第3話 覚悟の違い

 ―――「まず始めに伝えて起きたいことは、ここ対魔獣学部の卒業率は例年、入学時の2割ほどということだ」―――


 ウィルバットが放つ言葉により、クラス全体に緊張が走った。


「卒業出来なかった全員が全員、嫌な理由って訳ではないから安心してくれ。

彼らの内訳を話すと、適性に合わないと思い、自ら自主退学もしくは、別の学部へ転学するものが2割、強制退学が1割、ケガなどによる再起不能が1割、残りの4割は・・・」


「死亡による除名だ」


 内訳を聞いた生徒の反応は、僕のように怯える人もいれば、不敵な笑みを浮かべる人、まったく微動だにしない人など様々であった。

 その状況下で、眼鏡インテリイケメンが口を開く。


「在学中になぜ死亡率が4割を超えるのでしょうか?その点が甚だ疑問に思わざるを得ないです。プロの魔導士なら兎も角、僕らはまだ学生だ。詳細に教えて頂きたい」

「ええと・・・君の名前はデューダ・エクビオルだったね。まぁ落ち着いてくれデューダ。さっきのは前置きで大事なのはここからだ」


「確かに、死亡率に対して疑問を持つ者は多くいると思う。死亡した生徒の内の大半は課外演習時によるものだ。

ここ対魔獣専門学部では1年の内の約8か月を課外演習として、実際の魔獣との戦闘訓練に費やしている。まぁ最初の数回は低種族しかいない学校所有の演習場で行うが、それ以降は本物の魔獣被害事件を対応してもらうことになる。

対魔獣被害事件というのは、件数の割に人手不足なのが実情なんだ。それも相まって学生に教育という名目で事件解決をしてもらうのが国の方針でもある。

ただ、君たちに振り分けられる事件は基本ゴブリンだったり、キラービートルみたいに低級~準中級ばかりだから、そこは安心してくれ。

とは言っても相手はれっきとした魔獣だ。ちょっとの油断が命取りとなり、死亡するというケースが最も多い」


「そうした数々の試練を乗り越えた先に対魔獣特化魔導士、通称ビーストソーサラーの道が開けるのだぁぁぁぁ」

 ウィルバットは長文の台詞を噛まずに言えたことで、歓喜の表情を浮かべていた。


 その後、最前席の生徒達へ書類を渡し、後ろに1部ずつ配るよう促した。


「今、君たちに配ったこの書類は、所謂、怪我および死亡同意書ってやつだ。プロでもない君たちには、そこまでのリスクを負う義務もないし強制でもない。そういう可能性も高いということを考慮にいれた上で吟味してくれ。

期限は一週間ほどだ。仮に同意をしない場合は、対魔獣専門学部からは出て行ってもらう事にはなるが、特例措置として、別学部への編入が認められている。無論全ての学部というわけではないから注意が必要だ。

対魔獣でなくても、創成魔法を用いた建築業、炎熱魔法を用いた飲食業や製造業などなど、社会の役に立つ魔法なんてものは幾らでもあるし、ここ王立ヴァルキュリア魔法高等学校では様々な職種に応じた魔法教育を行っている。それらを考慮した上で回答してもらえばいい。」


