第156話 美しき魔法軍団長 キラスティ

「キラスティ先生!」


アズームが驚きの声を上げる。


(キラスティ?)


ヤマトが、ツカツカと歩み寄る女エルフに視線を向ける。


長いマントをたなびかせ、銀髪の美人エルフだ。


身長は、170cmを少し超えるくらいだ。人族からしたら高いが、エルフ族からすれば平均的な身長と言える。


「こ、こんなところで魔法軍団長に会えるなんて……!」


アズームは感動したかのような声を上げると、慌てたように膝をついた。


「……軍団長?」


ヤマトは驚いた。


エルフ王国の軍力……、とりわけ魔法軍の戦力に絞れば、エルフ王国龍族に次いで世界第二位である。その魔法軍のトップにあたる人が、このうら若き女性エルフだと言うのだ。


キラスティと呼ばれた女エルフは、ヤマトのほうをチラリと見たうえで驚いた。


「な、君は……人族なのか?その容姿は……。」


どうも、ヤマトの容姿を見たうえで驚いているようだ。


「え……っと……、俺の容姿が何か……?」


ヤマトが首を傾げて、そう尋ねるとキラスティは笑った。


「自覚が無いのか……。」


「自覚?」


「はっはは!失礼した。君の容姿は、ちょっと驚きだ。ここまで美しい子供を見たことが無いのでな。」


「う、美しい?」


「そうだ。君は自覚が無いみたいだが、エルフの姫や王子でも、ここまでの容姿を備えていない。君は人族なのかな?」


「はぁ。ルシナに連れられて……。」


「ルシナ?ああ、翼竜隊の隊長だな、良く知っているよ。」


「そ、そうですか。」


ヤマトはホッとした表情になった。ルシナのことを知っている人が居れば心強い。


しかし、キラスティは若干不思議そうな顔をしていた。


「あの……?何か?」


「ルシナ君が連れて来たと言ったか?」


「は、はい。」


「おかしいな、彼女は王の密命を受けて作戦進行中であるはずだが……。」


「密命?」


「うん!君!?その腕にあるブレスは!?」


キラスティはヤマトの右腕にはめられている、月の糸のブレスを見て驚いた。


「ああ。これは月の……。」


ヤマトがそこまで言うとキラスティは、驚く。


「ま、まさか。姫様の言っていた……。」


「姫?」


ヤマトは何気なくチラリと、横で膝をついているアズームを見た。


ここまでヤマトとキラスティは、アズームをまったく無視する形になっているのだ。ヤマトはちょっと気になってしまった。


そして、アズームの目とヤマトの目が合った。


「……!」


アズームの目は、憤怒の炎で満たされていた。


ギリ……ギリ……と、言った感じでヤマトを睨んでいる。


驚くヤマト。


「えっ……!?」


ヤマトがたじろぎながら尋ねようとすると、アズームの声は低かった。


我慢ならん!と立ち上がるアズーム。


「貴様!私の憧れの存在であるキラスティ様に馴れ馴れしく!」


今にも収めた剣を抜刀しそうなアズーム。


喧々諤々であった。


キラスティは、そこでようやくアズームに声をかけた。


「待て!また暴れるつもりか!君は、魔法学園の生徒か?」


すると、アズームは表情をパっと明るく変えると、ワンオクターブ高い声を発した。


「はい!ブルーサファイア魔法学園の新入生のアズームです!お目にかかれて光栄でございます!」


媚びるような声だ。


ヤマトは「おえ……」と、なったが我慢した。


キラスティは笑った。


「はっは、覇気があるな!元気で宜しい。アズーム……名は覚えているぞ。たしか魔法剣士の才がある子だったな。うちの魔法軍隊長達が欲しがっていたな。」


「わ、私の名前をご存じいただけていたのですか!?感動です!」


アズームの声は天にのぼらんばかりだ。


しかし、キラスティは表情を変えて凄んだ。


「しかしだ!アズームよ。神聖な王城内で魔法を使ったことはいただけないな。」


最後のほうの声は、低い声だった。


思わずたじろぐアズーム。


「そ、それは……この賊が!」


ヤマトを指差すアズーム。


「お、俺は賊じゃありません。」


首を振って否定するヤマト。


「ふざけるな!引率も無しに王城に人族が入れるか!」


「だ、だからそれはルシナとはぐれてしまって……。」


「嘘をつくな!つくなら、もっとマシな嘘をつけ!」


「う、嘘じゃないですって……。もう……。」


ちょうど、二人の中間に入っているキラスティは顎に手をおいて沈黙していたが、ニヤリと笑うと二人に提案をした。


「ならば!提案があるのだが!」


その顔はイタズラっ子のような表情だった。


元が美人なだけに、ハッとするような色気だ。


ヤマトも、アズームも「ボォー……」と、腑抜けになりそうだったが、何とか持ち直した。


「て、提案とは?」


「決闘をしたらどうだね?私が見届け人になろう。」


「け、決闘!?」


ヤマトが驚くのと対照的に、アズームの顔は喜色に満たされていた。

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