第3話 美少女、出現。

 入学式が始まる前――。


 俺は、これからお世話せわになる教室の中に、足をれ、自身の椅子いすに着席していた。

 本日から一年間、苦楽くらくともにするクラスメイトたちが、すでに八割くらい(パッと)集まっている。

 それぞれが、せきこしろしていた。


「…………」


 半数以上の生徒は、知り合いがいないからか、緊張きんちょうした面持おももちで待機たいきしている。

 俺は、そんな光景を確認して、安心していた。


 ――俺と同じ感情の人が多数派たすうはで、良かった……。


(しかし、今の状況下じょうきょうかで俺は、何をするのが正解なのだろうか?)


 と、考える。


(少なくとも、行動は早いにしたことは無いよな。気づけば一週間後には、俺以外の人たちは友人を獲得かくとくし、俺だけがクラスのはしっこきになっていました、なんてオチは笑えない)


 だがしかし、だった。

 根幹こんかんは、いんキャラの遺伝子いでんしつかさどる俺である。

 妄想もうそうの中でのまわりは優秀なものの、現実は完全なる雑魚ざこだ。

 現段階げんだんかいで誰かに話しかける必要性ひつようせいは無いだろうが、本格的に授業の始まる明日あしたには、何かしらのアクションが不可欠ふかけつであると考えられる。


今更いまさらだが、自信がしぼみそうだな)


 早速さっそく、これからの不安に、俺の意思がらぎ始めていた。


「…………」


(いや、弱気よわきになってどうする? 何のために、中学時代の俺と決別けつべつした? それは、充実じゅうじつした高校三年間を、過不足かぶそくなく送るためだろう。勇気という概念がいねんは、必須要素ひっすようそだ……!)


 自分で自分に、言い聞かせる。

 そんな俺の横を、一人の少女が通り過ぎた。


「――っ」


 そして、俺の意識はその少女にせられる。

 それは、彼女の顔の良さが、一段いちだん目立めだっていたからである。


 うす茶色ちゃいろみのかかった、セミロングヘア。

 顔つきの整った、童顔どうがん

 圧倒的美少女、と呼ぶに相応ふさわしい容姿ようしをしている、女子生徒……。


 さらに彼女は、俺のとなりの席に座った。


(ま、まじか……)


 所詮しょせん、男という生き物である俺。

 うれしさというものが、心のおくからがってくる。


「あ……あ……」


 少女は、口をパクパクさせながら、俺の顔を見てきた。


 ――ドクン!


 鼓動こどうが、波打なみうつ。


「あ、あの……」


 そして、彼女は言葉をはっした。


「あなた……私に、死んでくれないかな? とか、思っていました?」

「…………」


 ――いや、なんでそうなるん?


 即座そくざに、思い浮かべられたツッコミだった。

 これが、俺とけい少女しょうじょの、最初の出会いである。

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