第2話 華麗な復讐譚

 数日後。



「ふぅ……。今日も楽勝だったぜ」


 そうは言うが、全く、馬鹿な民衆から期待を集める有名パーティを率いるのも楽じゃない。

 騙す為の演技をしなけりゃならんからな。そのせいでキントとかいう間抜けも引っかかったんだが、それも仕方ない。これも清廉潔白なパーティリーダーをやる上で必要だからな。


 その鬱憤は雑魚な魔物を蹴散らす事で晴らす。

 合法的に暴力をいくら振るってもいいんだから、俺みたいな聖人にはうってつけのストレス発散法だよな。


「さあ戻りましょうか、ゾルダン。それで美味しいものを沢山食べましょう。最近また食欲が戻ってきたんです。落ち着いたんでしょう」


「お! そうか。それでその後は……ってかあ」


 隣で微笑む治療士のジェシー。

 しかしこいつも恐ろしい女だ。大人しそうな見た目のクセして色んな意味でやり手だ。

 何よりしびれたのは、あの馬鹿のキントととの別れ際。あの仕草だけであいつに男としての敗北を悟らせたんだからな。


 こいつ以上に俺の隣にふさわしい女は居ないな。


 周りにいる仲間も俺たちの関係を歓迎している。。で最初からそうだったみたいにな。

 ニコニコ微笑みながら、本当にいい性格してる。どいつもこいつもよ。


「しかし”あいつ”は今頃何やってんだか?」


「どうせもう野垂れ死んでる事でしょう。そんな事はどうでもいいじゃないですか?」


「それもそうだ。よし、お前達! 今日はパーッと――」


 飯でも食おう。


 そう言いかけたはずだが、どういう訳か俺は気絶していて。



 目が覚めたら――。



「んあ? ……何だ!? 何だここは?!」


 気づいたら薄暗い牢屋に居て、俺は上半身裸にされた挙句、手を後ろに回されていた。

 それにこの感触は手錠。


 スキルや魔力を使って外そうとしても外れない。


(これは罪人につける封じの手錠!? 一体誰がこんな事を!!)


 どうしてこんな目に合うのか見当もつかない。

 俺達は恨みを買うような事はしてないからだ。だからこの状況がわからない。


 冷や汗を流しながらなんとか脱出出来無いか考えていた時、コツコツと足音が二つ聞こえてきた。


 それがだんだん近づいてきて、俺のいる牢屋の前で止まった。

 一人はでっぷりと太って油切ったハゲの男。身形からして金持ちなのは分かる。……こいつ、俺達が今根城にしてる領土の領主じゃねえか!

 だが、もう一人はローブのフードを深くかぶって分からない。


 そのローブが口を開いて、デブハゲに話し掛けた。


「どうです? 領主様のお眼鏡に敵うと思いますが」


 男の声だ。だがどこかで聞いた声。どこだ? どこで聞いたんだ!

 話しかけられたデブハゲはニンマリと笑いながら、俺の体をジロジロと眺めて舌なめずりを始めた。


「ひっ! な、何だ。何なんだお前らは?!」


「おいおい失礼だぞ、領主様に向かって。これからお前のご主人様にもなるって言うのに」


 人を小馬鹿にしたような、押し殺すような笑い声がフードの奥から聞こえてくる。

 何だこいつは! だいたいさっきから何を言って。


「まだ分からないか? 相変わらずおめでたい頭をしてるなぁ」


「はぁ? ――お前は!?」


 フードを捲ったその奥から現れたのは――死んだと思っていたかつてパーティメンバーのキントだった。


 そいつが今まで見たこともないような、卑しい笑みを浮かべて俺のことを見下していやがった。


「テメェ!!! お前の仕業か!! 汚い野郎だ。自業自得で追い出されたって言うのに人に頼んで復讐かよ! このクソ野郎が!!」


「口を慎めよ、領主様の前だぞ? ……まあいい、お前の頭じゃ理解も出来んだろしな。俺の優しさに感謝しろよ? ふはははは!」


 何がおかしいのか? そいつは意にも返さず、俺を見て見下したような態度を取り続ける。


「あと、人に頼んでと言ったが……。ま、そんな発想しか出来無いのがお前の限界だな。可哀想だが元仲間の好だ。憐れに思うだけで許そう」


「何だと! お前!!!」


「ガタガタとうるさい奴だ。……あ、そうだ。お前にプレゼントがある。喜んでくれると嬉しいんだがな」


 そう言うとやつは懐から小袋を取り出して、口を開いたかと思うと鉄格子の間に手を入れて俺の目の前に落とした。


 奴の手の平で逆さになった袋から落とされたのは、よくわからないグロテスクな赤い塊だった。


「なんだよこれ? こんなもの俺に見せて一体どうしようって――」


「ひどいことを言うじゃないか。でも、せめてそれが見れたことは感謝するべきだと思うぞ?」


「何?」


「お前、一つ気にならないか? 他の仲間はどこに行ったかって」


 言われてみれば確かにそうだ。この牢屋には俺しかいない。ということは他の奴らも同じように牢屋に入れられてるのか。


「あいつらは他の場所にいるのか? はっ間抜けな奴だ。俺だけに構っていいのかよ? きっと今頃逃げる算段でも」


「ああそれは無いな」


 断言された。どこまでも気に気に食わない野郎だ。

 だがあいつらは甘く見すぎてる。お前と違ってどいつもこいつも有能なんだよ。

 特にジェシーの頭のキレはな!



「そうそう、それでそのプレゼントなんだがな。いやお前にも見せてやりたかった!


 ――生きたまま腹を裂かれて未熟な胎児を取り出されるジェシーのあの醜く歪んだ顔と汚い叫び声はッ! 芸術に傾倒する人間の気持ちが分かる思いだったぞ!!」


「……は?」



 ジェシーの腹? 未熟児? じゃあ俺の目の前にあるこの塊は……っ。


 頭が真っ白になる俺の耳に、さらに奴の声が届けられた。


「領主様は女を猟奇的に解体するのは好きなお方だ。だが安心しろ、善良な人間には手を出さない。お前達みたいな死んで当然のクズだけを成敗する正義感が形になったようなお方だ」


 し、死んだ? ジェシーも、俺達の子供も……?


「女達は既にあの世へ行ったが……。お前を始め、パーティの男達は生かしておいてやる。領主様は筋肉質な悪人の男を調教して従順にさせるのが好きなんだ。更生にも力を入れているんだから本当にご立派だと思わないか? ……では領主様、私はこれにて失礼させて頂きます。ごゆっくりお楽しみくださいませ」


 奴が立ち去ろうとした時、唖然とする俺に向かって小さく話しかけてきた。


「お前と会うのもこれが最後だろうな。たっぷりと可愛がってもらうといい。最初は泣き叫ぶ程辛いかもしれんが、その内自分から強請るようになるだろう。ま、俺には一生縁の無い話だがな」


 今度こそ立ち去っていくキント。

 その途中で高笑いを上げ、それも段々と聞こえなくなっていった。


 その次に聞こえてきたのは、鍵が解かれ、キィと音を立てながら空けられる鉄格子の扉の音だった。


「あ、ああ……っ」

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寝取られた恋人に役立たずの汚点と言われ、人生からも用済みにされた追放者の俺 ~湧き上がる怒りと共に成し遂げた華麗な復讐とは?~ こまの ととと @nanashio

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