第18話 プールに行くには水着は必須

 彼女の水着姿が見たいと思うのは純粋で下心がないのは嘘になる。

 けれども、ほかの誰かに水着姿を見せびらかすのもいかがなものかなと思いながら、レンタカーを借りて、ショッピングモールに水着を買いに行く。

 空翔も学生の体育のプール以来、水着を着るという機会はなかった。新調しようと水着コーナーで吟味した。男子の水着は別に変り映えしない。形はハーフパンツタイプがほとんどで色が派手か地味か。なるべく目立ちたくないので、紺色の世界的有名なねずみのシルエットの柄を選んだ。子供っぽいだが、おしゃれであってほしい。そんな思いからチョイスした。遊び心は大人になってからも欲しいものだ。


「夏楓? どれにするか決まった?」


 女子の水着は幅広い。ビキニやワンピースなど、男子の水着より範囲が広い。まぁ、女性は選びたいんだろうなと考えた。


「うーん。水着の種類多すぎて、選べないよ。どれがいいと思う? ビキニか、ワンピースタイプか。あ。何か、これ普段着みたい。茶色のショートパンツ着いてる……」


「確かに水着に見えないね。夏楓はこれがいいとか無いの?」


「……特に希望はないけど、サイズがあえば」


「夏楓は小柄だもんね。でも、胸が……Sサイズだと漏れる?」


「ちょっと、恥ずかしいから言わないで!!」


 夏楓はバシッと周りを見ながら、空翔の腕をたたく。


「いたぁ! ちょっと痛いんだけど……」


「変なこと言うからでしょう。本当、この体系困るんだよね。いっぱい食べてもなかなか太れないし」


「それ……世の中の女子を敵に回してるよ。うらやましいね。夏楓は食べても痩せてて。俺なんて、食べて酒飲んだらすぐぷくぷく……」


 空翔は、自分の腹をバシバシたたくが、言うほど太っていない。むしろ多少腹筋で割れている。標準体型であった。


「それ、どこら辺のこと言ってるの?」

「……?」

「まったく……本当どれにしようかな。いっそのこと普段着みたいな水着にしようかな」

「えーーーー」

「なんで?」

「せっかくの水着が水着として楽しめないよ」

「どんな楽しみを期待していたの?」

「せめてワンピースにしない? 花柄可愛いじゃん」

「……うん。まぁ可愛いけど。んじゃ試着してみる」


 夏楓はしぶしぶ空翔に渡された白で花柄が上の方に描かれた紺色ワンピースを持って試着室に入った。最初は嫌がったが、着てみると想像以上に合っていた。試着室のカーテンから手だけ出して、空翔を呼ぶ。少しだけ開けて見せた。

「どう?」

「うん。良いと思うよ。可愛いじゃん」

「だよね。これにする」

 嫌がっていた夏楓もウキウキし始めていた。水着を着て、可愛さを増して自己肯定感が上がった。プールに入るのが楽しみになる夏楓だ。


 買い物を終えて……


「空翔はどんなものにしたの?」


 買い物袋を覗いた。


「だめ、 当日の楽しみにしててよ」

「えー? 私の水着見せたのに見せてくれないの。どっちが女子よ」

「あたしよ」

 オカマ風喋り方で返答する。夏楓はどこか不満そうだ。さっと袋の中を見て、柄を確認した。


「なんだ、それにしたんだ。意外におしゃれじゃん」


 夏楓は袋の隙間から見えた空翔の水着を確認して、安心した。派手だったら自分より目立つなと思っていたからだ。


「あ、見たなぁ。もう、当日までの楽しみにしてもらおうとしたのに」

「見ちゃったもん」


 空翔はニコニコの夏楓のを見て満足していた。隠そうとしてよかったと思った。

 当日プールに行くのを楽しみになろうと思った。


◇◇◇


 流れるプールに着いて、たくさんのお客さんに驚愕した。この男性の視線に夏楓を見せるのか。直接流れるプールに着て、水着を見るのは初めてだ。大学で水泳の授業なんてないし、学年も違う。当たり前だ。水着姿の夏楓は新鮮だ。太っている事を気にしていたが全然細かった。じっくり見るとやっぱりスタイルがいいし、胸もいい。鼻の下が伸びる。保護者になった気持ちになって、他の男には見せない近づけさせないとガードした。水玉模様の浮き輪を持った夏楓は呆れた様子だ。これから泳ぎに行くというのに、空翔は夏楓の体を見せまいとしている。泳ぎどころでは無かった。

ぐるぐるまわるはずの流れるプールでバリケードつくり、流れるどころか止まっていた。何にしに来たのかわからない。いつの間にか、夏楓は1人でぷかぷかと浮き輪をつけて流れて行ってしまった。











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