6 友達は超可愛い読者モデル②

「ということで! 今年も海! どうですかっ!」

「どうって言われてもお前一年生の時も二年生の時も海はどうですか!って聞いただろ? 俺はいいぞ、どうせ海以外行くところないし」

「私も意義ありません!」

「よろしい! じゃあ———」

「…………」


 サンドイッチを食べながら涼太の方を見た時、なぜか外を見てじっとしていた。

 それに、そばにいる清水もなぜか外を見ている。

 なんだろうと思いながら窓の方を見た時……、青柳さんがこっちを見て手を振っていた。なんで、俺の居場所が分かったんだろう。俺……どこにあるカフェなのか教えてあげなかったのに……。


 そのまま持っていたサンドイッチを皿に落としてしまった。

 そして、さりげなく俺のそばに座る青柳さん。


「えへへ……、邪魔してごめんね。偶然、このカフェに千春くんがいて、どうしても声をかけたくて……」

「いいえ! 全然大丈夫です! うわぁ、すげぇ」

「生青柳さん……! 可愛すぎる……! 後……、写真撮ってもいいですか?」

「いいよ〜」


 何……? 可愛すぎてショックでも受けたのか。この二人。

 俺は……どうやって俺の居場所が分かったのか、それにショックを受けたけど。

 まあ、いっか。あの二人……青柳さんに気を取られて、今は何を話しても聞こえないような気がする。てか、今日……めっちゃオシャレしたな。この後……、一緒に食事をするからか、余計に気になる俺だった。


 そして、今日は……雰囲気も少し違うような気がする。


「あの……! 青柳さんに聞きたいことがあります!」

「うん! 何〜?」

「青柳さんは今付き合っている人いますか!?」


 女子が女子に付き合ってる人を聞いてどうすんだよぉ……。

 てか、別れたばかりの人に何を……。


「えっと……」

「清水、それは聞かない方がいいよ。青柳さん———」


 いや、それを俺が言ってもいいのか? なぜか言葉が出てこなかった。


「うん? 何? 高川くん」

「いいよ、私が言うからね。私……彼氏と別れたばかりだから、今は彼氏いないよ」

「あっ! す、すみません……! 私が余計なことを!」

「ふふっ、いいよ。私は気にしないから。でもね、なら……いるかも?」


 ちらっと、千春の方を見る小春。

 そして、くすくすと笑っていた。


「へえ……」


 特に話すこともないから、青柳さんのそばでサンドイッチを食べていた。

 よかったな、清水。学校にいる時、青柳さんに会いたいって言ってたから。

 それにしても……涼太はなんで彼女のそばで感激してるんだ。そんなに可愛いのかな、さっきからずっと青柳さんの方を見てるけど……。この後……、清水に怒られても俺は知らないからな。


 と言いたいけど、清水もずっと青柳さんの方を見ていた。

 この……人気者。


「ねえ、千春くん」

「はい?」

「それ美味しいの?」

「ううん……、普通です。このお店でいつもこればかり食べてるんで、この味に慣れたかもしれません」

「そう? あーん」

「…………」


 え、何? その「あーん」は。

 カップルの前で恋人ごっこか。

 でも、サンドイッチを食べさせるだけだから、いいかも? これ量多いしな……。


「どうですか?」

「おいひいね。ふふっ」

「よかったですね」


 すると、両手で口を塞ぐ涼太と清水だった。

 これ……お前らがいつも俺の前でやってたことだろ? 今更、そんな反応をするのかよ! 俺は……、二年間耐えてきたぞぉ! 正直、青柳さんにサンドイッチを食べさせるのはめっちゃ恥ずかしいけど、たまには俺の方から反撃をしたかった。


 どうだ! このバカップル!


「…………」

「お前……! 千春! そんな関係だったのかぁ! なんで、俺たちに言ってくれなかったんだよ!」

「な、何を?」

「そうだよ! こんな可愛い彼女がいるのに、ずっと私たちに隠していたの!? ひどいよ!」

「えっ?」


 うん? なんの状況?


「…………」


 なぜか、二人に一言を言われる千春。

 小春は三人の間でぼーっとしていた。

 そして、もぐもぐとサンドイッチを食べていた小春はテーブルに置いている千春のコーヒーに気づく。


「あっ、青柳さん! それ、千春が口をつけたストロー…………」

「うん?」


 首を傾げる小春は、さりげなく千春が口をつけたストローでコーヒーを飲む。

 それを見て、またショックを受ける涼太とほのかだった。


「お前ら……。そして、青柳さんも……!」

「うん? どうしたの?」


 自分が何をしているのか自覚してないね。

 まあ、どうせ……俺の力で止めない人だからすでに諦めたけど……。

 でも、初めて出会った人の前で堂々とあんなことをするなんて、いろんな意味ですごい人だな。青柳さんは。


 そんな人を俺に任せたのかよ、美波。


「青柳さん、こっち見てください」

「うん?」

「口角にマヨネーズがついてますよ」

「拭いて……」

「はいはい、じっとしてください」


 本当に……、俺は何をしているんだろう。

 ティッシュで口角のマヨネーズを拭いてあげたら、向こうに座っている二人がめっちゃニヤニヤしていた。

 お前ら……、何がそんなに楽しんだよ。


「今の……! 何……!? めっちゃロマンチックだけど!? 涼太くん」

「これは滅多にないチャンスだぞ! ほのか。まさか、死ぬ前に千春がイチャイチャするのが見られるなんて! 幸運だ!」

「お前ら失礼だろ……。何言ってんだよ……」

「ふふっ、千春くんは友達と仲がいいね」

「えっ? これがですか?」

「そうです! 俺たち三人は仲がめっちゃいいですよ!」


 なんだよ、そのドヤ顔は……。

 そんな顔で堂々と言わないで……、恥ずかしいからやめて……。


「あ、そうだ。なんで今日はすぐ美波のところに行かなかったんですか?」

「美波!? まさか! ほのか! 待って、これは……!」

「ふ、二股!? 二股なの!?」

「ちげぇよ! 姉ちゃんの名前だぞ! おめぇらさっきからうるせぇ!」

「美波ね……。今日は帰るの遅くなるって言われたから…………」

「そうですか」


 このままこいつらと一緒にいるのは危険だ。

 それに青柳さんと夕飯を食べる約束もしたから、そろそろ行ってみようか。


「じゃあ、俺たち先に行くから」

「えっ、もう帰るの?」

「当たり前だろ、清水。時間を見ろ……」

「あ……、仕方ないね」


 そして、こっそり耳打ちをする涼太。


「…………うるせぇ」

「あはははっ、頑張れ! 千春!」

「はいはい。先に帰るぞ」

「バイバイ〜」


 ああ、疲れた。


 てか、青柳さんと一緒にいるからか……。周りの視線がすごく気になる。

 みんな、さっきから青柳さんの方を見ていたからさ。

 まさか……、俺の友達が有名雑誌の読者モデルだなんて。その前に、友達って言ってもいいのかよく分からないけど、とにかく青柳さんは今の状況を200%満足しているように見えた。


 めっちゃニヤニヤしてるし。


「青柳さん、楽しそうに見えますね」

「へへっ、そうかな? 私、千春くんと一緒に歩くの好きだからね〜」

「はいはい……」

「じゃあ、夕飯食べに行こう!」

「はい〜」

「あっ、そうだ。私……、今日迷惑だった……?」

「いいえ、気にしないでください」

「へへっ、うん!」


 子供みたいだ。

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