もう一度
やっほー!ひさしぶりだね。
何週間ぶり?君、全然学校で話しかけてくれないからさぁ、寂しかったんだよ?
今?曲を、を聴いているんだ。
題名は、『永眠』。
ポップなリズムや音に相反して、鬱っぽい歌詞の曲なんだよね、それがはまっちゃって!
曲の内容は、まあ、人に話せないようなもの。
大きい声で言わないでね?
えっと…
…人間ってさ、死ぬのが怖いよね。
普通の人なら…だけど。
自ら死を選ぶ行為。いわゆる自殺。
それを題材にした曲でさ。
動画配信サイトには、そう言う曲がいっぱいある。でも、これは、群を抜いて再生されていたんだ。1億いかないくらい?だっけ?
僕が初めてみたときは4再生だったのに…
一週間くらいかな。最近は自殺のニュースが多いし。この曲の影響かなぁ。
でも、『永眠』が人気だ!とかはニュースでやらないんだよね。
…こんなに人気なのに。
やっぱり、できるだけ世間を明るく見せたいものなのかなぁ。本当に気持ち悪いよね。
世界ではさ、戦争に、殺戮に、差別に。それに、いじめもあるんだ。
だから、自分から逃げて、死んで。
死ぬことはしょうがないんだよ。人は誰だって死ぬ。自然のまま死にいくよりも、自分から死んだほうが、いさぎよくて綺麗だと思うんだけどなあ。
あぁ、…話がそれちゃったね!
曲もいいんだけど、MVも綺麗でさあ!
もう、目でおっちゃうくらいの美少女が、高いビルから落ちるって言うやつなんだけどさ、それがまた…何て言うか…あ、これが、尊い!ってやつかなぁ。
ん?なに?
惚れちゃったあ?
…そんなこと無い?
あっそう。
ちゃんと見てから言ってよ。
ん、見たい?
君が言うなら良いよ。
はい!どーぞ!
(スマホを受け取り、動画の再生ボタンを押した。
真っ黒い画面から、夜景が写し出され、古いビルの屋上の風景と共に制服を着た美少女が目を俺に合わせる。心奪われる。
鼓動が早まって。なんだか少し苦しいような、そんな感覚が俺を襲う。
歌が進む。二番に突入した。
場所は高校の教室のようだ。
最初は綺麗だった女子の制服。今はスカートは丈がバラバラで、少女の足や腕には包帯が巻かれており、傷だらけだった。
そして、その周りには猿。所謂、野蛮な男達。
蹴ったり殴ったり。信じられないような暴言をはいたり。
声はないけれど、そんな気がする。少女は抵抗の色を見せているが、複数人相手では、意味がないように見える。
それを、一人の少年が見つめている。
…俺?
なんで?
…いや、曲に集中しよう。
見ていた少年は、少女の手を取った。
なんだか、憎たらしかった。
……その
…?
なんだか既視感があった。
曲は、最後のサビへ移り変わる。音楽のって少女は踊る。
さっき言われたように、少女は落ちた。
最後の一瞬。
なにか、が写っ…た
俺の目に、はっきりと焼き付いた、それが見えた。
あ?
目の前の親友と、同じ格好で、同じ髪型で。
同じ目で同じ顔で。
あれ?
これ、
あ、
は?
え、
俺が見捨てたの?
な?
いや、
嘘だ。
だって、
でも
なんでここ
に?
なんで?飛び降りたお前が?
お前が男の格好をして。
こんなにも笑顔で。
いるんだ?
俺は…そうだ
お前に見とれて、それで、いつのまにか好きになってたけど。男だった。あ、いや?あ?手を…あの時手を離し)
…どうだった?
ん?怖い?
なんで?
ああ。そう。
忘れてた?
思い出したか。よかったあ。
君が僕を殺したんだ、覚えてるよね?
覚えてないわけ無いよね?
君が見たとおり!
君は僕の死ぬところを見た。
そう。だって君が手を離したからさ。
君は僕に心を射止められた。
でも男だったからって。気味悪いように扱って。
落としたんだよ。君は。
唯一の親友だと思ってたのになあ。
君。僕を見捨てたんだ。
この人殺し!
ははは。
ねえ、次はさ、僕の事、正常に愛してくれる?君。
なんで僕が自殺したか教えてあげるね。
僕、元々君が好きでさあ。
だから、女の子らしい格好をして、頑張って。
水泳の時間とかは見学でごまかして、修学旅行とかさ、先生に話をしてさ、心が女だったとか嘘をついて。最低だけど、君の心を射止めたくてさぁ!
僕の事を知らない人しかいない高校に行った。君は、唯一同じ学校でさあ。近寄りやすくて。落ちるのも時間の問題かあ!しめしめって思ってたのに。
気づかれちゃって。
君と仲良い男に。
遊ばれそうになったから逃げたけどさあ、そしたら、虐められちゃって。
いたくて、辛かったんだよ?
でも君がいたからよかったあ。
耐えられたんだあ。
でも、君、僕を殺したんだ。
拒絶されたらさあ。
もういいやってなっちゃって。
なにもなくなるだけなら、怖くない。
って思った。
だから、なにもしなかった。
それで死んだんだよ?
…この動画ね。死ぬ前に僕が1から絵を描いて曲を作って、君に拒絶された日に全部完成させて。公開してから4再生になって、自分で見て。死んだんだあ。
そのとき君に気づかれて。でも手を離されて。
落ちちゃって背中の骨が折れて。血だらけで体の中身が破裂して血の味がずっとしておいしまずかった。
なんでこんな動画をあげるようなことしたのかって?
曲を再生して、ボケーっと聴いてりゃ
一回僕が死ぬ。
その曲を何回も何回も何回も何回も何回も何回も再生すれば、僕はその数だけ死んだことになる。
みんな僕を殺して、君と同じ罪の人間を沢山溢れさせてさ。君の罪が軽くなるように。
ね?良い案でしょう?
んー?
意味が分からない…?
えぇ
理解力無!おばかだなぁ。君。
ふふ、じゃあこれだけ覚えてて。
…ねえ。
お願いがあるんだ。
来世なんて無いけれどさ。
もしも次があったら僕の事、助けてくれる?
僕の事、正常に愛してくれる?拒絶しないでさ、僕ら仲良くできる?
僕も、君の事好きだったよ。
…って、伝えるために、君に会いに来たのさ!
僕はもう『永眠』してるけどさ。
君も、もうすぐでこれそうだね。
今回は無理そうだけれどさあ。
ふふ。待ってるよ。
大好きだからね。
(抱き締められた。冷たい。でもなんか、暖かいような。そんな気がした)
もう朝だ。
そろそろいかなきゃ。
じゃあ。君、頑張ってね
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