「とまぁ、俺からの業務報告は以上だ!各自検討してくれ。

 ちなみに今日はこれでお終いだから、帰宅していいぞー」


 ウィルバットが話終わると同時に、アイオンが席をたった。

「ん?どうした?何か不明点でもあるのか?」

「俺は同意済みだ。サインも書いてある」

「親御さんへの説明は良いのか?」

「当たり前だ!全て承知の上で来ている」

「なるほど、おっけい」

 そういうと、ウィルバットは、アイオンの同意書を受け取った。


「先公よろしく~~」

 ギャルのような見ためのピンク髪女が後に続く。

 他の生徒も数々と同意書を教卓に置いていき、次第に教室から退室していった。


「他の者はいいか?俺はもう戻るけど・・・出したい奴がいれば教卓の上に置いといてくれ。あとやっぱり辞めたい奴も1週間以内なら受け付けるから、よろしく!」

 そう言ってウィルバットとリツコは退室していった。


「25名中18名が即座に同意書を提出するとは、なかなか今年は粒揃いじゃないか?リツコちゃん」

「そうですね・・・特に真っ先に出したアイオンとかいう少年。彼には計り知れないポテンシャルを感じました」

「そりゃ名門シュタッド家の御子息だからなぁ。でも、なんで彼がここにいるんだろ(笑)アイオンも良いけど、俺が一番気になったのは・・・」



「え、僕はどうしよう・・・」

 泊真一は悩んでいた。

 ここにいる生徒達の大半はすでに覚悟がある者達だった。



 泊真一、通称トマリンは想像とは全く違った入学式を経験し、今後の不安を感じつつ、アイオンと共に帰り道を歩いていた。


「アイオン君、君は本当にすごい人なんだね。あの場で真っ先に提出するなんて、僕には考えられないや」

「あたり前だろ。俺に限らず大抵の奴らは、命を懸ける覚悟をしてから、あの場に来ている。他の奴らの雰囲気から察するに、魔獣による被害を受けたとか、家族が魔獣に襲われたとか各々が各々の事情を持って入学をしているとかそんなとこだろうな」

「確かに、言われてみればそうだよね。彼らの好戦的な雰囲気は普通ではなかったし・・・そういうアイオン君は、なんでここに入学したの?」

「あぁ俺か、俺は元々プロのビーストソーサラーだった。国家ライセンス自体は持ってないけどな」

「え!?アイオン君てプロの魔導士だったの!?」

「あぁ、俺は代々魔獣狩りを生業とするシュタッド家に産まれたことで、幼い頃から家族の手伝いの一環で魔獣を狩っていた」

「だから、あんな凄い技が使えるんだね。でもなんで、学校に入ってまで王国所属のビーストソーサラーになろうとしてるの?」


 アイオンに対して疑問を感じた。通常、ビーストソーラーの仕事の受注形態は、①王国所属となり、国から仕事を請け負う②私設ギルドに所属し、依頼をこなす③個人間で直接、依頼人とやり取りをするの3パターンであった。

 アイオンの家系であるシュタッド家は③の最も稼げる方法で業務を受けていたからだった。


「俺は、心底家業に対して失望している。魔獣狩り業界てのは腐っているんだ。金で動く連中ばかりで、本気で魔獣退治を行っている魔導士なんてのはほとんどいない。

魔獣被害で苦しんでいる貧しい村や、人々を助けようなんて気持ちは一切ないのが現状なんだ。俺は産まれながらにして、そうやって突っぱねられる依頼人を数多く見てきた。

救いを求め、拒否される彼ら目には魔獣と魔導士に対する恨みの憎悪が煮えたぎっていた。

しかし、当時の俺じゃあどうすることもできなかった・・・」


「俺は王国直属のビーストソーサラーになり、本当に救いを求める人々のために戦いたい。それが俺の夢なんだ」


 アイオンの目はどこか遠くを見ているようだった。


「すっ、すごいや・・・僕にはそんな、たいそうな夢なんてないよ・・・やっぱりアイオン君なら凄い魔導士になれるよ!絶対!」

 自分とアイオンとの覚悟の違いに、戸惑いを隠せなかったが、必死に明るく振舞った。


「真一、対魔獣は生半端な覚悟でやらないほうがいい。自分の命が危険になるってのも勿論あるが、死にまいと抵抗する魔獣の力は人間の想像を遥かに超えてくる。

それでもやるのであれば、それ相応の覚悟を持たないといけない」

 そういうとアイオンと僕は別々の帰路に向かった。


 このまま帰って良いのかという不安の中、僕は勇気を振り絞って口を開く。

「アイオン君待って!!僕にも剣技解放の技を教えてよ!!」



「あー悪い、今から美食ヒーロー デリシャスマンの再放送あるから帰るわー」

「この流れで、断る奴おる!?!?」

 僕の声が夕暮れの丘に響き渡った。

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