3 連絡先、教えて!

(美波)あんた、週末に小春と何かあったの?

(千春)別に、何も? どうした?

(美波)あんたが帰ってから小春ずっと部屋に引きこもってるけど、もしかして……変なことでもしたのか? 何もしないでって言ったのに。

(千春)んなことするわけねぇだろ?

(美波)そう?


 そう、変なことはしていない。

 いきなりぎゅっとしてとか、付き合おうとか、青柳さんにそんなことを言われたけど……。それを美波に言えるわけないだろ? そして、失恋した人に何もしないでって言ったのは美波だったから、俺はその通り何もしなかっただけだ。


 でも、あの青柳さんに「付き合っちゃおう」って言われたのはやっぱり気になる。

 少しは懐かしくなるかも。

 あの時、俺が青柳さんの話を断ったのは彼女が酔った状態だったのもあるけど、決定的な理由は俺と釣り合わないからだ。俺は……自分がどんな人なのかよく知っている。学校の人気者でもないし、目立つ人でもないし、ごく普通の高校生だからさ。


 俺が勝手に好きになっただけだから、そう簡単に受け入れるのは無理だった。

 というわけで、美波にはそれについて話せない。


「なになに? 千春、彼女か?」

「んなわけねぇだろ? 俺も……お前みたいに彼女がいたらいいな」

「あははっ。彼女くらいすぐ作れると思うけど、いい女の子紹介してあげようか」

「お前はいいな。カッコいいから女の子たちがたくさん寄ってくるじゃん」

「そうか? まあ、お前も割とカッコいいから女の子たちに声をかけてみればきっと彼女作れると思うけど」

「知らない女の子に声をかけるなんて、そんなバカなことできるわけないだろ……。俺はこのまま運命の人を待つ! それだけだ」

「ええ……、ドラマかよ」


 放課後、友達と話しながら学校を出た時……、なぜか青柳さんが校門前で俺を待っていた。しかも、向こうから手を振っている。それより俺が通っている学校……知っていたのか? ちょっと不安そうに見えるけど、何しにここに来たんだろう。


「えっ、美人だ……」

「可愛い、誰だろう……」

「ええ……」


 てか、そこにいるとめっちゃ目立つけど…………。

 もうみんなざわざわしている。


「おっ、校門前にめっちゃ可愛いお姉さんがいるけど、誰を待ってるんだろう……」


 俺。


「…………」

「あっ……! ち、千春くん! 学校終わったの……?」

「は、はい……。それより、どうしましたか? 青柳さん。今日はレポートがあるって美波に言われた気がしますけど」


 言われてない。


「えっと、千春くんに!! すぐ来ちゃった!! ごめんね……!!」


 そんな大きい声で話さなくても十分聞こえますけど……。

 てか、その前に……涼太りょうたがめっちゃニヤニヤしている。

 早く説明しないと……、こいつクラスのみんなに今日あったことを話しそうだ。恋バナがめっちゃ好きなやつだからさ……。


「なんだよ! 千春。こんなに可愛い彼女がいたのか!」

「あっ……! その……」

「彼女じゃないから、そんなこと言うな。失礼だろ?」


 千春の一言にすぐ落ち込む小春だった。


「えっ? そっか。でも、彼女でもない人が校門前でお前のこと待つわけないだろ? やっぱり……彼女じゃん」

「だから……! 姉の友達———」

「千春くん」

「はい?」

「帰るよ」

「は、はい……!」


 後ろから聞こえるその声に……ビクッとした。

 そして、まだ涼太との話が終わってないのに、俺の手首を掴んでどっかに連れて行く青柳さんだった。


 もしかして、怒ってるかな?


 ……


 その後、なぜか近所のカフェに来ている二人。

 てか、何も話してないのに……青柳さんめっちゃ怯えている。どうすればいいんだろう。


「私……、やっぱり死んだ方がいいかな? 千春くんが友達と話していたのに……、勝手に連れてきちゃってごめんね…………。私はただ……千春くんと一緒にカフェに行きたくて…………」

「そうでしたか」

「うん……。でも、千春くんの友達がそばでいろいろ話してたから…………」


 声がだんだん小さくなっている。


「分かりました。でも、こんなにたくさん買ってくれなくても……」

「いっぱい食べてね! わ、私! ちゃんと仕事してるし、それに……週末の夜に変なことを言っちゃったから……」

「ああ、その話はもういいです。青柳さんも酔ってたし、俺は気にしてませんよ」

「き、気にしてないんだ…………」


 普通、気にしないって言ったらホッとしたりするんじゃないのか?

 なんで、青柳さんは泣き出しそうな顔をしているんだろう。分からない。


「あのね……。私…………」

「はい?」

「私……! 久しぶりに……、千春くんに出会ったからね! ちゃんと言っておきたいことがあるの!」

「はい……。なんですか?」

「私と……友達になってくれない?」

「いいですよ」

「い、いいの!? その友達って……、しょっちゅう連絡をしたり、電話をしたり、そしてデートをしたりする関係だよね…………? 全部……やってくれるの? 千春くん」

「…………」


 そんなことは恋人同士でやることだと思うけど……、やっぱり失恋のダメージが大きかったのか。その表情、寂しそうに見える。でも、青柳さんくらいの人ならすぐいい人に会えるはずなのに、どうして俺にそんなことを話すのかよく分からなかった。


(美波)おい。


「あっ、美波からラ〇ンが来ました」

「う、うん……」


(美波)今、小春と一緒にいるの?

(千春)そうだけど? どうした?

(美波)任せた。

(千春)?


 なんだ。それだけ? 任せたってなんだよ。

 そして、返事は来なかった。


 美波……。


「なんって?」

「青柳さんと一緒にいる?って言われました。一応……、一緒にいるって答えましたけど……。なんで連絡したのかはよく分かりません」

「そうなんだ。それより、さっきの話だけど……本当に友達になってくれるの?」

「一応……ラ〇ンくらいなら普通にいけると思います」

「じゃあ! 連絡先交換しよう!」

「は、はい……!」


 そういえば、美波の友達だったから俺とまだ連絡先を交換してないよな。

 まあ、不安そうに見える青柳さんをほっておくのもできないし……。

 もし青柳さんに何かあった時……、電話で話を聞いてあげるくらいなら普通にできると思う。


「はい。これです……」

「うん!」


 てか、こういうのは友達の美波がやるべきことじゃないのか……?

 あのバカは今何をしてるんだろう。


「じゃあ、友達になった記念で! 一緒にショッピングしよ!」

「あの……、そろそろ家に帰らないと。夕飯の時間ですし」

「じゃあ、うちに来る? 一緒に夕飯食べよう!」

「…………それはちょっと」

「や、やっぱり……私の家に来るのは嫌だよね? ごめんね……」


 また…………、あんなことを言っている。

 なんで、あんなにネガティブなんだろうな。もっと自信を持ってほしいけど。


「仕方ありませんね。でも、俺料理できないんですけど……」

「いいよ! 私に任せて!」

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