寝取られた恋人に役立たずの汚点と言われ、人生からも用済みにされた追放者の俺 ~湧き上がる怒りと共に成し遂げた華麗な復讐とは?~

こまの ととと

第1話 嘲り笑う元仲間達

 俺はその日まで懸命に生きて来たつもりだった。


 しがない田舎の出で、そんな俺を必要だと言ってくれたパーティのメンバーの為、何より同時期に加入した恋人の為に俺なりに頑張ってきた。


 スキルの関係上、前線向きではなかったが、それでも後方からサポートする事に掛けては自信があった。

 実際、助けられたと全員が言ってくれていた。


 だがその日……。


「な、なんだって……? 悪い、もう一度言ってくれ。何て言って……」


「分かるだろ? こっちだって何度も言いたくない。外聞ってものもあるし恰好が付かないんだ。それでも長年の好でもう一度だけ言っておく。出て行ってくれ、このパーティから」


 ある日、ギルドの談合室に呼び出された俺は、そこでリーダーである勇者ゾルダンから突然の解雇通知を受けた。


 ありえないと思った。

 最初に俺を誘ったのは目の前のこの男だ。俺が必要だと、仲間だ親友だと言っていたその口で、今俺に出て行けと言っている。質の悪い冗談だと思いたい。


「どうしてだ?! 俺が何をした!」


「いいや何もしてないさ。だからもう要らないんだよ」


「ど、どういう……?」


「はぁ……」


 そう聞くと、奴はあからさまに大きなため息をついて、まるで聞き分けの悪い馬鹿に親切に聞かせてやるかのような上からの態度で続けた。


「いいか? お前のスキル『ショック』は、最初こそ役に立っていたさ。一瞬だけとはいえ敵の気を散らしてくれるんだからな。でもさ、もうあれから俺達がどれだけ強くなったと思う? 今更そんなものに頼らなくたっていくらでも魔物を蹴散らせる。そうなるともうお前の価値が無い。直接敵を倒す力も無いお前は足手まといなんだよ。むしろ、今日まで甘い汁を啜らせてやっただけ感謝して欲しいくらいだ」


 こいつ……! こいつは俺をそんな風に思っていたのか!!

 一瞬頭に血が上り掛けたが、抑えた。

 よく考えたらリーダーの一存でクビは決められない。普通、全員の承諾がいるからだ。


「いくらお前が俺を要らないって言ったって、他の奴の同意が無かったら意味ないだろ!」


「何を言ってる? そんなもんとっくに話し合ったさ。それで全員のお荷物が正式に決定したんだよ。おめでとう」


 にやつきながら乾いた拍手をするゾルダン。

 こいつが、こんないやらしく笑う様を見るのは始めてだった。

 いつからこんな風に……。いや、もしかしたらこれがこいつの本性だったんだろう。


 それでも納得がいかない。だって、パーティには……。


「あいつは……! 俺の恋人のジェシーまでそう言ったってのか!」


「あ? おいおい、それも俺に言わせるのか? 流石にそこまで残酷な事は言いたくなかったが――真っ先に同意したのがそのジェシーだぞ?」


「な!?」


 う、嘘だ……。そんなバカな!?


 俺とあいつは恋人だった。初めて会った時から惹かれあって、つい最近まで将来について話し合っていたくらいだ。


 そんなあいつが俺を……。


「冗談はよせ! どうしてあいつが、そんなことをする理由なんてない!」


「そういう頭だからおめでたいって言うんだよ。……まあいい、そんなに言うなら本人の口から聞けばいいだろう。おいジェシー、愛しの彼氏様がお呼びだぞお」


 俺たちの座っている椅子。テーブルを囲んだその一角の向こうで何かが動くのが聞こえた。

 それが足音に変わったと思ったら近づいてきて、仕切りの向こうから顔を覗かせたのは――俺の知ってる愛しい恋人のジェシーだ。


「どうしてここに? いやそんなことはどうでもいい、裏に居たって事は聞いていたんだな? 今とんでもない冗談をゾルダンが言った。お前が俺をパーティから追い出したいって」


「ええ、冗談ですよ」


「な、なんだやっぱり。二人して俺をからかい――」


「って言ったら面白いですか?」


「何!? お、お前何を言って!」


「はぁ……。いい加減に分かってもらえませんかね? もうあなたは用済み、このパーティからも……そして私の人生からも」


「な!?」


 何を言っているんだ一体!?


 ゾルダンに似た深いため息をついたと思ったら、普段の彼女から想像できない罵声が聞こえてきた。


 違う、彼女はこんなひどいことを言わない! いつも俺の事を気遣ってくれた。俺を好きだって、俺の事が心配だって!


