第17話 孝俊と空翔を天秤に

私はずるいと夏楓は感じていた。


同棲している彼氏がいながら、バイト先の子と交際している。

同時進行で付き合ってるなんて、これが結婚していたら、不倫で裁判沙汰だ。

まだお互い独身で訴えても法に触れてはいない。それをわかったうえで今の状況になっている。その状況になりたくてなったわけじゃない。関係を断つ理由が見つからないだけ。2人は知らないから、まだ平気だと思っている。バレたら大変なことになるって知っている。でも続けるのは、心のよりどころをその時々で見つけてしまったから。どんな場所、どんな時も心を満たされていたいから。孤独になるのが嫌なんだ。大学では女友達と常に一緒、バイト先では孝俊がいる。別れる前は空翔がいた。どの状態でも注目されてる自分が好きだと思っていた。だが、友達の助言でやめた方がいいと言われた。道理に合わない。みんな傷つく。その言葉にㇵッと気づいた。結婚を前提に交際して同棲したが、蓋を開けたら違いましたはよくあるかもしれない。恋愛と結婚は別物だ。なおさら、生活しなければならない。もちろん好きであるのは絶対だが、見たくないないもの関わらなくてはいけないこともたくさん増える。綺麗なところばかりではない。首をしめつけられるような嫌なことも目をつぶることもあるだろう。それが無い人もいるかもしれない。勢いで結婚してしまう人もいる。授かり婚で子供がいることで結婚が決定しまうこともある夫となるべき人をどういう人か知らずにして事が進む。そうではない。ただ単に、3年付き合ったからと言う理由で同棲が決まった。

 別れを告げてから、全然傷ついていないわけじゃない。ほんの一瞬でも愛し合った関係でもある。性格の不一致というのだろうか。お互いの動かすべき歯車が狂い始めたのは小さな嘘がきっかけかもしれない。一緒に住み始めた瞬間のあの時、空翔にコーヒーを嫌いだなんて言わなければよかったと。コーヒーメーカーや本格的な道具を一式そろえていたにも関わらず、空翔の前で飲めなかった。それだけは空翔に飲んでほしくて自分が作るからと懇願したからだ。カフェでバイトしてるって教えていたのに疑問に思わない空翔もおかしい。作る専門だと勘違いされていたらしい。空翔の考えていることはよくわからないと思いながら、孝俊の前で思いっきり素のままで過ごしていた。


「夏楓、どうした?」

 

 休憩室のロッカーの前、ため息をつくのを見られていた。


「ねぇ、孝俊は料理するの好き?」

「何、急に。前にも言わなかったっけ。俺は作れません。カップ麺にお湯注ぐとか、レンジで冷凍食品温めるくらいしかできないって言わなかった?」

「あ、そうだっけ。そういうの聞くとさ、母性本能っていうかやってあげたくなるんだよね」

「え、そうなん。んじゃ、また作りに来てよ」

「うん、今度ね」

 

 空翔とまだ付き合っていた時、ちょっとずつ下調べしていた。空翔とは違う人を選ぼうと考えていた。掃除ができなくて、料理もできなくて、ほとんどのことを夏楓に任せてくれるのかという確認を全部してから正式に乗り換えようとしていた。家電製品のメリットデメリットを店員に確認する作業みたいだ。実際は人だから全然違うものだが、たいして、高学歴でもなければ高身長でもない。高給料でもない2人を品定めしている自分がばからしくなってくる。何を基準に選んだかって気が合うかしか考えてないのに、今更天秤にかけて決めるなんてひどい女だなと自分で自分を戒めた。

 そんなことしなくてもすでに心は孝俊の方に揺らいでいるのにどうして後ろ髪ひかれるのだろうか。


 空翔の魅力ってなんだっただろう。

 頭の中でずっとループしつづけていた。




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