第154話 シルフィード城で迷子
街道をクネクネと進む馬車。
商業エリアと居住エリアを抜けていくと、大きな橋に出会う。
どうやら、街の中に湖があるらしい。非常に珍しい。
「…………あれは。」
視線を先に向けると、橋の向こうには王城エリアを阻む城壁がそびえ立っていた。
城エリアの防備を完璧にするために、湖で分断しているのだ。用心深いエルフの城らしいと言えた。
その橋の入り口には、馬に乗った騎兵が2名立っている。
どうやら、王城エリアに進むには、一本道である。この橋を渡るしか無いようになっていて、橋の見張りが街の人間であろうとも侵入を許さない仕組みのようだ。
その見張り騎兵が叫ぶ。
「止まれ!止まらないと攻撃する!」
「ドー!ドー!」
橋の手前で、馬車を止めるルシナ。
「栄えあるブルーサファイア王城へ何用か!!」
叫ぶ騎兵。
どうやら警戒されているようだ。ピリピリと緊張感が伝わってくる。
「はは……またか。」
ルシナは苦笑いをしながら、御者席から降りると騎兵に話しかける。
そこからは、さっきと同じ流れ……。
途端にヘコヘコする見張り兵。
さっきも感じたのだが…、どうやらルシナは結構偉い人のようだ。
「お待たせ!」
ルシナが戻ると、無事に橋を渡れることになった。
橋を渡り切り、馬車を再び城門前で止めるルシナ。
「?」
ヤマトが不思議そうにルシナを見ると、ルシナは何かを待っているようだ。
ギギギギ……。
「あ、城門が。」
驚くヤマト。城門がゆっくりと上がっていく。
巨大な鉄の塊のような城門が開くのは圧巻だ。
ギリギリ!ギリギリ!
鉄の歯車のような音がする。
どうやら、滑車か何かで持ち上げる仕組みらしく。ゆっくり、ゆっくりと上がっていく。
辛抱強く城門が開くのを待ち。開き切ると、馬車を進めるルシナ。
無事、王城エリアへ入っていく。
馬車の窓から外を見るヤマト。
「おぉ……。」
その光景に、ヤマトは驚く。
巨大な庭園が広がっていた。
庭園中央には大きな噴水が設置されており、左右に広がる庭園が眩しい。
噴水の隅には、美しい女神の彫刻が配置されている。
噴水の先には、見事な城が立っていた。
遠目だが、左右に広がる城は、大きな塔をバランス良く配置しており、とてつもない大きさだ。
奥行きもかなりありそうだ。
どういう材質なのか、太陽の光を受けて不思議な光を放っている。
城というよりも、王宮に近い印象を受ける。
それはそれは荘厳な光景だ。
「綺麗な城だな。」
素直に感想を漏らすヤマト。
ルシナは馬車を止めて、何かを待っている。
「ルシナ?」
「ここで馬車を引き渡すんだ。ちょっと待って。ほら?馬車管理兵が来たよ。」
何名かの騎兵が馬車に近寄ってくるのが見えた。
今度は、警戒されていると言うより。単純に馬車を受け取りに来た兵のようだ。
いくつか言葉を交わすルシナ。
そして、そのエルフ兵に馬車を引き渡した。
当然に、ヤマト達も馬車から降りる。
「さぁ、ここからは徒歩だよ。」
「あの城に入っていくんだよな。」
「うん。城の名前はシルフィード。シルフィード城と言うんだ。とても大きい城だよ。」
「シルフィード城……。」
噴水の手前まで進むと、再び城を見上げるヤマト。
見れば見るほど美しい城だ。ヤマトが地球人だったときに、歴史の教科書で見たことがあるヨーロッパの城……、むしろ宮殿のようなデザインだ。
しかし、防衛戦を想定しているため、堅牢さも感じる。
城の壁には窓はほとんどない。大きなバルコニーみたいなものが設置されている程度だ。
デザインを損なわないようにしているが、弓穴がかなりの数だけ設置されている。理由は、城壁と同じだろう。
城の土台には高い巨石が積まれていた。その数段上に城の入り口がある。
あれは入り口まで上がるのは大変だ、とヤマトは感じた。あれでは敵は容易に入れないだろう。
ルシナが微笑みながら解説をしてくれる。
「このお城は、風の精霊シルフィードの加護を得られるように、と願ってつけられた名前なんだ。」
ヤマトは首を傾げる。
