第8話 暇つぶし
私は自信満々にオサノに提出した。
「おう、書けたのか。どれどれ」
オサノはパソコンで作業していた手を一旦止めて、私の書いたシナリオを読み始めた。
かなりの文量であるから、読むのにはかなりの時間を要するであろう。
そう思い、私は開発部室の一つの椅子に腰かけた。
今、この場には珍しく、オサノと私の二人だけしかいない。残りの三人はやることが特にないからとゲーム屋や本屋に行ったらしい。言うに、新作のライトノベルやエロゲが登場したから、みんなで回収に行くとのこと。
その為、落ち着かないほどに静かである。響く音はオサノの紙を捲る音と時計の針の音のみ。それ以外は特にない。
何もすることがないので、開発部室を何となく、漁ることにした。別に、特になんとも言われないであろう。
見てみると、この部屋にあるものと言えば、数台のパソコン、ノートもデスクトップもある。皆、大体ノートを使う方が多いようだ。
他には、大量のゲームソフト。一応、一般用ソフトもあるにはあるが、成人用ソフトの数がそれよりも、はるかに上回っている。
そして、いくつかのゲームハード。Nintendo SwitchやPS5などの最新なものは勿論、かなり古いゲームハードも出揃っている。ファミコンなんてものは普通にあるし、さらに見てみれば、Virtual boyとかいうマイナーハード。テレビゲーム15やカセットビジョンとかテレビゲームとかいう古すぎて何なのか分からないものまである。ホコリが被っているのを見たら、あまり使っていないのだろうな。
他の棚を見てみると、たくさんのフィギュアが飾られていた。女性フィギュアの割合が九割を超えている。しかも、全部、布地の面積が少ない。肌色だ。すごいものの中にはもう乳首を堂々とさらけ出している巨乳もいる。しゅごい。
他には、本だ。本棚だ。
どんなものがあるのだろう。
ふと、開いてみると、そこには、この部活には似合わない、大量の活字が印刷されていた。しかし、その内容はとても真面目とは言えない内容である。そう、ここに置いてある小説はすべてライトノベルだ。
他にも漫画があったが、すべてエロ同人であった。
*****
あまりにも暇すぎるので、エロゲ開発部員らしく、エロゲをすることにした。何のエロゲをしようかな……。
ということで、最近のエロゲを遊ぶことにした。大して話題にもなっていない。無名のゲームだ。
そして、プレイ開始からしばらく経った頃。
「まぁまぁだな……」
まだ攻略途中なのだが、私から出た感想はそれであった。
大してパッともしないない内容だし、全然萌えない。エロシーンもそこまでそそられない。
同級生やCLANNADとはやはり全然、出来が違う。まぁ、そんな有名大作とこんな無名作品を比べても、何にもならないのは重々承知であるが。
しかし、あくびが出るほどの味気無さだ。
そうか、つまらないゲームというのはこんな感じなのか。
私は今まで、面白いゲームしかやってこなかった。だからこそ、少しばかり視点が縛られていたのかもしれない。
勿論、このゲームはつまらない。しかし、何か得るものはある。私は根拠もなく、そう感じた。
*****
そんな感じで適当に暇をつぶし、数時間後。
「よし、読めたぜ。なかなか良いんじゃないか?」
「あ、そうですか?」
「うん、俺からは特に文句はない。
「そうですか……。でも、部長、少し、改変してもよろしいでしょうか」
すると、オサノは疑問を持ったような顔をした。
「どこか、変えるところでもあるのか?」
「はい、ちょっと視点が変わりまして」
話しながら、オサノは卓上を確認した。そこには私が遊んでいたゲームのパッケージが置いてあった。
「なんだ。あの駄作を遊んでいたのか」
「はい。棚にあるパッケージの新しめなものを一つ。確かに良くはなかったですが……」
「だろうね」
すると、オサノは何やら残念そうな顔をした。
「どうしたんですか?」
「それはな……。去年俺たちが作ったゲームなんだ」
え……。
マジか。
気まず。
私は顔を青白くした。
どうしよう。何とかプラスなことを言わなくては……!
「え……。えっと!」
「いや、良いって。お世辞なんか言わなくても。どうせ褒める要素なんてないんだし」
オサノはそのゲームのパッケージを見つめて、また言った。
「俺も分かっている。このゲームはつまらない。しかし、俺たちはこんなものしか作れない。『私の初心なラブリンス』を超えるような作品、俺達には到底生み出せないんだ」
『私の初心なラブリンス』は十年くらい前にミミニアリスト魔法学校エロゲ開発部によって生み出された作品である。そのため、彼らはその制作には全く着手していない。彼らもこのゲームは元々部室にあったものなのだ。
そして、彼らがこれに倣って作ったものが……。そう考えると。
しかし、私は言った。
「そんなの、分かんないじゃないですか……。もしかしたら、このゲームでいけるかもしれないじゃないですか!」
私は立ち上がって、大きな声でそう告げた。
「このシナリオは良い出来なんですよね?!」
「ああ、そうだな、良い出来だ」
「じゃあ、いけるかもしれないじゃないですか?!」
そう、さっき遊んだこのゲーム。つまらないと言ったが、ストーリーという基盤がクソ
だったからつまらなかっただけで、プログラムの点ではバグとかもなかったし、デザインにおいても良かったのだ。ストーリーがすべてを壊していたのだ。
ちなみに、そのストーリーを書いていたのは、てんでど素人の彼の知り合いだそうだ。もう、卒業しているのだそう。かなり軽く適当に書いていたようで。
しかし、私は素人でも、ほんとに本気で書いた。
それだけでも違いはあるだろうと思う。多分……。
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