第8話 デューダの過去②

 村の秘密と言われて、デューダは何のことであるのかということは、少しだけ察していた。 

 この、フーレ村には掟が一つだけ存在した。


【許可なく、森に入ってはいけない】


 実際は掟を破ることすら困難であり、村は周囲を4mほどの壁で囲われているのに加え、500mおきに門番が配置されている。

 デューダが生まれた当初からずっとこの光景であり、当たり前に見慣れた景色ではあったが疑問に思ったことは、1度や2度ばかりでは無かった。


「お前も知っての通り、この村は森に囲まれている。そして村の周囲には壁がある。疑問に思ったことは何度かあるだろう?」

「ええ。あります。図書館で本を読んでいた際に、魔獣という記載を見つけたことがあります。その説明文には人が到底敵わない生き物であるとも・・・

森の外にはそういう類のものが生息しているから、壁によって魔獣の侵入を防いでいるんじゃないかと考えていました」

 

 デューダがそう言うと、ダドリは我が子の頭脳の高さに感心した。

 将来は自身の医院を継がせようと、小さい頃から英才教育をさせていた影響もあるとはいえ、7歳とは思えないほど成熟している我が子の洞察力には惚れ惚れしていた。

 

「まさしくそうだ。ここでは魔獣の存在を隠しているが、実際この世界には魔獣がうじゃうじゃ存在している。そして、人に危害を加える種類も多く存在しているのも事実だ。

フーレ村の外にある森は、別名“勇者の森”と呼ばれている」

「勇者の森??」

「あぁ、勇者ほどの実力が無ければ、この森に入った時点で死ぬ可能性が高いという理由から、この名前が付けられたと言われている」

「じゃあ僕たちは一生この村から出られないの?」


 頭の良いデューダが、いつにもなく不安そうな声で聞いてきた。

 その様子を見て多少ためらったが、ダドリは勇者の村の事実を話すことを決めた。


「今まで話したことが、この村で考えられている常識だ・・・そして、これから話すことが真実だ」

 周りに誰もいない事を確認しつつ、ダドリは続ける。


「ここフーレ村というのは、民間の実験施設であるということだ・・・」

「え?」

 ダドリの思いもしない内容に、デューダの頭は一瞬思考停止をした。


「お前も知っての通り、この村の周囲には森がある。そして、この森には魔獣が生息しているのも事実だ。ただ、実際にはこの地域に生息する魔獣は比較的温厚な種が多く、彼らの縄張りにさえ入らなければ危険を受けることもない。

そして、フーレ村も当初は専属の魔獣特化魔導士を抱えており、不測の事態には彼らが対処をしていた。

しかし、20年ほど前に民間企業のM&Kがフーレ村に目を付けた。

豊富な資源や、多種多様な魔獣、そして魔導士のレベルの低さにだ。彼らは、科学兵器と私兵を用いて、武力制圧を行った。

魔導士は処刑され、反対派もすべて処刑した。そして、記憶を改変することに賛成した村人のみを受け入れた。

その後は、今の魔力が全くない村の状態へと変わっていった。」


 今のフーレ村しか知らないデューダには信じ難い話ではあったと同時に、驚きを隠せずにいた。


「M&Kってところを国に報告するのはダメなの?」

「恐らく、国とM&Kはグルだ。今の彼らがこの森周辺で行っている実験は、合成魔獣キメラの開発、そして野生魔獣の完全操作フルコントロールだと思っている。国かどこかからの命令で動いていると踏んでいるが実際のところが知る由もない」

 デューダはダドリの言っている内容に関して、完全に理解をすることが出来なかった。


「魔法というのは、攻撃をすること以上に攻めてくる相手への防御策となる。デューダ、お前にも魔法を教える時期が来るとは思っていた。お前の才能はこの村で終わって良いものではない」

 そういうとダドリは本棚から1冊の本を取り出し、デューダへ渡した。


「トビーの冒険・・・?」

 表紙に書かれた小人のような少年の物語なのかとデューダは思った。


「ああ、その魔導書の内容はただの小説さ。ただ、魔力に比例して読める量も増えていく。開いてみろ」

 ダドリに渡された本を開くと1ページに目次があった。

 しかし、第2章までしか書かれておらず、その下は空白となっている。


「第2章 鍛錬・・・父上、何ですかこれは?」

「現時点で2章まで読むことが出来るのか、流石は我が息子だ」

 そういうとダドリはデューダの頭を撫でた。そのまま続けて口を開く。


「この小説は第12章で構成されてはいるが、12章読むことができるのは、この世界でも数人だけだと言われている。ちなみに俺は7章までしか読むことが出来ない」


 その言葉を聞いたデューダは、渡された本をぎゅっと握った。


「僕は、この魔導書を12章まで読めるような魔導士になりたい。いつか、父上にこの話の続きを話せるように・・・」

「おいおい、俺がいつ8章以降を諦めるなんていったよ(笑)まぁお前の魔導士としての才能は俺以上だ。医者になるも良し、魔導士になるも良し。

全てはデューダ、お前の選択次第だ」

 そういうとダドリは寝室に入っていった。


 次の日からダドリとデューダ、2人だけの魔法の特訓が始まった。

 エグビオル医院の裏には以前は魔導士の練習場として使用していたが、一切使わなくなっていた修道場があり、そこで2人は魔力の特訓をしていた。


「デューダ!!魔力とは流れなんだ、流れる川をイメージして力を抜き、魔力を練るんだ」

「はい、父上!」


 デューダの飲み込みは早く、初めて2週間ほどでトビーの冒険 第3章も読めるようになっていた。デューダは順調に成長していき、半年経った頃には、魔力を練るだけでなく、魔法も使えるようになっていた。


そして、その日も変わらず夜の特訓を約束していたのだが、ダドリは修道場には来なかった。

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王立ヴァルキュリア魔法高等学校 対魔獣専門学部 ☆くらっしー☆ @kurara477

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