベッドで寝られるのかな……?」


 その中には寝る時に毎回抱きしめられているようなぬいぐるみもあった。

 なんか、他のぬいぐるみと違ってちょっと痩せたっていうか……。

 サイズが一番大きいから、抱き枕の代わりに使っていたかもしれない。


「千春くん〜。まだ〜?」

「…………人の部屋で何をしてるんだろう。俺は……」


 急いでパジャマとタオルを取り出して、居間に戻ってきた時……、青柳さんがブラウスの脱いでいた。

 それに結んでいた髪の毛も解いて、俺の方を見ている。


「青柳さん! はいはい! 持ってきました! ここで脱がないで浴室に入ってやってくださいよ!」

 

 誰か……、この人を止めてください……。

 美波!!!


「ねえ……」


 入ったんじゃなかったのかぁ。


「はい?」

「やっぱり、一緒にシャワー浴びる? 背中……、流してあげるから…………。えへへっ。いいよね? 一緒にシャワー浴びた方がもっと楽しいと思うけど……」

「なんですか、そのやばそうなセリフは……?」


 いや、ここは青柳さんに少しだけ合わせてあげ……たら美波に殺されるよな。

 てか、青柳さんは俺のことをなんだと思ってるんだろう……。さりげなく「一緒にシャワー浴びる?」って。もし、俺が本当に青柳さんと一緒に入ってそこで変なことをしたらどうするつもりだろう。少しは……、俺が男ってことを意識してほしいんだけどな……。


 このバカ。


「あ」


 しまった……、青柳さんが落ち込んでいる。


「でも……、一人でシャワー浴びたら……。千春くん帰るんでしょ? 一人は嫌だから一緒にシャワーを浴びるともう少し一緒にいられるじゃん……」

「ううん……。そんなに俺と一緒にいたいんですか?」


 激しく頭を縦に振る青柳さんがちょっと不思議だった。

 なんで? 俺なんかと一緒にいて何が楽しんだろう……。分からない。


「俺……、そんなに面白い人じゃないんですけど……。一緒にいても全然楽しくないし」

「そんなことないよ! 私は一緒にいるのが好き……だから…………」

「今……夜の十時十一分ですよ? 青柳さん」

「ひん…………」


 確かに……、青柳さんすごい寂しがり屋だし、俺が帰ると一人になってしまうから心配だ。とはいえ、俺も明日学校あるし……。だからって、青柳さんの家に泊まるのもあれだし……。どうすればいいのか分からなかった。


 そして、目の前には「帰らないで」って高校生の袖を掴む大学生がいる……。


「じゃあ……、終電までここにいますから。早くシャワー浴びてくださいよ……」

「ねえ!」

「はい?」

「うちに泊まってもいいよ! 布団もあるし! なんなら……私のベッ———」

「…………はいはい! そこまで!」


 また……!

 やばい言葉が出る前に青柳さんの口を塞いでしまった。


「きょ、今日は帰らないよね? そうだよね?」

「…………」


 うわぁ……。俺まだ何も言ってないのに……目がキラキラして輝いている。

 そんなに俺と一緒にいたいのかな……?

 まあ、一日くらいならいいだろう。他人の家で寝るのはまだ慣れていないけど、早く答えないと青柳さん……このままシャワーを浴びないかもしれないからさ……。その目はやばかった。


「はいはい。じゃあ、今日は……青柳さんの家に泊まりますから。早くシャワーを浴びてくださいよ……」

「うん! ねえねえ、千春くん! せっかくだから寝る前まで一緒にお話しよう!」

「えっ、すぐ寝るつもりですけど……」

「嫌だ〜。すぐ寝るのはやーだ!」

「いいから早く入ってください。そうじゃないと、俺帰りますから」

「ひん……、分かった」


 ……


 青柳さんがシャワーを浴びる間、俺は適当に寝床を作って、お母さんに今日は帰れないってラ〇ンを送った。


「ああ……。まさか、青柳さんの家に泊まるようになるなんて……。今日、絶対寝れないよぉ……」

「うん? 寝れないなら私のそばで寝てもいいけど?」

「うわっ! び、びっくりしたぁ……」

「へへっ、ごめんね。シャワー浴びて、酔いが覚めたような気がする〜」

「…………で、なんですか。その格好。パジャマのズボンは?」

「ああ……、私……家にいる時はシャ……、シャツしか着てないからね〜。これは美波も知ってることだよ?」

「だから、俺は……。いや、もういいです。とにかく、ズボン履いてください。お願いします」

「そんなことより……! 映画観ない?! 映画! どー?」

「…………」


(千春)美波、助けて……。

(美波)がんば〜。


 だよな、美波に期待していた俺がバカだった……。

 

「私たちの夜は今からだよ!」

「今……十一時半ですけど!」

「大丈夫! いける!」


 てか、俺は何もしてないけど……、青柳さんと一緒にいるだけで明日絶対遅刻しそうだ。

 なんか、そんな気がした。


「えへへっ」

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