第5話 創作意欲

 気づけば、私の賃貸アパートの窓からはあさひ朝日が差し込んでいた。

 そんな中、私はまだ、四角い画面を見ていた。

 その画面には黒画面の中に「fin」という白文字が筆記体で表示されていた。


 しかし、現在私はその画面を鮮明に見ることはできなかった。私の視界はうるうるとしてぼやけていたから。これはそう、涙だ。


「何……。これ……」


*****


 エロゲにも色々種類があるらしいのだ。

 プレイヤーを本気で抜いてもらえるようにする「抜きゲー」だったりとか、ゲーム性を高めて、ゲームとしてやりこみ要素を増やすエロゲもあったりする。


 私はその中でもかなり人気のジャンル。「泣きゲー」と称されるものをプレイしてしまった。


 そう、ミミニアリスト魔法学校エロゲ開発部作品『私の初心なラブリンス』はとても出来の良い「泣きゲー」であったのだ。

エロシーンは確かにあるが、そんなの気にならないくらいにストーリーの出来が良い。


「楽しませてもらいました……」


私は一人でそう呟き、拍手した。


*****


 そして授業中……。

 私は案の定、睡魔を戦闘を繰り広げていた。


「どうしたの?ノゾミル。眠そうですわね」


 教卓に立つアミが言った。


「あ、いや、ちょっと魔導書を漁ってまして……」

「まぁ、それは関心ですが、ほどほどにするんですのよ?」

「あ、はい……」


 嘘をついてしまった。


 その寝不足状態は座学だけでなく、実技学習の際でも大変困ったようにした。

 学校内の大きな中庭にて……。


「じゃあ、次、ノゾミル!できる火炎魔法を放て」

「あ、はい」


 視界が霞む、集中できない。


「えっと……。『ファイヤーフレム』……」


 すかっ……。


 魔法は出なかった。


「どうしたノゾミル。もう一度やってみろ」

「あ、はい……。『ファイヤーフレム』……!」


 私は意識が朦朧とした中、できる限り魔力を込めて、炎を放った。

 すると、私の杖からは巨大な炎が生成された。高さ10mほどある。


「おい!ノゾミル、止めろ止めろ!」

「ふぇえ?」


 私は慌てて魔法を急停止させた。草木に炎が燃え移っている。


「『アクアコレスト』!」


 教師が放った水魔法によって何とか鎮火できた。

 あたり一帯と生徒がぐしょ濡れになったが。


「ノゾミル……。魔力量が多いのはいいが、調整はしっかりしてくれ」

「あ、すいません」


 どうやら、私はドジったようだ。


*****


 そして、放課。

 一応部員でもあるし、借りた『私の初心なラブリンス』を部室に返すために、部室に訪れた。

 そういえば、ミミニアリストアカデミーのためのエロゲ開発部はゲームを作らなければならないのであるが、その進捗はどうなのだろうか。

 とそんなことを気にするほど、この時の私はエロゲ開発に少しばかりの興味を持っていた。


 昨日の私なら考えられない思考である。一日でも、何かあれば人は変わるものである。そう感じた。


*****


「お疲れ様です……」


 エロゲ開発部室には昨日のメンツがそのまま揃っていた。


「ん。お疲れ。そういやノゾミルってシナリオ書ける?」

「シナリオですか?」


 そうオサノは私に訊ねてきた。


「どうでしょう……。やったことないですが……。あ、そういえばこれ」


 その流れで私はオサノに借りていたゲームを手渡した。


「え、もうこれやったの?普通にボリュームあったと思うんだけど。

「はい。とても面白かったです」

「なるほど、だから目の下にクマができているのか。大体分かるよ。そうだよな。これ泣きゲーとしてはかなり出来良いんだもんな」


 しかし、こんなゲームを出しても、結果は優秀賞止まり。そう、この部活の存続のためにはこのゲームを超える超大作を作り出さなくてはならないのだ。


 そんなの、何のチート能力もなしに自分の力だけで強くなって結果、俺TUEEになるレベルに困難なものだ。


 そして、そのゲームを作る上で、シナリオはすごく大事だ。それはこのゲームをやって痛いほど分かった。


「とりあえず、ここらへんも遊んでね」


 何故か部長はそう言って、たくさんの大きな箱を私に渡した。


「そこらへんはほぼほぼ泣きゲーだな。keyソフト全般だ。ちなみに全部成人版」

「キー?」

「有名なゲーム会社」

「あ、そうなんですか」


 すごく端的に説明された。


 まぁ、なんとなく借りたゲームを遊んでしまい。また徹夜をしてしまった。


*****


 そして、翌日。

 今日はまだノゾミルは来ていない。つまり、ノゾミル以外が出揃ったエロゲ開発部。

 そんな中、オサノ一人が手を動かしていた。


「部長……。プロットまだぁ……?遅い」


ライナがそうオサノに愚痴をこぼした。


「分かっとるわい。多分今日中に終わる」


 開発はまずプロット(企画書)ができないと何も進まない。現在、この状態で動けるのはオサノ一人。他は何もできないのである。

 逆に言えば、オサノの任務が終わると他の者の業務が始まるわけで。そんな受け渡し的な感じの業務なのである。



「それにしても、シナリオどーしよ。ノゾミルやんねーのかな?ほんじゃ、俺がやることになんの?」

「じゃあ、ノゾミルは何をやるんだ?」

「ああ、そうだ、このエロゲ開発部に無職という役職はないからな。


 そんな会話が行われているとき。ノゾミルが何やら強気な顔で入室してきた。


「おう。お疲れ」

「お疲れ様です!私、シナリオやります!」


 何故か。ノゾミルの心には創作意欲が湧いていた。

 何故か?いや、理由は明白だろう。彼女の腕には数多の名作エロゲがあったのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る