物陰

軒下蛸

物陰

このお話を書いたのは エウリピデスじゃなくてアリストファネス


そんなことを言ったから 彼は墓の下で私のことを呪っている


でも聞いてよね 針千本飲んでも痛まない喉に詰まる悲鳴


愛す不毛と愛さぬ空虚 天秤にて傾くは後者のようね


テミスの奴隷じゃないから 知ったこっちゃないのだけれど


時間の無駄と賢者は言うが おあいにくさま私は阿呆者


こんなに若い美空で こんなにもマゾヒスティックに生きているのよ


それを恥じる様子もないから あらら外ればかりのフォーチュンクッキー


わざと貪ったその甘さを噛み締めながら反吐を飲み込んでいる


信天翁の肉は美味いが 彼の血肉に私はなれないらしい


だから乾いた唇をかんで 自分の赤を彼のかわりに味わうの


錆の味をぷちりと破りぺろりと舐めてごくりと飲み干す 


馬鹿みたいね こんな不味いものをあなたに味わってほしいだなんて


本物の馬鹿もいたものね 甘やかな唇を食べさせるなんて


太い骨組みの手が 紅を透かしたまろやかさをかき混ぜている


鏡は黒く曇ってしまったから お互いの姿しかうつせない


貴方が褒めたブラウンは色褪せ お前の黒は色めいている


誰か見ているかもと恥じらうお前は言う 勘の良い子は嫌い


誰も見ていないさと笑う貴方を嘲られない私が嫌い


ねえ言ったでしょう これは喜劇以下の茶番でしかないのだと 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

物陰 軒下蛸 @nokishita_tako_tako

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

参加中のコンテスト・自主企画