第4話 10種の地獄

「昨日は凄い人達だらけだったなぁ・・・今日から授業が始まるみたいだけど正直、僕なんかが付いていけないんだろうな・・・はぁ」


 目覚めてから常に憂鬱な気持ちが続いていた。


 死ぬ可能性があること、自分が魔法を使えないこと、何よりもクラスメートと自分との空気感の違いをトマリンは思い知らされていた。

 ただ、憧れであった王立ヴァルキュリア魔法高等学校には通いたいという気持ちもあり、相反する2つの気持ちが渦巻きながら、B3-2クラスに向け登校をしていた。


「ねぇねぇ!きみっきみ!!」

 驚いて振り返ると、金髪のお調子者っぽい青年が話しかけてきた。


「びっくりしたぁ。君は昨日、後ろの席のほうに居た人じゃないか」

「そうそう!昨日の話で、先生が4割は死ぬって言ったときにさ、怖くなって周りを見てみたら、みんな平然としてんの!で、君だけが俺っちと同じように震えてるから仲間だーって思っちゃってさ」

 どうやら彼も、僕と同じで臆病なタイプらしい。


「ハハハ(笑)昨日は僕もビックリしちゃったよ。君、名前は?

 あ、ちなみに僕は泊真一、トマリンって呼ばれてる」

「俺っちは、イワン・リーズベルト、イワンって呼んでちょ!よろしく!」

「こちらこそ、よろしく!」

 アイオンに対しては尊敬の念が強かったのもあり、僕は初めて、友達と呼べるような人に出会えた気がした。


「それはそうとトマリン、同意書どうするの?正直俺っちは悩んだんだけど、ママっちがビーストソーサーなれ!なれ!、うるさいのよ。だから出そうかなとは思ってるんだけど・・・」

「うーん、僕も同意書に関しては凄い悩んでるんだ・・・僕なんかがクラスメートに付いていけるとも思えないし・・・」

 僕の弱音を聞いたイワンの目には涙が溢れていた。


「頼むよぉぉ、トマリン!一緒に同意書出しにいこうよぉぉ。正直1人じゃ心細いしさ。死ぬときは一緒に死ぬて約束するから。ね?」

「え、ええ・・・どうしようかなぁ・・・」


 そんな会話をしているとB3-2クラス、対魔獣専門の教室に到着した。

 相変わらず、クラスの雰囲気は殺気立っている。

 先ほどまで、あれほど威勢の良かったイワンは、借りてきた猫のように縮こまっていた。

 僕は自分の席に向かう途中にアイオンの元まで行った.



「おはよう、アイオン君」

「あぁ、元気か?」

 いつものようにクールな姿だが、どこか彼には温かみを感じる。



「済まない少年。そこをどいてくれないか?」

 振り向くと、黒髪ロングヘア―の長身美女がそこにいた。

 僕は一目で心を奪われた。


「どうかしたか?私の顔に何かついているのか?」

「いっいや!何でもありませんっ!!」

「そうか、そこは私の席なんだ。正直言うと、早くどいて欲しいのだが」

「すみませんでした!!」

 猛スピードで僕は、その場を離れて自分の席に着いた。


 ギャハハハ (クラスメートの嘲笑う声)


「ト・マ・リ・ン!君、もしかして一目惚れぇ??」

 ニタニタした顔で、イワンが僕に問う。


「違うよ!!違う!!そんなんじゃないやい!!」

 僕は赤面した顔を隠していた。



 ガチャ


「はいはい、着席着席―っと!」

「よーしお前ら、全員いるな?早速、今からなんだが体力測定を行う!全員、裏のグラウンドに集合してくれ!そいじゃ!」

 ウィルバットは入ってくるやいなや、そう言うと教室から出ていった。



「おいおい、グラウンドにしては広すぎやしないか?」

 とてつもない広さのグラウンドが目の前に広がっていた。

 向こう端のフェンスが、微かにあることがわかる程度にしか見えない大きさになっているほどだ。


「流石は、ここ王立ヴァルキュリア魔法高等学校てところですかね。確か僕の記憶が正しければ学校の敷地面積だけで約32㎢、小さめの都市面積くらいあったはずですが・・・これを見ると納得せざるを得ないですね。」

 眼鏡インテリイケメンのデューダが知識を誇示しつつも、少々驚いた様子で話した。


「はい!注目注目―っと!」

 ウィルバットがメガホンを使って話す。


「今からお前らには、マラソンを行って貰う!このロープの外側1週を走ってくれ。距離にすると約10kmだ。

ちなみに、このロープの内側を通ると電流が流れるから、くれぐれもズルをしようなんて考えるなよ?過去2人ほど、これで死んでるから気を付けてくれ」


「それじゃ、よーいドン!!」

 パァン!!


 ウィルバットの合図とともにリツコがスターターピストルを撃った。


 ダッダッダッダッダッ(全員が走り出す音)



「さぁてと、ただのマラソンだと思ってくれるなよ・・・」

 ウィルバットはそう言うと、校舎へ戻っていた。



 王立ヴァルキュリア魔法高等学校 対魔獣専門学部では、この10kmマラソン、別名“10種の地獄”は新入生に向けた伝統行事となっている。

 このマラソンが10種の地獄と呼ばれる所以は、1kmごとに様々な罠が施されているためである。

 見た目上は、魔法によりカモフラージュされていることで、一見すると何の変哲の無い広いグラウンドのようにの見えるのが特徴である。

 発動する罠は、そのエリアに入った者のみを対象として発動し、エリア外の者から見ると被験者が何事もなく走っているように錯覚する魔法がかかっている。



 銃声が鳴ってから、勢いよく走りだしたのは、ターザンの格好をした男だった。

「ふっマラソンか、俺の超得意分野だ。野生で育った俺の脚力は、どんな魔獣にも引けを取ることはないっ!ここで誰よりも早くゴールをして、評価を上げておいてやるぜ!!」



「いやぁー彼めちゃくちゃ足早いねー、やっぱり裸足のが軽くなる分良いのかね?」

 イワンが感心しながら、靴を脱ごうとする。

「そんなことはないと思う・・・小石とかあると思うし、靴履いたほうが良いと思う・・・」

 僕がイワンの靴脱ぎを止めた時、横にいた黒髪ロングヘア―の長身美女が呟いた。


「恐らくこれは普通のマラソンではないさ、少し様子を見たほうがいい」

「は、はいぃぃぃぃ!!!」


 僕は、バカでかいグラウンド全体に響き渡るくらいの大声で返事をした。

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