第10話 哀れな音楽家/魔法学校入学制度

「でも、私にそんなこと、きっとできないですよ」


 彼女はとても暗いテンションでそう言った。


「どうして、そう言う」

「だって、私……。この魔法学校に通って五年、ずっと魔法学と音楽に触れてきたが、誰にも認められなかった。きっと、私には何もかも、センスがないんですよ……」


 ちなみに、ミミニアリスト魔法学校は十二年制である。成績によって飛び級があるので、必ずしも十二年在学するわけでもない。他にも、入試段階で何年生用の試験を受けるかを選択することができるため、例えば、『ミミニアリスト魔法学校三年生入学試験』に合格すれば、来年度三年生として入学できる。


 それがミミニアリスト魔法学校の学年制である。


「でも、魔法学に才がないと言ってるが、ここに入ってる時点で魔法学はかなり得意な方のはずだよな」

「そんなに難しいんですか?ここ入るの」

「そうか、ノゾミルのやつは特待生だから、入試受けてないのか」

「俺、入試持ってるぜ」


 ササノは『20●●年ミミニアリスト魔法学校入学試験問題集』と書かれている本を取り出した。


 せっかくなので、解いてみよう。


 そうして、私は入試を解き始めた。


*****


 その間、オサノとササノはその誘拐した彼女の話を聞いていた。


「というわけで、話を戻すが、君の言ったことはどういうことだ?」

「え……っと」


 オサノは無駄に威圧的に言ったからか、彼女は少し怯えていた。


「オサノよ。そんな感じで訊いていては、話したいもんも、話そうとは思わんぞ」

「まぁ、そうか……。すまん」

「あ、いえ」


 そうして、空気は一息をついた。

 そして、会話は再開された。


「とりあえず、名前を。俺はオサノだ」

「俺、ササノね」

「アイツはノゾミル。そして、ライナとユウナね」

「あ、ありがとうございます


 彼女は軽く頭を下げた。


「私の名前はオンノです。最近の悩みはこの誘拐事件を風紀委員と警察に通報しようか悩んでいることです」

「やめろよ?まじで」


 オサノは少し不安そうな目を見て言った。

 通報されてしまっては、エロゲ開発部存続どころの話ではない。


 まぁ、その誘拐勧誘手口が問題なのであるが。


「それにしても、何故そんなに自虐的なのだ?」

「だって、私、何をやっても駄目ですもん。魔法学の成績もイマイチだし、部活も……」


 オンノの顔はすごく引きずった顔になった。


「その駄テンション……。部活は原因だな」

「やっぱり、分かりますか……」

「うん、うん。すごく分かる。分かりやすい。ほんじゃ、とりあえず、なんか弾いて」

「あ、はい……」


*****


「なんだこれ……」


 これに才がないと言って何と言おうか。

 逆になんでこんな風な旋律を奏でられて、才がないと自虐できたのであろうか。


「すごい。金払ってでもやってもらいたい」

「へ?」

「つーても、俺たち全然部費ねーよ」

「へ?」


 オンノは目を丸くしていた。


「真面目に君に言おう。オンノ、この自分でも思う……。異質なこの部活に入ってはくれないだろうか?」


 オサノはオンノの手を取り、そう懇願した。


*****


 オンノは才に溢れていた。

 魔法学の才はノゾミルほどではないが、常人なら憧れを抱くほどのモノであるし、音楽の才はそれはもう、目を見張るものであった。


 ロック音楽に興味のあった彼女は魔法学校入学後、軽音楽部に入部した。


 しかし、その部活の雰囲気は最悪であった。


 そこの部員たちは簡単に人を貶し、虐め、見下す。

 そして、才のあるものには嫉妬をし、侮辱した。そんな部活なのであった。


 だから、才のあったオンノはすぐ部活内のその対象となった。

 誰も、一緒にバンドも組んでくれず、自分の音楽の才、魔法の才を侮辱され、自分でも、自分の才を信じられないようになり、自己肯定感は極限に低くなってしまった。


 だから、こんな風に認められたのは、とても久しぶりのことであった。

 そして、彼女の希望の言葉であった。


 そして、彼女は思う。この部活は良い部活だなと。

 ぜひとも、加わりたい。この人たちの仲間に。

 かなり単純な思考なのかもしれない。しかし、それでもいい。あの場所から逃げられ、この雰囲気にのまれられるなら、よっぽど、その方が良い。


「私も……。この部活に入れてください!!」


 こうして、また一人。部活に仲間は増えた。


*****


 そんなことが行われていた傍ら。私はこの学校の入試問題を解いていた。


 ちなみに、私は特に学年は決まっていない。特待生はどの学年にも属さないのだ。しかし、しっかりクラスには入っている。そこでは私は五年七組だ。校長がルーレットを回して決めたらしい。


 というわけなので、五年生の入試問題を解いていた。


 まぁ、そんなわけでせっかくだから、このミミニアリスト魔法学校の入学形式、入試形式についてここに書いておこう。かなり作品設定に触れる内容なのだが、そこまで重要でもないため、別にここは読み飛ばしてもらっても構わない。

 ちなみに、第10話はこれで終了するので、読み飛ばす場合はこのまま第11話に移動したらよい。


*****


 入学形式は『魔法学校推薦特待入学制』と『魔法学校推薦入学制』、『自己推薦入学制』そして、『自己志願入学制』がある。


 魔法学校推薦特待入学制は私が入学した制度だ。魔法学校から未来、優秀になるであろう魔術師に推薦状が送られ、試験なしで特待生として入学できる制度である。


 魔法学校推薦入学制もほぼ同じであるが、これは魔法学校推薦特待入学制とは違い、入学した際、特待生ではないというものだ。

 ちなみに、この際学年は推薦状に「●年生の入学を本校長により推薦された」とされている。


 自己推薦制は自らで自らを推薦するものである。これは試験がある。

 筆記試験(魔法学)、実技試験、面接の三つである。


 自己志願入学制は魔法学校に入学を志願するものである。これも試験があり。

 筆記試験(魔法学)、実技試験がある。これで入学するものが一番多い。


 ちなみに、自己推薦制と自己志願入学制に特待生制度が存在し、十二年生入学試験にて優秀な成績を残せば、特待生となることができる。

 そして、この二つの入学制度は無論、受験となるため、合否によって入学できるか否かが決まる。


 そして、上を目指すやつの中には、魔法学校推薦入学制の推薦状を受け取っても、それを蹴って、自己推薦制、自己志願入学制で特待生を目指すものもいるようだ。


 ちなみに、この時、私は「20●●年ミミニアリスト魔法学校五年生自己志願入学制入学試験筆記試験問題」を解いていた。

 流石は世界有数の魔法学校。しっかりと難しかった。

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