第158話 クルーラ学園長
「お久し振りです。クルーラ学園長。」
クルーラと呼ぶ老エルフに恭しく一礼をし、胸の前に親指と人差し指を交差させたポーズを取るキラスティ。
ヤマトは驚いた。
キラスティの取ったポーズは、エルフ特有の目上に対しての最上級挨拶だ。
人族で言えば、頭を下げる……もしくは膝を曲げて頭を下げるくらいのレベルだ。
魔法軍団長といえば、かなりの高位なはず。そのキラスティが、ここまで敬意を示すとは、魔法学園長の位の高さが知られる。
改めて、学園長の顔を見るヤマト。
(学園長?じゃあ、この老人が有名な、エルフ魔道を極めし者……。)
事前に、ルシナから教わっていた情報をヤマトは思い起こす。
・
・
・
【エルフ魔導】
一言で片づけるのであれば、エルフが得意な『精霊魔法』のことである。これらをエルフ達が、通常魔法よりも”格が高いもの”として名付けたもの。その呼び名が『エルフ魔道』である。魔法種別は大きく4属性。土・火・水・風の主4属性だ。それ以外にも(数は少ないが……)、闇・光・精霊・固有(オリジナル)などがある。これらも立派な『魔法属性』である。しかし、魔法学者の中には「これらは魔法属性として分類すべきではない。」という意見がある。定義上、魔法とは魔力を元に現実世界に作用する超常的な技である。一方で、精霊・固有については魔力を使わないことが大半であり、この定義から外れているというのが理由である。
・
・
・
そのエルフ魔導(精霊魔法)を、水・風を最高位まで高めた魔法使いが居た。
それが、クルーラ・オブ・トールスナ。である。
年齢は、1700歳。
エルフ族の寿命は、部族による700〜2000年と開きがある。しかし、1700年は間違いなく高年齢の部類だろう。
通常のエルフであれば、引退……もしくは介護が必要な年齢である。
しかし、クルーラの魔法と身体健康状態はいまだ健在である。
腰は若干曲がっているものの、身長180cmの肉体は張りと躍動感を持っていた。
さらに特徴的なシルバーアイは、キラキラと好奇心と探求心を持つことを証明していた。
全盛期ほどではないにしろ、実際そこいらの冒険者や魔法使いが、束になってクルーラを襲っても到底敵わないだろう。
クルーラはいくつもの称号を持っている。ドラゴンスレイヤー・精霊王のお気に入り……などなど。
その中で、特に有名な称号が『エルフ魔道を極めし者』だ。
これは精霊魔法を最高位レベルまで習得したことの証であり、エルフによってはこの上なく名誉な称号である。
エルフにとって、精霊魔法は特別なものなのだ。
その生きる伝説、クルーラ・オブ・トールスナがそこに居た。
「ふぉ、ふぉ……。キラスティや。元気かの。噂はここまで聞き及んでいるぞ。」
「は、先生もご壮健で何よりです。先生に教わった技術を証明できればと思っております。」
「ふぉ!ふぉ!お前は、若いときから才能があった。ワシは何も教えておらんわい。」
「いえ……。そのような!」
キラスティが”心外”という顔をしたところ、クルーラは、手で制した。
「ところで……、そこにいる坊やが例の?」
クルーラは、興味深げにヤマトを見やった。
「はい。そうです。おそらく姫様の……。」
「そうか……。」
二人に見つめられて気まずいヤマト。
「え……、えっと?」
やがてヤマトの目の前に立つと、クルーラはヤマトの目を覗き込むような姿勢を取る。
まっすぐに見つめ合う二人。
美女と見つめ合うなら、まだしも。皺皺の老人と見つめ合うことに違和感で満たされるヤマトだったが、不思議と嫌では無かった。
しばらくすると、クルーラは笑った。
「ふぉ!ふぉ!これは凄い、才能の塊じゃ。それに……この種族は……」
「……(ま、まさか俺の種族を)!」
何かを口走ろうとしたクルーラだったが、口を閉ざした。
「ここでは止めておこう……。」
クルーラは、パチリとヤマトに片目を閉じて笑った。
「……は、はぁ。」
老人にウィンクをされたヤマトは、主導権を握られっぱなしだった。
クルーラは、キラスティへ振り返る。
「ところで、決闘と聞いたが……?キラスティよ。」
「はい。このアズームと、ヤマトで決闘をさせたく。」
「…………。」
眉間に皺を寄せて、無言になるクルーラ。
(よ、良かった。止めてくれそうだぞ。)
それはそうだ。まだ入学前の学生と、こんな10歳の子供を戦わせるなんて、学園長の立場上、許可を出す訳がない。
期待を込めた瞳をクルーラに向けるヤマト。
しかし、回答は予想を大きく裏切った。
「それは面白い!ワシも見てみたいぞ!闘技場へ案内しよう。訓練場では少々、目立たないのでな。」
「……えぇ!?」
反対どころや、賛成……しかも見学までするというクルーラ学園長。
(しかも、さっきのセリフ。訓練場だと目立たないから、闘技場へ案内するとか言ってなかったか?このジジイ!)
こうして、ヤマト達は学園内に設置された、屋外型巨大闘技場へ連れられて行った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます