シルバニアの母は幸せ

紗香

第1話

全身にザトウクジラの飛沫浴び私が双生児産みしその時に


双生児産み落とし後下腹には誰も立ち入れぬ小部屋を抱えて


メレンゲを立てゆきながら思うことカタチ得たものが戻られぬ海


緑子と午睡の部屋に延々とメリーは鳴りて 彗星の孤独


真夏日にゆらりバギー押すロータリー鳩と視線のリズム合わさる


熱帯夜 眠りに落ちる眼裏に手を振っていた顔見えぬ子が


カタツムリを死なせてしまった夢醒めて隣に眠る子の息探る


日々伸びる双子の手足眺むれば田園に広がる水路美し


私だけ取り残された島だった共通言語の娘二人来るまで


抱きつかれ子の汗と鼓動感じれば私の胸に海が広がる


双子達と日曜のソファで睦みあう目を閉じこのまま化石になりたい


子のいない真昼のリビングに射す光シルバニアの母のうなじを照らす


午後の陽が溢れる居間に赤青黄レゴブロックの要塞鮮やか


幾ばくの夕暮れを見送りし窓枠にありし日の誰かの手の温もり


夕暮れは誰かが迎えにくるようで母でない私をいつか連れ去る


ふと消えたメリーゴーランドで手を振る子何周目かは分からないまま


公園と私はトレースされてゆく双子を目守る目だけは残され


密やかに天国について話し合う双子は母似のなで肩を揺らして


双子達は小さな世界に充足し瘡蓋を撫で慈しみている


陽だまりのゆりかごの中の夢のよう双子との日々を晩年に思えば

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シルバニアの母は幸せ 紗香 @boosayaka

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