友常 甘酢

ひよこ色の黄身にプツンと箸を刺す窓の向こうに溢れる緑


血のにじむ下くちびるに薄皮が剥けかけていて爪でちぎった


プラゴミの中に混じった生ゴミをあさるカラスの羽に浮く虹


ぐんにゃりと大きな穴が開いてるミントグリーンのフェンスの向こう


路上には踏みつけられてグシャグシャに壊れたイヤホンがまだあった


苔むしたカーブミラーが割れていてバキバキな人バラバラな道


さっきまで完璧だった蜘蛛の巣が壊れてもういない黒い蜘蛛


もうずっと破れたままのあの家の二階の網戸が風に靡いた


ほどかれた気がした 少しきつかったマスクのゴムがふわっと切れて


トイレットペーパーのミシン目を無視し好きなところで自由にちぎる


靴下に穴が開いてる見られぬようギュウッと足の指を丸めて


素麵の帯をちぎって湯に放つここは自由だと泳ぎだす


枯れてきたカーネーションをへし折って紙で包めば生き物の匂い


見られたら多分言い訳してしまうレシートを破り丸めて捨てた


百均の洗濯ネットが少しずつ破けるちゃんと暮らしているから


大型の洗濯ピンチハンガーが経年劣化で一斉に死ぬ


ガタガタとする椅子の脚が適切に削られていくような教育


論破して満足を得る中年のSNSでの戦闘能力


もうひとり私が私の中にいてたまに蹴られる蹴るべき時に


立ちなさい 殴る蹴るの暴行を私が私にする宗教画


鉛筆を真っ二つに折りむき出した芯で本音を書き殴る会


蛹って中で体を溶かすのね、なりたい姿に変わりゆくため


もしも輪が滅べば土星も探すかな、納得のいく自分らしさを


プログラムされて静かに滅びゆくアポトーシスが美しく見える


破壊から生まれるものもある だけど、悲しくなるの、風鈴みたいに

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友常 甘酢 @amazuan

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