第6話 例の部屋から脱出せよ!~完結編~

★前回までのあらすじ

 ひょんなこと(ユーフラテスの気まぐれ)から、〇ックスしないと出られない部屋に閉じ込められた茨とユーフラテスの二人。脱出する方法を探るも、不毛なやり取りでいたずらに時間を空費するばかり。

 いよいよもってこれはR-18的展開になってしまうかと思われたその時、茨のツッコミから着想を得たユーフラテスは、「〇ックスしないと出られない部屋」から「サックスしないと出られない部屋」へと"概念"を書き換えたのだった。

 なんという冷静で的確な判断力なんだ!! しかし神崎家にサックスはなかった。


~本編~

「サックス持ってねーよ!」

 茨のツッコミが木霊する中、ユーフラテスは驚いたように茨に尋ねる。

「えー! 持ってないんですかー?」

「持ってないよ! 逆に何で持ってると思ったんだよ!」

「おかしいですねー。この世界の住人のサックス所持率は実に8割と変なサイトに書いてあったのですがー」

「変なサイトの情報を鵜呑みにするんじゃない! もっと他の方法ないわけ!?」

「仕方ありませんねー。では、今この状況でも達成できる条件に"概念"を書き換えてみましょー」

 そう言うとユーフラテスは、先程と同じ様に瞳を閉じて杖を掲げた。しばしの制止の後、ユーフラテスは掲げていた杖を振る。

「はい、完了しましたー。これでマダックス(※)をすれば、ここから出られるはずですよー」

「この状況下でどうやって完封勝利を収めるんだよ!」


 ※先発投手が100投球未満で9イニング以上を投げ切り、相手チームを完封すること。こんな野球用語まで知ってるなんて茨は物知りだね! さすがは学年1位だね!


「あれもダメ、これもダメ……とんだわがままBOYですねー」

 ユーフラテスは呆れたような視線を茨に投げた。

「元はと言えばお前のせいだろーが! 何で私に非があるみたいになってんの!? あとガールだろ、せめて!」

「それではそんなわがままな茨さんのために、もう一度"概念"を書き換えてみましょー。コツは分かったのですぐに済みますが、集中したいので静かにしててもらえますかー?」

(言うに事欠いてこの野郎……!)

 正論ツッコミを無視して話を進めるユーフラテスに茨は怒りを抱いたが、一応は言う通りに黙っておくことにした。ここで怒りをぶつけても何の解決にもならない。一切信頼はしていないが、今この状況を打開できるのはユーフラテスの他にはいないのだ。

 ユーフラテスは三度みたび瞳を閉じて杖を掲げ、そして杖を振った。しかし例によって部屋の中や周囲の状況に変わった様子はなく、ユーフラテスが何をしたのか茨には分からない。

 一連の動作を終えたユーフラテスはおもむろにキッチンへと移動すると、冷蔵庫の前で足を止めた。何を始めるのかと見ていると、ユーフラテスは冷蔵庫の中を物色し始めた。

「ちょっ、勝手に……」

 茨は思わず声をかけるが、ユーフラテスは咎める茨の声を無視し、中からペットボトル入りのコーヒーと牛乳パックを取り出した。さらにユーフラテスは食器棚からマグカップとスプーンを持ち出して席へと戻ってきた。

 茨が次の動向を見守る中、ユーフラテスはマグカップにコーヒーと牛乳を注ぐとそれをスプーンでかき回し、優雅に一口啜った。

「飲んどる場合かーッ!」


 テレレレテレレレ♪


「!?」

 茨がツッコミを入れた直後、どこからともなく効果音が流れてきた。驚く茨とは対照的に、ユーフラテスは呑気に口を開く。

「この音が鳴ったということは、どうやら開いたようですねー」

「ゼ〇ダの伝説か!? 何なの今の音!? どういう原理!?」

「まぁまぁー、これでお望み通り外に出られるようになりましたよー。試しに開くかどうか確かめてみてはいかがですかー?」

「……」

 茨は疑いの目を向けながらも、ユーフラテスの言葉の真偽を確かめるべくリビングの窓に手をかけた。するとさっきまでびくともしなかった窓が、驚く程簡単にするすると開いた。それを見たユーフラテスはニコニコと微笑みながら言う。

「どうやら無事に解除されたようですねー。良かったですねー」

「……まぁ、出られるようになったのは良かったけど……どうやったの?」

「ミックスすれば出られるよう書き換えたんですよー」

「ミックス?」

 茨は思わずユーフラテスが発した単語を復唱した。ミックス。恐らくは英語の「MIX」のことだろう。意味は「混ぜる」。なるほど、「〇ックスしないと出られない部屋」から「〇ックスしないと出られない部屋」に概念を書き換えたというわけか。

「……いや、ミックスしないで出られない部屋って何だよ!?」

「私たちが今までいた部屋ですねー」

 茨のツッコミにユーフラテスは、混ぜ合わせたミルク入りコーヒーをもう一口啜りながら答える。

「っていうかそんな簡単なことで出られるんなら、今までの時間は何だったんだよ!」

「時間をかけて達成したからこそ、出られた時の喜びもひとしおと言うものですよー」

「……あぁ、そう」

 口の減らないユーフラテスに話す気力を失った茨は、それ以上の会話を打ち切った。

 何はともあれ家から出られるようになったのだ。茨は通学用のスクールバッグを肩にかけると、ユーフラテスに告げた。

「じゃあ、私は学校に行くから……」

「待ってください! 茨さん!」

 出て行こうとする茨をユーフラテスは大声で止めた。

「……今度は何?」

 げんなりした様子でそう返したが、さっきまでの笑顔とは打って変わって真剣な表情を見せるユーフラテスに茨は不安に苛まれる。また何か問題が? 茨の頭に良からぬ想像が浮かんでは消える。

「実は……」

 ユーフラテスは沈痛な面持ちで口を開き、茨は固唾を呑んで次の言葉を待つ。

「このコーヒー……苦くて飲みにくいのですが、どうにかなりませんかねー?」

「何の話だよ!? ガムシロップでも入れたら!?」

「なるほどー、そういうものがあるんですねー」

「じゃあね! 私、学校行くから!」

「最後にもう一つだけー」

「お前は右〇さんか!? この期に及んでまだあんの!? 急いでるって言ってんのに!」

「いえ、刑事コ〇ンボの方ですー」

「どっちでもいいわ!」

「はいぃ?」

「それは完全に右〇さんだろ!」

 茨はあらん限りの声でツッコミを入れる。そんな茨の様子などお構いなしに、ユーフラテスは再び尋ねる。

「今までは1話最低3000文字で仕上げてきたのに、今回はまだ2600文字ちょっとしか書けていませんよー? 作者はどうしちゃったんですかねー?」

ユーフラテスの質問に茨は叫ぶ。

「……知らねーよ!」

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