第6話 出ない良シナリオ
「よし!プロット完成!」
オサノは勢いよくエンターキーを叩いて言った。
「部長―。そんなに強く叩いたらキーボード壊れますよー」
「ただでさえ部費ないんだから」
「ぐぬ……。これだから貧乏部活は。とにかくノゾミル!」
「ひゃい!」
いきなり呼ばれたので、つい声が裏返ってしまった。
「……シナリオ頼んだ」
「あ、はい」
そう言って、印刷され、紙にされたプロットが私に渡された。
「それから、いいシナリオ考えてくれよ。とびっきり良くて、エロいやつ」
「エロいやつですか……」
私がそう言うと、オサノはキョトンとした顔で。
「エロゲだもん。当たり前じゃん」
と言った。
エロいシーンか……。どうしよう、私、処女だからな……。
「大丈夫だよ。ノゾミル……」
声の方を振り返るとそこには黄昏ているライナがいた。
「エロゲのメイン要素ってどこか分かるか?そうだよエロシーンだよ。私がエロいおっぱい描いて、挿れたくなるま●こを描けばいいのさ」
「ま●こはモザイクで見えないよ」
とユウナは喋った。二つ目のユウナのセリフ。
ちょっと、くだらない。
*****
シナリオ等の担当を受け持って、とにかく一旦家に持ち帰った。
Wordソフトを開いたパソコンの前で腕を組んで悩む。
実家暮らしの時、だかが趣味で物語を書いたことはあった。小説形式の物語文だ。
物語を考える上では両者共に同じなのだが、どうも要領が違う。
とにかく、インスピレーションを湧かせるが為に私はエロゲをやった。
どんなストーリーがいいのだろう。
どんなものをユーザーは求めているのだろう。
いや、そうか、私がエロゲユーザーとして、何を求めているのだろう。
可愛い女の子との純愛、恋愛。彼女に潜む、意外な真実、とてもそそるシーン、魅了されてしまうセリフ。
魅力的な、即堕ちしてしまうような出会い……。
ひたすらに先人の作品からアイデアを盗もうとした。
泣きゲー、抜きゲー、やり込みゲー。
時にはエロ要素のないギャルゲー。『アマガミ』や『ときめきメモリアル』も触った。
そして、とある一つのシナリオが完成した。
「どうですか……?部長」
「おう」
そして、部長は印刷されたシナリオを受け取り、ゆっくりペラペラと捲りながら読み始めた。
この時間。空気が重い。時の流れが遅い。
不思議な感覚であった。心臓がバクバク鳴る。これご緊張というやつか?
「ノゾミル」
「ひ……ひゃい!」
また裏返ってしまった。小っ恥ずかしい。
「色々調べたんだな」
「は……はい」
「うん、確かにその努力は伝わる。いいシナリオだ。でもこれは没だ」
「へ?」
「没」。その言葉が私の頭をよぎった。
「どうも面白みに欠ける。多分調べすぎだ。ほとんどかどこかで見たことあるシナリオになってるんだよ。あれだ、例えてみれば、最近のWeb小説とかはテンプレに忠実すぎるせいで、またこれか、と呆れられる。あんな感じだ」
「あ、そうですか」
「恋愛シーン。エロシーンとかはお前がドキドキするもの、興奮するものを書けばいい。日常シーンは自分の面白いと思うことを書けばいい。別に大作ゲームを参考にするのはいいが、それに頼りすぎるのは良くないな」
「なるほど……」
「よろしくな」
そうして、没になったシナリオが返された。
*****
ノゾミル集合前のエロゲ開発部。
オサノが口を開いた。
「それにしめもシナリオを考えるって難しいもんだよな」
「どのへんが?」
「いや、エロゲユーザーにも求めているものは違うわけだろ。だからどういう風なシナリオにしてエロゲを魅せるかって結構難しいと思うんだが」
「その点なら、ターゲット層をしっかり絞って作るしかないだろ。どうやっても、下から液を出したい奴は抜けるゲームを選ぶし、上から液を出したい奴は泣けるゲームを選ぶ」
「でも、泣きゲーも抜けるだろう?」
つまり、それは泣きたいけど、抜きたくない奴もいるということか?とササノは心の中で思った。
そして、まぁそういうことか、と彼は自己完結して、話を進めた。
「まぉ、その場合は全年齢版を買えばいい話だろ」
「出てなかったら?」
「諦めて、エロゲ遊べとしか言えん」
エロゲ開発部ではこのようなエロゲ討論を開発作業中に行うこともしばしばある。
しかし、部員にとってはこの討論の時間もかなり有意義なものなのである。いつか、エロゲ討論会っていう部活行事もやってみてもいいかもな。
すると、ノゾミルが部室にやってきた。
「お疲れ様です……」
「おつかれーって本当に疲れたご様子で」
「シナリオが全然思いつかないですよ。インスピレーションが湧かなくて」
インスピレーション枯渇ときたか。
そこで、ササノはとあることを思いついた。
「そうだ、ノゾミル。今からみんなでお話ししようぜ」
その言葉に、オサノ、ライナ、ユウナも察した。
そうだ、今からやるのは、インスピレーションを湧かせるがためのエロゲ討論会である。
まさか、こんな早くにやる羽目になるとは。
そうして、とりあえず、卓上を整理して、茶菓子でも用意し、リラックスして話し合いの場を設けることにした。
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