5 友達は超可愛い読者モデル

 昨日青柳さんと一緒に夕飯を食べて、友達になったことまではいいけど、その後が大変だった。夜の十一時半。やっと寝られると思ったら、いきなりすごい量のラ〇ンが来たからさ。多分……、深夜の二時まで青柳さんとラ〇ンをしていたと思う。どんな風に終わらせればいいのか全然分からなくて、ずっと青柳さんと話をしていた。


 そのせいで、今……寝不足。

 この状態なら授業中に寝ちゃいそうだな……。


「よっ! 千春……、どうした? 今日の顔すごいんだけど? ええ、クマすげぇ」

「あ、ちょっと寝不足だっただけだから。いいよ」

「やはり死神は実在したのか……」

「人の前で何を言ってるんだ……? 涼太」

「あはははっ、冗談冗談」


 朝から自分の彼女清水しみずほのかといちゃつく俺の友達宇田川涼太うたがわりょうた

 そのテンションに合わせてあげたいけど……、すごく疲れて頭の中には早く寝たいという考えだけだった。そういえば、俺……昨日ちゃんと青柳さんに返事をしたのかな? 途中で寝落ちしたような気がするけど……、なぜかスマホを見るのが怖い。


 でも、青柳さんのラ〇ンを無視するのもできないし、一応確認することにした。

 そして、俺の見間違いなのかアプリがバグったのかは分からないけど、赤い丸の中に38という凄まじい数字が表示されていた。グループチャットでもあるまいし、この数字は一体なんなんだ。


 すぐ内容を確認したいけど、恋バナ大好きな涼太がそばにいるからそのままポケットに入れた。

 後で返事しよう……。


「あっ! めっちゃ可愛い! 私もこの人みたいになりたいよ……」

「ほのか、またあの雑誌見てんの? あれ……? この人…………」

「どうしたの? 涼太くん」

「この人……。おい! ちょっと起きて、千春! 聞きたいことがある!」


 机に突っ伏していた俺を起こして、変な雑誌を見せてくれる涼太。

 ぼーっとして、それを見ていた。


「この人! この前……迎えに来た人だろ? 名前が……青柳小春! 青柳さんか」

「えっ? 青柳さん?」

「そうそう! これ見てよ! 同じ人だろ?」

「ええ? 高川くんの知り合いだったの!?」


 俺は知らなかったけど、青柳さん……読者モデルの仕事をしているらしい。

 普段と全然違うイメージの青柳さんがその雑誌に載っていた。表情や目つき、そしてその服装を見ると怖い肉食系の女に見える……。でも、どうして俺の前にいる時はすぐ泣き出しそうな顔をするんだろう。


 分からない……。

 それに、この雑誌……。クラスの女子たちによく知られている雑誌だけど、どうして俺には読者モデルをやってるって言わなかったんだろう。

 しかも、これ新刊じゃん。


「あっ、うん。姉ちゃんの友達…………」

「えっ! マジで?」

「マジなの!?」

「そうだけど……、どうした?」

「私、青柳さんのことめっちゃ好きだからね……! 実際どんな人なのかめっちゃ知りたい!」

「それはちょっと……、青柳さん忙しいから」


 ファンかな……? すごい。

 てか、俺が知ってる青柳さんとイメージが全然違うから…………何も言えない。


「やっぱりそうだよね。嬉しすぎて、つい変なこと言っちゃった……。ごめんね」

「いいよ。そして、姉ちゃんの友達って言ってもさ……、俺と仲がいいわけじゃないから……。役に立たなくてごめん」

「ううん! 大丈夫」

「そういえば、千春。今日は予定ないよな?」

「そうだけど?」

「じゃあ、俺たちと一緒にカフェ行かない? 夏休みのことで話したいことがあるからさ」


 なんで、俺がデートをするカップルとカフェに行かないといけないんだろう。

 こいつら……、いつも俺の前でイチャイチャしてるから余計に気になるし。

 でも、夏休みの予定なら仕方ないか。俺たちは高校一年生の時からずっと同じクラスで、毎年夏になると一緒に海に行くほど仲がいい友達だからさ。


 だから、今年も海だよな。

 その前に———。


「分かった。じゃあ、俺トイレに行ってくるから」

「オッケー」


 ラ〇ン……、ラ〇ン……。早く青柳さんのラ〇ンを確認しないと。

 そして、アプリを開いた時……なぜか数字が増えていた。先まで38だった気がするけど、どうして59になってるんだろう。もしかして、青柳さんに何か起こったのか? 緊急事態だったり……? いやいや、そんなことなら俺じゃなくて、警察や家族に送るんだろう? 普通なら。


「…………」


 そして、その内容を確認した俺は……、そのまま頭の中が真っ白になる。


(小春)ね、寝てるのかな?

(小春)まだ話したいことがあるから……、起きてぇ!

(小春)既読にならない……。ど、どうしたの? 何かあったの? 千春くん?

(小春)無視しないで……、千春くん…………。

(小春)もしかして……、私のこと嫌いになったのかな?

(小春)返事が全然来ない……。ごめんね! ごめんね! 返事して!

(小春)嫌いにならないで! 私は、ただ……仲良くなりたくて!

(小春)私が全部悪いから返事して、ごめんね……。千春くん。話がしたい……。

(小春)…………千春くん、私のこと嫌いにならないで。

 ……

 ……

 ……


 えっと……、これが朝に送ったラ〇ンか。


(小春)返事……。待ってくるからね。ずっとずっと待ってるからね……。

(小春)電話……してもいい? やっぱり、迷惑だよね。私なんか……、私なんか。

(小春)ねえ、返事して……。私が悪いから、許して……。

(小春)千春くん…………。

(小春)返事して…………。

 ……

 ……

 ……


 寝ている時にラ〇ンを送って、全然返事できなかった。

 やっぱり、昨夜……青柳さんとラ〇ンしながら寝落ちしたのか。でも、返事が来ないなら普通に寝てもいいのに、なんで……四時まで俺にラ〇ンを送ったんだろう。そして、時間を見ればすぐ分かると思うけど、俺が寝てるってことくらい。


「…………」


 一応、心配になるから青柳さんに電話をかけてみた。

 そして、すぐ出る青柳さんにビクッとする。早すぎるだろ……、繋がる音が全然聞こえなかった。


「ち、千春くん! 千春くん…………!」


 やべぇ、泣いてるんだけど……。

 で、美波はそばにいないのか? 何をしてるんだろう。


「はい。青柳さん。すみません、昨日寝落ちして返事できませんでした。それにさっきまで友達と一緒にいたんで……。何かあったんですか?」

「よかった……。私、てっきり千春くんに嫌われたと思って……」

「そんなわけないじゃないですか。ただ……誰かとそんなに長くラ〇ンをしたことないから、どんなタイミングで終わらせばいいのか分からなかっただけです。それを言えず、寝落ちしました。あはは……」

「ねえ、私……今日も千春くんの学校に行っていい?」

「えっと、今日は友達と近所のカフェに行くことになって……」

「…………」

「青柳さん?」

「わ、私も行きたい……!」

「えっ、それはちょっと……。話が終わった後なら……、そうだ! 一緒に夕飯食べませんか?」

「うん! 食べる! 絶対食べる! 何があっても食べる!」

「はい。じゃあ、また連絡します。青柳さん」

「うん……!」

 

 なんか、青柳さんって感情の起伏が激しいな。

 電話に出た時は泣いてたのに……、切る前にはテンションが上がったような気がする。


 まあ、いっか。

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