第5話 例の部屋から脱出せよ!

★前回までのあらすじ

小説家になろうに投稿分の第3話では前書きでボーボボの人気投票ネタをやったのだが、カクヨムには前書きがないのでそれができなかった。もし興味がある人はそちらを読んでみて欲しいのだった。内容はカクヨム投稿分と全く同じなので、興味がない人は読まなくてもいいのだった。

それから茨とユーフラテスは、〇ックスしないと出られない部屋(家)に閉じ込められた。


~本編~

 茨は外に出ようと玄関のドアに手をかけるが、やはりドアはびくともしない。勝手口も状況は同じだった。それならば窓はどうかと調べて回ったが、どの部屋の窓も固く閉ざされ、微塵も開く気配はない。どうやら閉じ込められたというのは事実のようだ。しかしそんな不測の事態にも関わらず、茨は落ち着き払っていた。

 その理由はユーフラテスにある。そもそもこの状況に陥ったのはユーフラテスの魔法が原因なのだ。ならば、そのトンチキな魔法を解除させればいいだけのことだ。話は至極単純だ。

「状況は分かったから、早いとこ出られるようにしてくれる?」

「わぁ……茨さん、意外と大胆ですねー」

 そう言うとユーフラテスは微かに頬を赤らめ、かぶっていた帽子を脱いだ。さらにユーフラテスはマントを外し、ワンピースをまくり上げ……

「ちょ、ちょっと待った! なんで脱ぎ始めてんの!?」

 突然服を脱ぎ始めたユーフラテスを茨は慌てて制止する。

「まさか着たまま……?」

「『着たまま……?』じゃねーよ! なんで脱いでんのかって聞いてんだよ、こっちは!」

「ですから今この家からは、〇ックスしないと出られない状態になってましてー」

「いやいやいや、これもあんたの魔法なんでしょ? だったらその魔法を解けばいいだけの話でしょ?」

「それがですねー……」

「『それが』……何?」

 歯切れの悪い返答に、茨はユーフラテスに詰め寄る。

「試しにやってみたら成功してしまったので、正しい解除方法がよく分からないんですよー。ただ一つ分かっているのは、ここから出るにはセ〇クスをしなければならないということだけですー」

「それ……マジで言ってる?」

「大マジですー」

「……どうすんだよ! 私、これから学校行かなきゃいけないのにっ!」

「外とは時間の流れが違いますから大丈夫ですよー。ここで1時間過ごしたとしても、外の世界では10分しか経ってませんのでー」

「精神と時の部屋かよっ! じゃあ私、アラーム止めてから二時間もぼーっとしてたってこと? ぼーっとしすぎだろ!」

「それは知りませんけど……」

 出る方法がないと分かった茨は、先程の冷静さが嘘だったかのように混乱した。その荒れ様にさすがのユーフラテスもちょっと引いた。

「引いてんじゃねぇ!」

 荒ぶる茨は、ナレーション的な地の文にまでツッコミの牙を剥いた。茨は続ける。

「解除はできないとしても、他に出る方法とかあるでしょ!? ほら、昨日やってた転移魔法……だっけ? あれでここから外に出られないの?」

「あの魔法はまだ研究中でしてー。石などの単純な構造なら問題はないのですが、生物に使うにはまだ危険があるかとー」

「でも、あんたはその魔法でこっちの世界にやって来たんでしょ?」

「えぇ。ですがそれは偶然、運が良かっただけの話でしてー。本来ならば転移失敗によってバラバラになって死んでいたか、成功していたとしても腕や足、もしくは臓器などの体の一部を失っていたことでしょう。対象物の構造が複雑だと成功率は著しく低下するんですよー。どこも欠損することなく転移が成功したのは、まさしく奇跡としか言いようがありませんねー」