 事態についていけない俺を見て、嘲笑う声が二つ聞こえてきた。


「ふふ、やっぱりあなたって頭が悪いんですね。昔はあなたと同程度の人間だったなんて思うと、我ながらヘドが出てくる思いですよ」


「言い過ぎだろ? いくら本当のこととはいえ。ま、お前は目覚めた側だ。こんな奴、いくらでも馬鹿にしていい権利がある。それでこそ――俺の女ってな」


「……俺の、女? どういう事だ。何でお前の……?」


「まだわかりませんか? あなたを好きだったのは過去の話。後はお情けで愛を囁いて上げていただけなんですよ~? ちなみにあなた以外はみんな私達の関係を知っています。お酒の肴の定番じゃないですか? 色恋沙汰のあれこれって。あなたはお酒が飲めないから、直ぐに部屋に戻って。だからまーったくバレる心配が無くて……」


「それがまた面白いってなぁ! いやあ、みんなで笑わせて貰ったぜ。……ああ、そういう点じゃ盛り上がるネタが一つ減るから寂しいといえば寂しいな。よかったなキント、お前もみんなの役に立つ事があったぞ。餞別代わりに感謝しろよ? あはははははは!」


「ふふふっ、もうゾルダンったら。……さ、もういいでしょう。このままこのパーティに居続けるば役立たずの汚点として世間に知られるところだったんですよ? それから救って上げようって言うんですから、その優しさ頭を下げながら何処ぞへと消えて下さいよ。”元”恋人の最期の優しさだと思ってね」


 そう言いながら、ジェシーは下腹近くを優しい手つきで撫でる。

 その仕草に、二人の関係がどこまで進んだか嫌でも見て取れた。


 俺は悔しかった。悔しいが、今の俺に出来る事はない。

 背後から聞こえてくる馬鹿にした笑い声に悔し涙を浮かべながら、俺はギルドを飛び出していった。



 走りに走り続けて、いつのまにか俺は近くの森の中に居た。

 ……いや、今の俺にはちょうどいい場所だ。ここなら俺がどんな姿で泣こうが喚こうが無様だと思う人間はいない。


「……くっ、なんで……! 俺はずっとみんなの為に生きて来たのに、なんでこんな目に遭わなきゃいけないんだよ!!」


 右も左も分からない頃から、苦労を分かち合ってきたと思っていた友と恋人に裏切られ、今また元の一人に戻った。


「くそっ……くそ……っ!」


 咳止めていた涙が溢れる。苛立ちと悔しさと、しかし何も出来ない自分への無力感。

 そういうものが瞳の中でかき混ぜられ、そして涙となって顔を歪ませていく。


 不意に背後で何か動いた。


「グゴォォオ!」


 茂みから魔物が飛び出して来たのだ。


「っ!? 気付かなかった! 俺が……?」


 これでも経験だけは豊富だ。そんな俺がここまで気づかないなんて。

 俺は接近戦が出来ない。俺はのスキルは一瞬敵の意識を落とすだけだ、この距離では例え使っても逃げ切れない。


(俺は死ぬ……、こんなところで死ぬのか? こんな惨めなまま一方的に滅茶苦茶にされるのか? やられっぱなしで、何も出来ずに……こんな――こんなっ)



「ふざけるなァアアア!!!!」



 せめてもの抵抗として俺は叫んだ。

 俺が見ていたのは襲い掛かる、熊の化け物か。それとも俺をコケにした元仲間達か。

 それでも、こんな理不尽は到底受け入れられずに俺は叫んだ。


 するとどうだ。体が一瞬カッと熱くなる感覚に襲われたかと思うと、目の前の化け物がドシンと音を立てて体を倒していた。


「……え?」


 何が起きたかわからないまま数秒。いつまでたっても起き上がらない。


「まさか……」


 恐る恐る魔物に近づいてみると、そいつは寝息を立てて寝ていた。

 これは……。


「俺のスキル、なのか?」


 俺のスキルは一瞬だけ敵の意識を落とす「ショック」。少なくともこんな長時間眠りにつかせるような力じゃない。

 ということはまさか!?


「スキルの強化か!? 俺の力が次の段階に……! でも今更こんなものに目覚めたって」


 この力があれば、俺はまだあのパーティにいられただろうか?



 ………………いや、何を考えてるんだ?



「そうだ……この力があれば――あんな連中……っ!」


 ふつふつと湧き上がるものを感じる。

 この感情、初めて感じるが間違いがない――憎悪だ。


「そうと決まればまずはこいつの使い方。そしてその後は……」


 俺は今まで以上に頭を働かせて、今後の目的と計画について考え始める。


 この力と、前に偶然手に入れた”あの情報”があれば……。


 待ってろよ、本当に用済みなのはどっちか思い知らせてやるッ!

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