「王族は、水の精霊ウンディーネの加護を受けているんじゃなかったっけ?」
「あはは。そうなんだよ。今の王家はウンディーネの加護を受けているんだけど、エルフ始祖がウンディーネの加護を頂いていたようなんだ。」
「へぇ……。」
「さあ、ここに立っていても仕方ない。王城へ入ろう。」
「う、うん……。」
ルシナは先頭を切って進む。
ヤマト達は、そのままルシナに従っていく。シルフィード城に入ると、その天高に圧倒される。
アーチ状の天井には、美しい天井画が描かれていた。
城と言うと無骨な内装イメージがあるが、この城は芸術にも気を配っていることが理解できる。
どこまでも続くような主廊下の壁には、美しい彫刻や絵が飾られている。その一つ一つの芸術性は非常に高いものに感じられた。
キラキラした色ではないが、緑を基調とした美しい色合いが調和している。
ルシナが歩きながら、城の構造について説明してくれた。
「この城は、10の塔によって構成されているんだ。一つ一つの塔には厳重な門が設置されていて、簡単には進めない。」
「10もあるのか……。」
ヤマトは驚く。
「うん。まず応接塔……、ここで他国使者を迎え入れたりするよ。謁見の間が有名だ。」
「謁見の間。」
ラノベファンだったヤマトは、玉座が設置されている広い部屋をイメージした。
ルシナは続ける。
「エルフ軍が管理している軍塔、政府議会塔、。学園塔。そのほかにも細かい機能塔が密集しているけど、かなり広いよ。」
「学園塔?」
王城で学園とは、聞き間違いかと思ったヤマトであった。
「そうだよ。このシルフィード城には、王立ブルーサファイア魔法学園があるんだ。」
「し、城の中に?」
「さっきも言ったけど、独立した別塔だよ?」
「それにしても珍しいよな?」
「そう……かもね。でも、王立魔法学園はエルフ国内にある100の中でも魔法学校のトップだからね。エリートが通う学校だし、将来を担う大切な生徒なんだ。」
リリスが頷く。
「なるほどな。魔法使いは貴重じゃからな。そのエリート中のエリートだから、外部と接触の少ない王城に設立したという訳じゃな。」
「そういうこと。」
「ねぇ、ルシナ。私たちはどこに行くの?」
リーランが、ルシナに問いかけた。
ニコリと笑うと、ルシナはリーランに顔を向ける。
「うん、まずは。応接塔に向かう。そこで指示を仰ぐ予定だよ。」
「分かったわ。良かった、いきなり謁見とか言われないで。」
「あはは。さすがに王様も忙しいしね?それはないよ。さぁ、行こう!城はかなり広いし、はじめて来た人は迷うよ?絶対はぐれないようにね。」
そういうと、ルシナは慣れた足取りで進む。
ヤマトは、絶対迷わないと誓った。
クネクネと道を進み、いくつものドアを抜けていく。
そこから5分後……。
「はぐれてしまったよ……。」
ヤマトは、ルシナやリリス達からはぐれてしまった。
途中、珍しい彫刻に見とれてしまったのが間違いだった。
リリス達を追いかけたときには、見失ってしまっていた。
周囲を見渡すヤマト。
いくつもの回廊と、扉が視界に入る。
周辺を見た感じ。どこも同じような景色に映るから不思議だ。
耳を澄ますが、何も聞こえない。
途中、城の中を歩いている文官ようなエルフにジロジロと見られていて、どうも気まずい。
「ヤベ……。どうしよう……。」
迷子の気持ちをダイレクトに感じながら、ヤマトはウロウロと廊下を歩き回る。
しかし、歩けば歩くほど道に迷っている感じがした。
何人かのエルフ兵や貴族に出会ったが、どうも道を聴ける雰囲気ではない。ヤマトが近づくと、避けて逃げてしまうのだ。
エルフは警戒心が強い。それを目の当たりにしたヤマトであった。
「参ったな……。こりゃ、遭難に近いぞ。」
完全に迷子になったことを確信したヤマト。立ちすくんでいると……。ヤマトこ背中から、声がかかる。
「怪しい奴!何者だ!」
「……?」
振り返ると、そこには長剣を構える男性のエルフ騎士が居た。
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