第9話 音楽家誘拐監禁事件

 シナリオ確定。そうして、ゲーム制作は本格的に動き出した。

 私はテキストを打ち込む仕事をすることになった。彼女たちの台詞を考えたのは勿論私だ。


 性格、属性等、すべて私が考えた。私が彼女たちを創ったと思うと、少し興奮する。


 そして、そのデザインもついた。

 分からないけど。可愛いらしい。


 そういえば、何をしているか不明であったユウナはCG担当らしい。あとは他にもやっているみたいだが、彼女は必要な時以外は全然口を開かないので、全然素性が分からないのだ。


 まぁ、別に何でもいいや。


「そういえば、音楽は出来る人いるんですか?」


 私はそう訊ねると、皆が黙り込んだ。


「……決まってません」

「去年、卒業しました」

「まじですか」


 一応、言っておこう。

 ミミニアリストアカデミーの作品締め切りはたった3ヶ月後である。短い……。


 ちなみに、私がそんなことを聞いたのはついさっきのことである。


「え?!そんなけしかないんですか?!」

「ああ、正直、厳しい。無事完成するかどうか……」

「ちなみに、このゲームの完成にはどのくらいかかったのですか?」


 私はそう言いながら、彼らが去年制作したゲームを示した。


「……プロット完成から1年」

「終わった」


 前回、諦めるなと言い張った私ではあるが、これは無理ではないかと秒で思った。


 そんなはっきりとはこの部屋の中では言わないが。


「しかし、本当に思うな。音楽家はさっさと何とかした方が良いと」


 そう、ササノは言った。

 まぁ、まずそこだな。


「アテはあるんですか?」


 私はそう訊ねると、また部室にいる皆が黙り込んだ。


「まぁ、この空気感が物語っていますね」


 いないんだろうな。


「どうする?軽音部にでも頼むか?」

「いや、あの人たちにもアカデミー準備あるでしょう」


 ミミニアリストアカデミーには学校内の文化部のほとんどが参加する。さて、彼らがするのはライブかアルバムかは分からないが。

 そんなことはどうでもいい。とにかく、あちらも忙しいのだ。恐らくこちらの話など、聞く耳持ってはくれないだろう。


「いや、ダメもとで行ってみる」

「あ、ちょっと……」


 部員の静止を聞かずに、ササノは部室を飛び出した。


*****


 三十分後。

 ササノが戻ってきた。とある誰かを抱えて。


「ササノさん……。ソレ、何ですか?」

「一応人だぜ。ソレと言うな」


 いや、人を物扱いしているような持ち方をしているお前が言うな。


「お前、また誘拐したな」


 オサノが呆れ顔そう言った。


「誘拐?私がされたようなやつですか?」

「ああ、全く同じ手口」


 マジか、私、あんな風に扱われていたのか。麻酔で眠らされていたから知らなかった。

 ちなみに、今回もササノは麻酔を使ったようで、その被害者は眠っている。


 その被害者はギターを持っている女性である。


「ササノ……。流石にそんなに女性攫ってたら、風紀委員に捕まりますよ」

「風紀委員の前に警察のお世話になりますよ」

「そうかな」

「そうだよ」


 すっとぼけたササノに私とオサノはツッコんだ。

 その間、ライナとユウナはせかせかと作業をしていた。

 今、彼女たちが一番忙しいからな。忙しそうにペンを動かしている。


 しばらくすると、例の軽音部員が目を覚ました。


「まぁ、弱い麻酔魔術だからな。三十分ほどで目を覚ますのは分かってた」


 と何故かササノは言い張る。威張るものでもないだろう。


「あの……。ここはどこですか?」

「ああ、ここはエロゲ開発部室だ」

「エロゲ……開発……ぶ……しつ?!!」


 その部員の顔は一気に青ざめた。


「ひぃっ!!」


 そして、彼女は一気に逃げようとした。

 しかし、出入り口に見えない壁があるかのような感じでせき止められた。


「あ、結界あるから」


 本当に見えない壁がありました。


「普通に誘拐、監禁ですね。私の時のこんな感じだったんですか?」

「全く同じだな」

「今から通報しても間に合いますかね」

「「やめろよ」」


「私は間に合いますよね」


 そう口にしたのは、例の被害者であった。


「ちょっと110に電話します」

「ササノ!圏外魔法をかけろ!」「分かった!」

「完全に実行犯じゃないですか!」

「「実行犯だよ!!」」


 ダメだ、こいつら。早く何とかしないと。


 こんな状況でも、ライナとユウナは黙って作業している。


「しかし、どうしてそこまで私たちに怯えてるんですか?」


 すると、被害者はこれまた苦い顔をして話し始めた。


「だって、まずエロゲ開発部っていう名前だけでも引くのに、それに加え、変な噂が死ぬほどたってますもん。

「例えば?」

「不明な活動。辺鄙にある部室もそうですし。一番はこの前の魔力ビームによる爆発事故」


 まぁ、そうだろうな……。最近の一番の事故といえば。


「そんなことがあった部活を怯えるなという方が難しいと思います」

「うん。確かに」


 オサノはキッパリ言った。


「それはともかくで。お願いだ。私たちのゲーム開発に協力してくれ!」


 オサノはこれまた見事な土下座をした。

 すごい。この型、黄金比じゃないか?


「ゲーム開発ですか……?」

「ああ、そうだ。ゲーム開発のための音楽制作だ。あいにく俺たちの中に音楽の知識が通っている者がいないため……」

「なるほど……」


 彼女は手を顎にやった。

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