第6話 名前

 そういえば、と思う。

 俺は、となりの席の少女に話しかけた。


「友達になれたのは良いことだが、そもそも俺たちはまだ、自己紹介すらも満足まんぞくにしていなかったな」

「確かに、それもそうだね」


 俺は、自身の名前を口にした。


谷岡たにおか幸樹こうきだ」

「私は、畑山はたやま優香ゆうか

「畑山さん、か」

「あなたは、谷岡くん……」


 畑山さんは、言葉をはっした。


「優香で良いよ」

「だったら俺も、幸樹でかまわない」

「い、いやいや。それは、無理だよ」

「無理?」


 つまり、俺を名前呼なまえよ出来できないと?

 それはまた、なぜだ?

 畑山さん……いや、優香は言った。


「谷岡くんの机の上に貼り付けられている、名前の書かれた紙……」

「……ああ」


 俺たち入学生の机の上には、自身の名前が記された長方形のプリント用紙が、セロテープでめられていた。

 学校側が、事前に貼り付けてくれたものだ。

 この紙が何だと言うのか?


「谷岡くんの幸樹こうきという素敵すてきな名前には、しあわせという文字が入っているよね」

「そうだな」

「だからその……私は幸せを頻繁ひんぱんに意識すると、たぶんまぶしすぎて死ぬ」

「――理屈りくつが分からん」

闇属性やみぞくせいは、光属性ひかりぞくせいに弱いということ」

「――よわすぎるだろ」

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