「げー……」

「じゃあ、早速やってみましょうかー」

「いや、何で今の話から試す流れになってんだよオイ」

「大丈夫ですよー。大丈夫、大丈夫ですからー」

「大丈夫の根拠を言えよ! 頑なに大丈夫しか言わないところが逆に不安になるわ! セ……以外にここから出る方法はないわけ?」

 茨は言葉を濁して、ユーフラテスに他に出られる方法はないのかと尋ねた。茨は初心うぶだった。

「解除するための手掛かりがあれば或いはー……茨さん、あの四角い板持ってませんかー? あれがあれば色々と調べられるのですがー」

「四角い板? スマホのこと?」

 ユーフラテスに言葉に、茨はスクールバッグの中から自分のスマホを取り出す。

「そうそう、それですー。これ一つで遠くの相手と会話したり、調べ物ができるなんて、すごい道具ですよー。こちらの世界の技術はずいぶんと進んでいますねー」

 そう言うとユーフラテスは茨のスマホで調べ物を始めた。

「ふむふむ、なるほどー」

「何か分かった?」

 何やら納得した様子で頷くユーフラテスに、茨は希望を込めた声で尋ねる。

「どうやら異世界では、『ステータスオープン』をするのがしきたりのようですー」

「それがここから出る手掛かりになるの?」

「いえ、なりません」

「ならねーのかよ! ここから出る手掛かり調べてたんじゃなかったの!?」

「というわけで……ステータスオープン!」

「聞けよ!」

 ユーフラテスがそう口にすると、何もない目の前に空間に文字が浮かび上がった。どうやら日本語で書かれているらしい。茨は驚きつつも、目の前の文字に目を通していく。


数学Ⅱ/92

数学B/95

現代文 /94

古文/90

日本史/89

世界史/91

化学/94

生物/91

英語コミュニケーションⅡ/87

論理・表現Ⅱ/90


「……これ、私の中間試験の点数じゃねーか! 何で私の成績を開示ステータスオープンしてんだ!」

「どうりでよく分からないステータスだと思いましたー。これはいい方なんですかー?」

「……まぁ、いい方だとは思うけど……学年1位だし」

「へぇー。茨さんは賢いんですねー。それにそんなに行きたがるなんて、余程学校というところがお好きなんですねー」

「……」

「どうかしましたかー?」

 突如として黙り込んだ茨の様子に、ユーフラテスは疑問を口にする。それを振り払うかのように茨は話す。

「……それよりも! 魔法を解除する方法でしょ? ステータスオープンとかもういいから、何か手掛かりになりそうな情報は他にないわけ?」

「待ってください。おやー? これは……」

「何?」

「この辺り、全然ポ〇ストップがないですねー」

「……ポ〇モンGOやってんじゃねーよ!」


 その後もユーフラテスはどうでもいい情報ばかりを集め、その度に茨がツッコミを入れるという不毛なやり取りを繰り返し、時間だけが過ぎていった。

「……」

「……」

 両者の間に会話はなくなり、重苦しい空気が漂っている。そんな中、観念した様子でユーフラテスが口を開く。

「あのー……茨さん……」

「……なに」

「やはりここは意を決して、〇ックスをするしかないのではないでしょうかー?」

「……それが嫌だから、他の方法を探せって言ってんでしょーが」

「しかしここは『セ〇クスしないと出られない部屋』ですので、逆に言えばセッ〇スすれば出られるというわけですよー。それこそが『セック〇しないと出られない』部屋の所以でしてー」

「〇ックス、〇ックスうるさいよ! 少しは恥じらいを持て! あと前回も言ったけど、何で毎回伏せ字の位置違うんだよ!」

「伏せ字……? もしかすると……」

 茨のツッコミを受けたユーフラテスはそうつぶやくと、何事かを考え始めた。いつになく真剣な表情を見せたユーフラテスを、茨は黙って見守る。

 次にユーフラテスは瞳を閉じて杖を掲げると、その状態のまま動きを止めた。どうやら集中しているらしい。さらにユーフラテスは掲げていた杖を振った。茨は周囲を見渡すが、何か変化が生じた様子はない。茨は恐る恐るユーフラテスに尋ねる?

「何かしたの……? 特に変わった様子はないみたいだけど……」

「"概念"を変えたんですよー。とりあえず〇ックスと響きが似ているサックスという言葉に変えてみましたー」

「……はぁ? 全然意味分かんないんだけど……」

「茨さんの伏せ字という言葉から、『〇ックスをしないと出られない部屋』の概念を変えればいいのでは? と思い付いたんですよー。それでこの空間を『〇ックスしないと出られない部屋』から、『サックスしないと出られない部屋』に変えてみたんですよー。というわけで、早速サックスを吹いてみていただけますかー? それでここから出られるはずですー」

「サックス持ってねーよ!」

 茨の魂のツッコミがまたも木霊した。

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