前のエピソード――第1話　小さな悪役令嬢ハナちゃん、にっくきヒロインと出会う。

　お受験をしなくてもお金の力でどうにかなる素敵な学園・中等部へ入れてもらい、親しい友もちょっとした挨拶を交わす友もできぬまま、お車でお屋敷と学び舎を往復するだけの暗黒期を過ごしているせいで、ふたたびイヤイヤ期がきてもおかしくない状態まで追い込まれている悪役令嬢ハナちゃん十四歳は、先日ついに『悪役令嬢』に関する有力な情報をつかんだ。

　頭と顔がすこぶる良いクールな〝お兄様〟が、「これは音声入りだ。読めなくてもそれなりに遊べるだろう」と、漢字テストの超難問『喉（のど）』を『ＮＯ土』と書いてしまった可愛い妹のため、教材代わりに携帯用ゲーム機と可愛い絵柄のゲームソフト〈危険な王子様と秘密のお勉強会！　ラスボスは悪役令嬢？！〉を置いていったのだ。

　タイトルに、運よく『悪役令嬢』が入っている。

　普通の人間であれば、一度くらいは起動するだろう。

　だが真の勉強嫌いである悪役令嬢ちゃんが『勉強』の文字まで入ってしまっているそれで大人しく遊ぶはずもなく、それゆえ『なるほど、あのときの小娘の言葉は、こういう意味だったのですね』という理想的でスムーズな知識の習得には至らない。

　とにかくなんとしてでも勉強をさせてやろうという思惑を、可愛い絵柄のパッケージから嗅ぎ取った彼女は、兄の持ってきたそれらをまとめて、パパの鞄の中へ隠した。

　そしてその際、少々膨らんでしまった鞄をもとの形に寄せるため、取り除いた中身の一部であるノートパソコンを、ママのドレッサーの引き出しに仕舞い、必然的に押し出された化粧品を、放浪の末たどりついたお兄様のお部屋の冷凍庫へ移した。

　これにより、それぞれが何らかの感情を抱いたが、帰宅後すぐに充電器を含む乙女ゲーム一式を鞄から除去したパパと、キンキンに冷えた化粧品を息子から手渡されたママは、クソガキである悪役令嬢ちゃんを叱らず、人格者であるお兄様のほうに提案した。

「このゲームで一緒に遊んであげなさい」と。