第155話 魔法剣士アズーム
「え?」
「お前!人族だな!この王城へどうやって入った!」
剣を構えるエルフは美形だ。総じてエルフは美形だが、このエルフは特に整っているように見える。年齢は10代に見えるが、これは当てにならない。エルフは長命種族だ、10代のように見えて50歳とか100歳とかあり得るのだ。
キリリとした眉と、線の太い顎から判断するに、男性なのは間違いないようだ。
「えっと……。」
ヤマトが、殺気立っているそのエルフを観察する。
「…………。」
白い軍服を着ている。軍の人間なのだろうか。
しかし、軍服にしてはやけにスタイリッシュというか……、デザイン性が高い。白を基調としているが、青いラインがつめ入りから肘に向かって走っている。
(ルシナとまた違った服装なので翼竜部隊ではないようだな。)
ヤマトはそう思った。
さらに観察するにスラリとしたスタイル。腕は細い。とても剣士には見えない。どちらかと言えば、魔法使いに見える。
どうやらヤマトを侵入者か何かと勘違いしているようだ。
「怪しい奴!ひっ捕らえてやる!」
ヤマトは苦笑いをする。
「ちょ、待ってください!俺は怪しい者じゃないです。」
「何を笑っている。この!####!」
「……!」
ヤマトは仰天した。
エルフは高速詠唱を行い、剣に赤い炎を纏ったのだ。
「ま、魔法剣士!」
魔法剣士とは、魔法と剣を融合させて戦う者のことだ。
魔法使いのスキルも持ち、剣士の技量を持つだけではなく、剣自体に魔法を付与させる付与スキルも持つ必要がある。
そのため、かなりのレアジョブだ。
レアだけでなく、戦闘能力も総じて高い。
魔法使いは遠距離でこそ本領を発揮する。しかし接近戦は弱い。
これは詠唱時間もあるが、魔法自体が射撃系が多いため仕方のないことと言えた。
その弱点を補うのが、魔法剣士だ。
剣も使えて魔法も使える。これは理想の戦士の姿と言える。はっきり言えばチートだ。
「ファイア・スティング!」
エルフは「突き」の構えを取ったかと思うと猛烈なスピードで、まっすぐ踏み込んでくる。
そのスピードは通常のものではない。まるで矢のようだ。
「……!『瞬転』!」
避けられないと判断したヤマトはとっさにスキル『瞬転』を使い回避した。
ブア!
熱風と空振りをした熱風で、周囲の温度が一気に上がる。
「よ、避けた!?」
避けられたエルフは、驚きを隠せないと言った表情だ。
どうやら、かなり自信のある一撃だったようだ。
「わ、私のファイア・スティングを避けるとは!ただの賊ではないな!」
剣を正眼に構え、さらに戦闘意欲を高めるエルフ。
ヤマトは慌てた。
ここでエルフと戦うわけにはいかない。王様に会うこともあるかも知れないのに、王城でエルフを負傷させたとかあり得ない。
勝てるのか?という疑問もあるが、ヤマトは敵わない相手とは思っていない
先ほどのエルフの攻撃や魔力の高まりから、相当な使い手だとは理解できる。理解できるがヤマトの見立てでは「スキルを駆使すれば十分勝てる。」と判断している。
魔王や龍王である聖龍との闘いを見てから、基準が少しおかしくなっている気がするが、自分の力量と相手の力量の差を見極める力をヤマトは取得しはじめていた。
「ちょっと待ってくれ!俺はルシナと一緒にここに来たんだ!」
「ルシ……ナ?何だ!私は知らんぞ!」
「し、知らない?」
これは困った。
今まで王国の兵達は、ルシナのことを良く知っていた。それを見て、ヤマトはルシナはエルフ王国内で有名人と思っていたのだが、知らない人も居たのだ。
考えてみればあたり前のことかも知れないが、せめて今は知っていて欲しかったヤマトであった。
「ルシナという名は知らん!私は、来週にブルーサファイア魔法学園に入学するために上京してきたばかりだ!」
「……え?学園?学生ってことですか?」
「いかにも!ホワイトウルフ領から難関魔法学校に合格したエリート。アズーム・フォン・ショールナンドだ!お前こそ、私の名前を知らぬのか!?」
自信たっぷりに言うエルフだが、要は上京したての学生だということだ。ルシナの名を知らないのも当然だ。
「し、知らない。」
「な!」
ガーン!と言う表情をする魔法剣士アズーム。どうも直情に過ぎる子のようだ。
おそらく年齢も見た目通りなのだろう。
「む?お前!何か失礼なことを考えているだろう!」
「そ、そんなことないですよ。」
ヤマトが周囲を見渡すと、この騒動に人が集まりつつあった。
非常にマズイ状況と言えた。
その時だった。
「そこ!何をしている!」
「え?」
ヤマトが振り返ると、そこには漆黒の長いマントを羽織った美人エルフが居た。
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